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猫の皮を被った獅子 その3

 筋張った手でレオナールが襟を緩める仕草に、不覚にもどきりとした。我に返り視線を上げると青灰色の瞳とぶつかる。

 彼はふと表情を緩め、左手の人差し指で軽く私の頬をなぞる。

「ここでいい?」

「な、にが?」

 言葉の意味に気付いていない振りをした。けれど、多分レオナールにこの嘘は通じていないだろう。彼の表情は、まるで猫が弱った獲物を殺さずに前足でいたぶって遊んでいる様に楽しそうだ。


「ここで抱いてもいい?」

 直接的な言葉と真剣な視線で繰り返された台詞に、心臓の鼓動と思考が一瞬止まる。「ダメ」と言えば良いだけなのに、頭ではわかっているのに、どう答えていいかわからなくなっている時点で私の理性はほぼ失われていたと思う。

 

 混乱して口籠っているとレオナールは性急に答えを求めた。

「何も言わないなら了承とみなすけど――」

 僅かに残る理性が私の口を開かせた。

「ダメ! こ、ここではダメ――って、そうじゃなくて、何処どこでもダメだから!」

 間をあけず言葉を訂正した私に彼は「残念、引っかからなかったか」と苦笑した。


 あ、危ない。言質げんちを取られるところだった。

 今の私にしてはちゃんと答えられたと思う。自分で自分を褒めてあげたい。


 安心する間もなくレオナールの左手は頬から顎、首へと徐々に下へ移動していく。鎖骨から胸、腰、太腿へゆっくりと優しく動き、同時に彼の唇は私の首筋を攻める。

「や、ぁ――ダメだって言ったのに!」

 自分の意志とは関係なく体の奥が疼き始めてきてしまったことに焦る。

 彼は上体を少し起こして微笑んだ。

「大丈夫。優しくするから」

「だ、大丈夫じゃないし、そういう優しさを今求めている訳では――」

 レオナールは意外そうな顔になり、次の瞬間口の端をつり上げた。柔らかい青灰色の瞳が、無慈悲で鋭利な光を纏い始める。

 その表情を見て、これが彼の本性なのかもと思った。

「激しい方が好きなのか。じゃあ遠慮なく――」

「ちがーーーう!!」


 会話が斜め上にいきすぎて成り立たない!


 話の通じないレオナールと堕ちかけている自分に諦めかけていた時、彼の動きがぴたり止まった。

 居間に微妙な沈黙が流れる。

 レオナールは険しい顔で視線だけを玄関の方へ向けた。けれど私の視線に気付くと表情を和らげ、肩を落とし大きく息を吐いた。

「残念。時間切れだ」

 ようやく私の手首の拘束を解いて上半身を起こした。

「続きはまた今度ね」

「続きはないっ!」

 やっと自由になれた私は、自分の頭の下にあったクッションを爽やかな笑顔に投げ付けた。


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