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師匠と弟子と召喚獣 その1

 紹介したい人がいます。

 次の日、突然ハル君にそう言われ、まるで年頃の娘を持つ父親の心境で向かった先は町はずれの一軒家だった。

 ハル君が「師匠」と呼ぶその人――アレクセイ=レーヴェは、習得が難しいといわれる光の魔術を自在に操り、魔力の高さとあらゆる知識の豊富さから『稀代の天才』と呼ばれていたが、12年前に突然「わずらわしい」との理由で24歳の若さで職を辞した変わり者らしい。

 どんな人物かとあれこれ想像しながら玄関前で待っていると、出迎えてくれたのは恐ろしく整った顔をした人だった。見たこともない綺麗な青髪といい、CGかと思うほど整った顔立ちといい、36歳にしては若く見えることといい、とにかく色々な驚きが隠せなかった。

 

 家の中は男のひとり暮らしにしては綺麗で整頓されていたけれど、よく見れば生活に必要最低限のものないしかなかった。

 ハル君は7年前から伯父の親友だったアレクセイに師事していて、学校帰りや休みの日に訪れて魔術を教えてもらい、そのお礼に身の回りの世話をしているらしい。「小間使いのようなことはするな」と言われているようだけど、ハル君は意外に頑なで律儀な弟子だった。

 

 魔術界から爪はじきにされたレイス家の、ハル君の面倒を見ているぐらいだから悪い人ではないと思うけど――。


「しかし、よくこれを召喚したな」

 居間に通された直後にアレクセイは真顔でハル君に向き直った。


 ――前言撤回。初対面にいきなり『これ』呼ばわりとは、なかなかの性格だぞ。

 見た目と性格が見事に反比例している。


「あの、それは、僕が召喚を失敗してしまったからで――」

「それはさっきも聞いた。そういう意味じゃない」

「どういう意味?」

「少し黙っていてくれないか? 話がややこしくなる」

 当事者なのにあっさり蚊帳の外に放り出され腹が立つ。しかも非の打ち所がないほど端整な顔立ちに素っ気ない言い方が余計に癪に障る。

 口を思い切りへの字にして鼻の頭に皺を寄せた。

 当の本人は全く意に介していない。逆に憐れむような表情になっている。

 

 何だろう、この敗北感。

 

 ひとり落ち込む私を余所に、アレクセイは説明を続ける。

「召喚術の失敗というのは『何も召喚できない』というのが正しい」

 私とハル君はアレクセイを見る。多分二人とも同じ表情をしているだろう。

 疑問を投げかけようと口を開こうとして、ついさっき黙っているように言われたこと思い出し勢いよく手を挙げた。

 アレクセイは仕方ない、とでも言わんばかりの表情で私を指差した。

「発言権を認める」

 やっぱり何か癪に障る。けれど今は怒りよりも話を聞きたい気持ちが勝っている。

「でも実際に私はそれで召喚されたけど――」

 真顔のハル君が視界に入り、私は慎重に言葉を選んだ。

「例えば、違う世界に繋がって自分の意図しない生物を召喚してしまう、ということはないの?」

 アレクセイは何故か驚いたように私を見ていた。

「それはない。たとえ違う世界に繋がったとしても魔法陣は発動しない」

 そういう表情は何故か楽しそうだ。先ほどまでとは違い声音も少し柔らかく感じる。

「どうして?」

「召喚する生物によって召喚術は違うからだ」

「全部違うの?」

 アレクセイはできの悪い生徒を見るような目になった。

「う、仕方ないでしょ? 召喚術なんてこっち来てから初めて知ったんだし」

 私の言い訳をアレクセイは盛大な溜息で掻き消した。

「お前は自分の名前じゃなくても、呼ばれればのこのことやってくるのか?」

「のこのこって――」

 嫌みったらしい言い方にやっぱりイラッとしたが、同時にその説明で理解できた。

「種族ごとの召喚術がある、ってことか」

 アレクセイは満足そうに頷くと、椅子から立ち上がり部屋の隅の卓上に近寄った。

「例えばこのパズル」

 私とハル君は自然と彼の両隣に立った。

「このパズルの完成形はこれしかない。完成させるまでの工程が召喚術、そして完成することで現れる杢目もくめが魔法陣だとする」

 卓上にはジグソーパズルが簡単になったような木の破片が隙間なくはまっており、表面には美しい杢目が連なっている。

「しかし」

 アレクセイのすらりとした長い指が一つのパズルを別の場所に移す。組み合わないパズルは隙間を生みだし、杢目は寸断されてしまった。

「――召喚術が間違っていれば魔法陣そのものが現れない」

 私の呟きが静かな部屋に響いた。

「その通り。だからおかしいのさ」

 アレクセイは長めの前髪を片手で無造作に掻き上げた。


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