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クトゥルフ神話  作者: ニャルラトホテプ
2章 前進

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第三十九話 それぞれの道

 オーク戦士は戸惑っていた。混乱していた。


 結局老いぼれが何をしたかったのか分からなかった。


 自分の手には割れた棍棒が残り、身体にはジジイから教わった事が残り、頭には疑問が残る状態に戸惑っていると。何かの音が聞こえてくる。


 足音だ、オーク達の足音、そして…硬いものがぶつかり合う音だ。


 戦士は少し迷ってから、ジジイの身体と剣を持ち上げた。オークキングは意図を理解し、帰還の為に身体を起こした。


 帰ろう。今はとにかく…考えるのは後だ。


 オーク達に合流し、大集落への帰路に着く二人は、多くの犠牲に背を向ける。


 彼等は戦って敗れて死んだのだ。ならば我々に出来る事は生きる事だけだ。


 オークの戦士達は森に入った。



 兵士は、全力で駆けてきた兵士は…その場で力無く座り込んだ。


 大量のオークの死体もだが、剣聖様の姿が無い。


 あり得ない…豚如きに…あの剣聖様が…?


 兵士達に絶望が広まっていく。

 剣聖様一人の死が、この島に、人々に何を(もたら)すのか、気付いた者から眼の光が消えていく。


 そして…船により届けられた手紙が…地面に着いた。


 ずっと…ずっと地の大陸で剣聖様の帰りを待っている聖女様の心は…二度と届く事はないのだ。



 オークキングは斥候のオークに身体を支えられながら、意識は他の場所に向いていた。


 自分は避けたのか…?それともあの枯れ木の様な者に生かされたのか?


 分からない…今日は分からない事だらけだ。

 結局自分はあの場で何もしなかった。出来なかった。何をしに行ったのだ?


 このデカい身体は無駄に思えた。


 戦士は良い…あいつは、戸惑いながらも何かを得たのだ。

 自分はただ命を拾っただけだ…。



 集落に着くと、帰還した者達を精一杯祝福してくれた。怪我の治療や食事が振る舞われた。


 オークキングはあまり手を付けなかった…。そして自分が折った木を眺めていた。


 オーク戦士は振る舞われた飯より、ジジイを食った。

 何が分かるでも無いが、食うのが敬意だ。


 あまり美味しいとは思えなかった。こんな身体で、こんな悲惨な身体で何故戦えたのか…不思議と涙が溢れた。


 もし、老いぼれが若ければ。もし、老いぼれが元気だったなら…もっと何かを教えて貰えた気がするのだ。

 もし…自分がジジイと同族だったなら……。


 大集落はしばらく安泰だろう。大量の食糧と、笑顔に包まれて。

 失った戦士達は、戦いの果てに死んだのだ。泣いてはいけない。



 兵士達は読み上げる。剣聖様への手紙を大声で。


 どうか剣聖様に届くようにと、どうか剣聖様を癒すようにと。


 "剣聖レーベへ、長らく貴方の活躍が聞けず、寂しく思っています。 きっと心優しい貴方の事ですから、自分を責めたり、後悔をしているのだと思います。 

 しかし、あの戦いは始まりは間違い無く仕方の無いものでした。 私達が、皆が生き残るには、他に手段なんて無かったのです。 

 私は未熟で、愚かで、止める術も無く貴方に泣き付き困らせてしまいましたね。

 帰って来てください。また、貴方の力が必要なのです。その為に必要なら私は何でもしましょう。


        聖女ミリアより       "


 兵士達は泣いた。泣きながら読み上げた。

 どうしようも無い感情と現実だけが残されたのだった。

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