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ようやく本題

 落ち込む私の頭に浮かんだのは12年前に死んだ兄だ。

 けれどすぐにその考えを否定した。私はハル君をみて一度も『兄』だと思ったことはない。あの頃の『私』だと思う事は何度かあったけれど、あれは勝手に私がハル君の姿に自分を重ね合わせただけだ。

 それに『私』はまだ死んでない。

「おーい、姐さん」

 のんびりした声で我に返る。

「あ?」

 上げた私の顔を見て、何故かクムルは怯えて一歩下がった。

「眉間に皺寄せて必死に頭使っているところ悪いけど、ほら」

 クムルが顎をしゃくった。視線で辿ると私の足元だった。

 黒いハイヒールがやけに白っぽい。汚れかな、と指で軽く払ったけれど変化はない。靴の色は相変わらず白っぽいし、触った指には何も付いていない。

「何で?」

 意味が分からず指と靴を交互に見遣る。

「さっき言っただろ? それが消えかけているってことさ」

「えっ!」

 白っぽいと思ったのはこの空間が白一色だったからだ。良く見れば膝下まで同じように薄くなっていた。

「どどど、どうしよう! 消えちゃう! 死んじゃう!」

 まだ何にもしていないのに! このまま死んだらハル君を困らせたままだし、無理言って巻き込んだアレクセイに申し訳ないし、こんな私を産んで育ててくれた両親やあの世で兄に会わせる顔がない。

 私はきっと、誰にも許してもらえない。

 狼狽える私の背中に優しく温かい大きなものが触れた。

「落ち着けって。大丈夫だから」

 幼い子供を宥めるかのような優しい声とじんわり温かくなる背中に、締め付けられるような苦しさがすっと消えた。

 冷静になった途端に顔が燃えるように熱くなる。恐る恐る首だけ振り返ると、視界にクムルの頭が見えた。彼は私の背中につけた額をゆっくり離し、長いまつげに縁取られたつぶらな瞳で真っ直ぐ見上げてきた。

 ありがとうと言おうとした矢先、私の右頬を大きな舌がべろりと撫でた。

 え? 何で? 

 舐めた本人は悪びれた様子もなく尻尾をグルグル回して見上げている。

「事前に言っておくけど、私はきっとおいしくないわよ?」

「食べねぇよ」

 クムルは広くて硬い額で私の背中を突いた。衝撃で体が弓なりになる。本人は軽くやったつもりだろうが結構痛い。

「そんなことで泣くなんて、子供だか大人だかわかんねぇ」

 気付かずに涙を流していた私をどうやらなぐさめてくれたようだ。見慣れたせいか、なんとなくクムルの表情が分かるようになっている。

「もう大丈夫。ありがとう」

「パニックで暴れたり走って逃げたりした奴もいたし。まぁ、冷静になっただけマシな方か」

 逃げた奴はもう消滅しただろうな、と物騒な事をあっさり口にする。全然フォローになっていないし、余計に怖い。

「長引かせて悪かったな。今度こそ『掟』を使ってくれ」

 首を縦に振り、深呼吸で頭の中を切り替える。

「『掟』として聞きます」

 クムルも頷く。

 聞かなくてはいけないこと――それは。

「現在、この世界で返還術を使える召喚獣を教えて下さい」


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