story No.16
愛美が帰ってきた。
「ねぇ、下で恭ピーみたいな人みたけど、来てないよね?」
『えっ?来るわけないじゃん。別れたのに』
「だよね」
本当のことは言えなかった。
土曜日。
明日からkiss-jの5大ドームツアーが始まる。
東京ドームが最終日だった。
愛美は今回のコンサートチケットの抽選はハズレてしまったようで、少し落ち込んでいた。
ピンポーン
インターホンが鳴った。
愛美が出ると
来たのは、優さまだった。
『どうしたの!?』
「どうしたのじゃねぇーよ。昨日、恭介来ただろ?」
『きっ、来てないよ…』
「とぼけんな、酔っぱらい!
恭介に何言った!?」
『関係ないでしょ?』
その時、ついていたテレビからニュースが流れた。
「続いてのニュースです。人気女優、鈴城杏里さんが、国民的アイドルkiss-jとの交際を認めました。マスコミ各社に送られたファックスによると『この度は、私事で申し訳ありませんが、私鈴城杏里は藤崎恭介と真剣に交際しています。ファンの皆様、これからも二人を暖かく見守って下さい』とのことです」
「これを報告しに来たのか?」
『ちがう!気持ちを再確認しに来たの!こんなこと聞いてない!ウソに決まってる』
「やっぱりな。恭介はまだお前が好きなんだよ。でも、事務所は恭介に鈴城杏里との熱愛を認めさせるぞ。相手は人気女優だし、ドラマの宣伝にもなる。交際に文句なしだろ」
「梨子…昨日、藤崎君来たのね。藤崎君に何て言ったの?」
愛美が言った。
昨日の会話を二人に話した。
「梨子、ほんとはちがうでしょ?」
『…うん』
「だったら何で正直に言わないのよ?」
「そうだよ。このままだったら完全に終わりだぞ!」
『分かってる!』
二人に言われ、いつになく大声を出してしまった。
『分かってる、そんなこと。だけど、ほんとの気持ち言ったら、藤崎君の役者としての仕事ダメにするかもしれない。鈴城杏里とのキス写真を見て、藤崎君はあたしとは不釣り合いだって分かったの。…自信ないのよ。藤崎君と付き合う自信が…』
「そんなことで恭介傷つけたのかよ!?」
優さまは言った。
『そんなこと?私にとっては大きなこと。毎晩思った。アイドルと一般人。ネット上では中傷されて、記者に追いかけられて、藤崎君の彼女が私でいいのか。藤崎君のことは心から好きだけど、好きだから、大切だからこそ、私じゃダメだって思ったの!私の気持ちがあなたに分かる!?』
「分かるよ、恭介も同じ気持ちなんだから」
『えっ?』
「毎日、事務所から一般人との交際を反対される。自分のせいで好きな人が記者に追い回される罪悪感。会ってあげることが出来ないもどかしさ。
アイツはそれを全部一人で抱えてんだよ!
お前よりも恭介の方がつらいと思うよ。
必死の覚悟でお前のためにそこまで尽くしてんのに、挙げ句の果てにはアイドルって肩書きに惹かれてた?
ふざけんな!
お前はただ、恭介の気持ち踏みにじってるだけじゃねーか!」
「優さま、落ち着いて!
梨子を攻めたってしょうがないでしょ?
でもね梨子、優さまの言ってることも間違いじゃないと思う。
恭ピーも梨子と同じ気持ちだよ、きっと。
それは梨子が一番分かってるでしょ?」
浅くうなずいた。
薄々気づいていた。
藤崎君も私と同じ不安と苦しみを背負っていることくらい。
だから、より楽にしてあげたいと思った。
私と別れれば、楽になると思った。
だけど、逆により彼を苦しめる結果になってしまった。
誰よりも藤崎君を分かっているつもりだったのに、結局は何も分かっていなかった。
『でも、藤崎君とはもう付き合えない。ひどいことしちゃったし。やっぱりまだ、自信が持てないの』
「無理に付き合えとは言ってねぇよ。でも、恭介の気持ちはちゃんと受け取ってやれ」
そう言って、優さまはポケットから2枚の紙を取り出した。
「5大ドームツアー最終日、東京ドームのコンサートチケット。愛美ちゃんとで良いから絶対来い」
そう言って、部屋を出ていった。
『どうしてコンサートに?』
そのコンサートは2週間後だった。
つづく。




