悪魔と交渉
なんだかんだで2話目です。
「神様ぁ!?」
「正確には神様かもしれない、だな」
先程まで私を追いかけ追い詰めていたあの犬が神様!? 冗談じゃない!!
「さっきまで理解不能なトンデモ空間にいたから多少のファンタジーは許してあげる! その犬が本当に神様だって言うのならなんで私を襲うワケ!?」
今もそのトンデモ空間にいるのだから自分の知らない事が起きているという事は理解出来た。だが神に襲われた瀬沙里を悪魔が助けるという事情が瀬沙里には理解出来なかった。
「まぁ、順を追って説明しよう。
まずこの空間だが次元座標が歪められた世界、って所だな」
「次元座標?」
「そう、次元座標。
縦、横、高さ、時間の他に存在する要は5次元目って言った方が分かりやすいか……
本来、人間が生活してるのは次元座標0の世界なんだが、この次元座標を1にすると建物はそのままだが人間は誰一人いない世界になる」
「それが今私がいる世界って事ね……
それでそこの犬が私をこの世界に飛ばしたって訳ね?」
「ピンポーン!」
なるほど……誰もいない世界ね……人を襲うには絶好の場所ね。
「そういえばあんたこの犬を神様"かもしれない"って言ってたわよね。
つまりあんたから見てこの犬は神様"じゃないかもしれない"って事になる。じゃあ、何と迷ってるの?」
「神か悪魔か天使か閻魔のどれか。
この世界の生き物じゃないって事は確かだな。
状況からして神様だろうとは思うけど」
神か悪魔か天使か閻魔ってどんだけ特定できてないんだよ! せめて二択まで絞れよ!
「ちょっと、なんか新しい単語出てきてるし! とりあえず最初から説明して!」
「あいよ。
最初に俺の名前はレクル。分かってると思うけど人間からは悪魔と呼ばれる類のものだ。
そもそも神とか悪魔に善悪の概念を付けたのは人間だから本来神と悪魔に身体的な差は無い。
神界に住んでるのが神、魔界に住んでるのが悪魔、天界に住んでるのが天使、冥界に住んでるのが閻魔ってだけ。分かりやすく言えば日本人もアメリカ人も中国人も住んでる国は違うけど同じ人間でしょ? それと同じ」
瀬沙里は特に何かの宗教を信じている訳ではない(ついでに言えば神や悪魔についても)が、レクルの話した事は衝撃の事実だった。
「って事は次元座標を変えただけで神様の国とかに行けちゃうの!?」
神界や魔界が今いる世界の延長上にあるというのならぜひ行ってみたい、と瀬沙里は思ったがそんな妄想をレクルは断ち切った。
「いや、次元座標をいくら変えても無理。神界や魔界に行くには界座標を変えないといけない」
「その界座標ってのが私達の想像する人間界と魔界を分け隔ててる物って訳?」
「そういう事」
瀬沙里のイメージはほとんどファンタジー小説に出てくる異世界のイメージだったがこの場合は的を得ていたらしい。
「つまりは外見や構造が同じだからその犬が神か悪魔か分からないっていうことね……」
「はい、その通り」
「でも人間界の生き物じゃないって事は分かったのは何故?」
「一言で言うと魂があるか無いか、ってとこ」
ただ次元座標を変えられたから、という答えを期待していた瀬沙里にとってレクルの返答に意表を突かれてしまった。
「人間や人間界の生物には魂があるけど神や悪魔に魂は存在しない。その犬には魂が無かったから人間界の生物じゃないって分かっただけ」
「……そう」
最早何も質問する気が起きなかった。
瀬沙里自身あまり頭が悪い方ではないのだがこうも自分のイメージと違う事ばかりが事実だと覚えきれなくなってしまう。
「じゃあ、今度は俺から質問!
