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わかり始めたこと

 馬車は街から離れた大きな洋館の前で止まった。

 2階建ての大きな建物に明かりはなく、人の気配は感じられない。外壁は蔦がびっしりと這い回り、夜風に揺れる度に建物自体が呼吸しているみたいで不気味さが増す。

 小さなランプを片手に馬車を降りたソミルが慣れた手つきで錆びついている門扉を押した。静寂の中、金属の擦れる音が悲鳴の様に響き渡り、首筋に鳥肌が立つ。

 広い庭は雑草が覆い茂り、玄関へと続く石畳さえ隠している。多くの窓にはカーテンが備わっているが色褪せていたり破れていたりしている。窓ガラスもヒビが入っていたりくすんでいたりと、この屋敷に長らく人が住んでいないことは一目瞭然だった。


「私は戻る」

 男は馬車から出ずに言い放った。

「リヴァイス。それを降ろしたらすぐに戻れ」

「終わりまで見届ける」

 強い口調にもリヴァイスは揺るがないようで、私を軽々と抱き上げると男に背を向けた。

「何を言っている! 万が一諜報部が乗り込んできた時、お前がここに居たのでは言い逃れできない。全てを無駄にする気か!」

「誰であれ邪魔者は排除する」

 リヴァイスはぞっとするような冷酷な瞳を向ける。男は蛇に睨まれたカエルの様に固まってしまった。

「マーカス=エデュター」

 リヴァイスの声は囁くように小さかった。けれど無機質で感情のないそれは、この場の空気を凍らせるのに十分だった。

 名前を呼ばれた男、マーカス=エデュターは喉を鳴らして唾を飲み込んだ。

「お前たち一族は殺さない。あの契約は未だ有効だ」

 黒い瞳には忌々しさが宿っているように見える。

 マーカスはその言葉に大きく息を吐き、柔らかな背もたれに身を沈めた。息苦しくなったのか安心したのか、今まですっぽりと被っていたフードを手で後ろへずらした。

 少し禿げ上がった額と鼻の下の髭以外は、小太りでどんぐり眼で広がった鼻、とあの憎たらしいフィル=エデュターにそっくりだった。名前や容姿からして、恐らくこの男はフィルの父親でエデュター家の当主だ。


『エデュター家だけど、これからは当主が動き出すみたい』


 レオナールの言葉を思い出した。でも想像していたものとは少し違うようだ。

 この計画は当主が画策したものに間違いない。けれどリヴァイスが勝手に私の所に来てしまったために、それに気付いた当主が自ら修正し前倒ししている。

 どうやら一族の召喚獣であるリヴァイスはエデュター家当主でも完全に制御できていない。しかも断片的な話の内容からすると、リヴァイスは通常の召喚術とは別の契約もしている。

 どういうことだろう。

 頭痛と吐き気と戦いながら必死に考えてみたが、今はこれくらいしかわからない。 ふとリヴァイスと目が合い、次の瞬間、血の気が引いた。

 この人には私の考えていることが筒抜けだ。

 けれど彼女は表情を緩め「賢い子は好きよ」と微笑むだけだった。


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