第三十九話 それぞれの道
オーク戦士は戸惑っていた。混乱していた。
結局老いぼれが何をしたかったのか分からなかった。
自分の手には割れた棍棒が残り、身体にはジジイから教わった事が残り、頭には疑問が残る状態に戸惑っていると。何かの音が聞こえてくる。
足音だ、オーク達の足音、そして…硬いものがぶつかり合う音だ。
戦士は少し迷ってから、ジジイの身体と剣を持ち上げた。オークキングは意図を理解し、帰還の為に身体を起こした。
帰ろう。今はとにかく…考えるのは後だ。
オーク達に合流し、大集落への帰路に着く二人は、多くの犠牲に背を向ける。
彼等は戦って敗れて死んだのだ。ならば我々に出来る事は生きる事だけだ。
オークの戦士達は森に入った。
兵士は、全力で駆けてきた兵士は…その場で力無く座り込んだ。
大量のオークの死体もだが、剣聖様の姿が無い。
あり得ない…豚如きに…あの剣聖様が…?
兵士達に絶望が広まっていく。
剣聖様一人の死が、この島に、人々に何を齎すのか、気付いた者から眼の光が消えていく。
そして…船により届けられた手紙が…地面に着いた。
ずっと…ずっと地の大陸で剣聖様の帰りを待っている聖女様の心は…二度と届く事はないのだ。
オークキングは斥候のオークに身体を支えられながら、意識は他の場所に向いていた。
自分は避けたのか…?それともあの枯れ木の様な者に生かされたのか?
分からない…今日は分からない事だらけだ。
結局自分はあの場で何もしなかった。出来なかった。何をしに行ったのだ?
このデカい身体は無駄に思えた。
戦士は良い…あいつは、戸惑いながらも何かを得たのだ。
自分はただ命を拾っただけだ…。
集落に着くと、帰還した者達を精一杯祝福してくれた。怪我の治療や食事が振る舞われた。
オークキングはあまり手を付けなかった…。そして自分が折った木を眺めていた。
オーク戦士は振る舞われた飯より、ジジイを食った。
何が分かるでも無いが、食うのが敬意だ。
あまり美味しいとは思えなかった。こんな身体で、こんな悲惨な身体で何故戦えたのか…不思議と涙が溢れた。
もし、老いぼれが若ければ。もし、老いぼれが元気だったなら…もっと何かを教えて貰えた気がするのだ。
もし…自分がジジイと同族だったなら……。
大集落はしばらく安泰だろう。大量の食糧と、笑顔に包まれて。
失った戦士達は、戦いの果てに死んだのだ。泣いてはいけない。
兵士達は読み上げる。剣聖様への手紙を大声で。
どうか剣聖様に届くようにと、どうか剣聖様を癒すようにと。
"剣聖レーベへ、長らく貴方の活躍が聞けず、寂しく思っています。 きっと心優しい貴方の事ですから、自分を責めたり、後悔をしているのだと思います。
しかし、あの戦いは始まりは間違い無く仕方の無いものでした。 私達が、皆が生き残るには、他に手段なんて無かったのです。
私は未熟で、愚かで、止める術も無く貴方に泣き付き困らせてしまいましたね。
帰って来てください。また、貴方の力が必要なのです。その為に必要なら私は何でもしましょう。
聖女ミリアより "
兵士達は泣いた。泣きながら読み上げた。
どうしようも無い感情と現実だけが残されたのだった。




