眼帯(1)
次の日。
朝食を終えたあと、アイリスはカーネラに昨日のお茶会のことを話していた。
「グレン様、この目が恐ろしくないのかっておっしゃってた。だからね、無関心で冷徹だっていう噂は、あの目のせいなんじゃないかなって思うの。」
「そうですか……さぞお辛かったでしょうね。」
「私が、その辛さを一緒に背負えたら良いのだけれど……。まずは、グレン様から信頼していただけるような妻になれるよう、頑張らなくちゃ。」
ふふふ、と笑うアイリスは、カーネラにはとても美しく見えた。
「わたしも応援しています。」
「うん、ありがとう。」
アイリスの笑顔を見て、カーネラも笑顔になった。
「手始めにね、前髪をくくってみたらどうかなって思って、昨日くくってみたの。とても可愛らしかったのよ、グレン様!」
(手始め…?)
アイリスの頑張る方向がなんだか違うような気がしないでもないが、カーネラは突っ込まなかった。アイリスが嬉しいなら、それで良い。
「……そう言えば今朝、殿下が前髪をあげていらっしゃると聞きました。直接見たわけではないのですが、本当だったのですね。」
「えっ? それ、本当…?!」
アイリスは目を輝かせてカーネラに言った。
「はい。みなさん、とても驚いていらっしゃるとか。」
カーネラも笑顔で、返事をする。その言葉を聞いて、アイリスは神妙に何かを考えた後、右手を握りしめて言った。
「……カーネラ、私、今からグレン様のところに行ってくるわ!」
「え?! お、お待ち下さい姫様! 今は、行かないほうがよろしいかと……」
「……え? どうして?」
部屋を出る気満々だったアイリスは、動きをとめて、振り向いた。
「今は、剣技場で稽古中だと伺っております。だから、あの……」
カーネラは言いにくそうに、目を泳がせた。
「……あ、そっか。……お仕事の邪魔したら、余計に嫌われてしまうよね。」
寂しそうに言うと、アイリスは椅子に座り直した。
はぁ、とため息をつくアイリスを見て、カーネラは考えを巡らせる。アイリスがグレンと仲良くなりたいと言うのなら、その望みを叶えるのが自分のするべきことだ。
「姫様。今日は確か、仕立屋が来て下さる日でございましたね。」
できることが、あるかもしれない。カーネラは笑顔になった。
「……ええ、結婚式のドレスを仕立てて下さるみたいだけれど…?」
「私に、良い考えがあるんです。聞いて下さいますか?」
「……良い考え?」
カーネラは頷くと、アイリスの手をとった。
* * *
数時間後。
アイリスは剣技場に来ていた。
今日は、グレンが剣の稽古を担当しているらしい。侍女たちから得た情報によると、もうすぐ剣の稽古が終わる時間ということなので、アイリスはグレンを迎えに来たのだ。
ただ、堂々と中に入ることはできなかったようで、建物の影から剣技場の様子を覗いている。端から見れば、怪しいことこの上ない。
ここに来るまでに城でつとめている者に会ったし、すぐ近くに衛兵もいるが、誰にもなにも言われなかった。おそらく、ここにいても特に問題はないのだろうと思い、カーネラはなにも言わず側に控えていた。
「――か、可愛い…!」
急に目を輝かせたアイリスの視線の先には、眼帯をつけて前髪をくくり、剣をふるっているグレンがいた。