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story No.1

「別れてほしい。」

その意味がしばらく分からなかった。

『どういうこと?』

わざわざ仕事終わりに私の家まで押し掛けて言う言葉ではない。

『だって、私たち明日引っ越すじゃない』

そう、私たちは同棲するために明日引っ越す予定だった。

「ごめん。他に好きな人がいるんだ」

『ちょっと待ってよ。新しいマンションはどうするの?ローンだって…』

「それは俺が全部払う。全て俺の勝手な都合だし。マンションは梨子にあげるから。一人で住んでくれ」

小林くんは中小企業の社長の長男だった。

『相手は?』

「俺の会社の取り引き先の娘。家業の関係もあるんだ。今、俺の会社は業績悪くて…梨子のことは愛してるけど、会社が倒産なんてことなったら…本当にごめん」

『私、小林くんのこと愛してる。結婚だって…』

「梨子、俺も愛してる。だけど、無理なんだ」

そのあとの記憶はあまりない。

気づくと、二人で住むはずだったマンションに来ていた。

物が何もない分、より広く見えた。

『ここはもう私一人のもの…』

一人で住むには広すぎた。

『小林君のバカ。でも一人でこんなに広い部屋に住めるなんてラッキーじゃない。場所だって駅まで徒歩5分。文句なしよ』

そう思わないと目の奥から雫がこぼれ落ちそうだった。


ここに来る途中、コンビニで缶ビールを3本買った。

一口で酔うほどアルコールに弱く、あまり美味しいとも思わなかったが、今日はとても、おいしく感じた。

ハイペースで一缶飲みきり、次の缶に手をつけた。



気がつくとベッドの上だった。

部屋を見渡すとボクシングのグローブやポスターが貼ってある。 

『小林君?』

よく考えれば、彼はこんな趣味じゃない。

『ここどこっ?』

飛び起きると

「起きた?」

見覚えのない男の人が立っていた。

『…ここは。あなたは?どうして?どういうこと?』

「まぁまぁ。落ち着いて。ここは俺の家。」

『あなたの!?どうして?』

「知らないけど、俺が帰って来たとき、玄関の前で熟睡してたんだよ。邪魔だったからどかしたんだけど、後ろから抱きついてきて離れないから。しょうがなく保護したってわけ」

『そうだったんですか。すみません。昨日はかなり酔ってて…本当に申し訳ありません』

「そうみたいだね。もういいよ。これ飲んだら?」

と言って渡して来たのは

二日酔いにヨイサメール

と書いた栄養ドリンクだった。

『ありがとうございます』

一口飲んで吐きそうになった。

「ハハ。それマズイでしょ?でも、一番効くんだ。君、名前は?」

『白石梨子です』

「梨子ちゃん。可愛い名前だね。俺は藤崎恭平。これも何かの縁だしよろしく」

『本当にありがとうございました。親切な人で良かった。そういえば、ここどこですか?』

「あー、言ってなかったね。ここは品川区のライオンズマンション709だよ」

『えっ?ライオンズマンション709?

私、明日708に引っ越すんです。って、今日だ!今何時ですか?』

「えっと、11時6分だけど」

『ヤバッ!引っ越し10時からだった!帰ります。あっ、後で必ずお礼します!失礼します』


引っ越し前の家に向かう電車の中でケータイを見ると小林君から10件以上の着信があった。

メールで素早く状況を説明すると、

「家の前で待ってる。引っ越し手伝うよ。」

と返信が来た。

小林君は優しい人なのだ。


家につくと、メール通り小林君と引っ越し業者がいた。


すぐに引っ越しは終わったが、これからが大変だった。

段ボールからガラクタを出して、部屋を整理することだった。

広くて落ち着いた新しい部屋には今までの部屋にあったものは不釣り合いだった。


小林くんはそれから1時間部屋の整理を手伝ってくれた。


私は小林くんを見送って、大屋さんと707号室の人と藤崎君に挨拶をした。


藤崎君はそう言って笑った。

そのあと部屋にこもり、ひたすら物の整理をした。

気がつくと夕日がカーテンの隙間から射し込んでいた。

ようやく落ち着いたので、晩御飯のグラタンの買い出しに出かけた。

帰ってきて、マンションのエレベーターに乗ろうとしたら、コンビニの袋を持った藤崎君が乗っていた。

『それ、晩ごはん?』

「まぁね。料理できなくて。」

買ってきたグラタンが二人前のことを思いだし、『うちで食べない?』

一緒に食べることになった。


「すげー、うまい。こんなにうまいの久々に食った。」

『良かった。昔、料理教室でバイトしてたから料理には自信あるの。』

「グラタンの作り方も分かったし、一石二鳥だー。毎日食えたら幸せだなー。」

『ねぇ、昨日のお礼に、料理教えるってのはどう?』

「それ、超いい!二人が暇な時、教えてよ」

『OK!まかせて』


そういうわけで、私たちは暇な時に一緒ごはんを食べることになった。


『ねぇ、藤崎君って、ボクシング選手でしょ?』

「なんで急にっ。」

『だって、ボクシングのグローブとかポスターいっぱい貼ってたじゃない?』

「あー、まぁ、そんな感じ」

『へぇー、すごいね!大変でしょ?』

「まぁね」

『ケガとかするんじゃない?

藤崎君、イケメンなのに。頑張ってね』

「ありがとう。頑張るよ。

梨子ちゃんは何してるの?」

『私は化粧品会社で新しい化粧品開発してる』

「へぇー!すごいね。いわば化学者だ」

『そんな大げさな』

「どこの化粧品会社?」

『フェアリー』

「フェアリー?アジアシェアNo.1じゃん」

『まぁね。詳しいのね』

「それくらい有名だよ」


そんな他愛ないことを話して藤崎君は帰って行った。

二人の距離が縮まるのに時間はかからなかった。


           

              続く。



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