最近あんたの学校に転校生とかやって来なかった?」
「高校入学してまだ3ヵ月しか経ってないのに転校生とかある訳ないでしょ。
ていうか、なんでいきなりそんな日常的な質問なの?」
転校生がいるかどうかの質問が日常的かはさておき、少なくとも神や悪魔に関係があるとは思えなかった。
「あんたの近くに神がいるのは確かだから転校生かな、と考えただけなんだけど?」
「そもそもなんで私の近くに神がいるの!?」
あなたの近くに神がいますなんてセリフを神父以外から聞く事になるとは夢にも思っていなかったがレクルが言うのであれば先程までの出来事もありそれなりに信じてしまうが理由が分からない事に変わりは無かった。
「あんたの魂が狙われやすいように味付けされてたから……それが出来るのは神か悪魔だけだ」
「うそ……」
レクルの言った事が正しければ衝撃の新事実である。
「なんで私が……!?」
そんな目に遭わなければならないの、と言いかけた所で瀬沙里の口はレクルの手で塞がれた。
「敵をおびき寄せるエサになるなら誰でもよかったのだろうよ。
先に言っとくけど俺にはあんたの魂を治す事は出来ない。着色した本人でも元通りには出来ないだろうな……」
レクルの真剣な口調から瀬沙里にも事の重大さが伝わって来た。
「とにかく今日は家に帰ったらいい。
次元座標は変換されていても時間は通常通り進むからな」
ふと時計を見るとそろそろ日付が変わる時間であった。下手をすれば元の世界では行方不明で警察沙汰になっているかもしれない。
「あーーーーー!!!!
もうこんな時間!! 早く元の世界に戻して!!」
この時すでに非現実に関わろうとする考えは瀬沙里の頭から消えていた。
*×*×*
結論から言うと警察沙汰にはなっていなかった。そのかわり両親からはこってり絞られたが……
「ふぁ~~~、眠い……いくら非日常に出会っても日常は歩みを止めてくれないなんて面倒ね」
結局深夜帰りとなり両親に叱られた瀬沙里はほとんど睡眠をとる事が出来なかった。
それでも学校には行かなくてはならずこうして欠伸を噛み殺しての登校を余儀なくされていた。
「やっぱあんたも生活サイクル崩れるときついんだな」
「!?」
いきなりかけられた声に瀬沙里の眠気は一瞬で吹き飛んだ。
何を隠そう話しかけてきたのは寝不足の元凶とも言えるあの少年だった。
「なんであんたがこんな所にいんのよ!?」
「あんたの魂を味付けした奴が近くにいるだろうからそいつを探してるだけ。
あんたの周りを張ってた方が効率がいいからね」
ごもっともです……
「てかあんたウチの高校の生徒じゃないでしょ? 入ったら即ばれるわよ」
「もちろんばれる。だから……ばれないように姿を変える!」
そう言ってレクルは姿を消した。
正確には瀬沙里の視界からいなくなっただけで下を見てみるとレクルがいたであろう場所に小さなリスがいた。
「まさかあんたレクル?」
正直半信半疑だったが尋ねられたリスはその問いに肯定するかのように頷いた。
『あんたがこのリスを鞄に入れて俺は堂々と学校に入るって訳。
人間に見つかっても普通のリスにしか見えないし殺される心配は無い』
リスが頷いた直後レクルの声が脳にダイレクトに届いてきた。
「これがテレパシーって奴? って事は私も念じるだけであんたに伝わるの?」
普通に変身を見せられた後なので最早テレパシー程度では驚かなくなっていた。
『いや、テレパシーは普通に意思を相手に送りつけるだけ。あんたにテレパシーが使えない以上、あんたの意思は話してもらわないと伝わらない』
「はぁ……そうですか……」
なんていうか以外と不便なのね……
「それはそうとまだあんたを連れていくと決めた訳じゃないんだけど? 私がこのまま放置すればあんたは学校に入れないわよ?」
やられっぱなしは性に合わないのでこちらからもささやかな(?)反撃をさせてもらう事にしたが、
『じゃあ、昨日みたいに毎日神や悪魔相手に鬼ごっこしてればいいよ』
完璧に跳ね返されてしまった。
「ちょっと待って! 連れてく! 連れて行くから何とかして!!」
やられっぱなしは性に合わない? それはさっきまでの私。今の私は使える物は何でも使うスタンスに変えた!
ポリシー? そんなモンで身が守れるか!
『交渉成立! というわけでとりあえずはあんたの魂を味付けした張本人を見つけ出すまでは守ってあげますよ~』
図らずも瀬沙里は非現実に関わるという当初の目標を達成してしまったのだった。
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