第三十八話 剣聖の最期
剣聖は…剣を地面から抜き去り、ゆっくりと歩いた。邪魔の無い大地まで。
オークキングは見ている事しか出来なかった。深手が対処を不可能にしたからだ。
オーク戦士は見守っていた。何をする気なのかをただ見ていた。
剣聖は剣を正眼に構えた、オーク戦士に向けて。
オーク戦士は受けて立つしか無かった。戦士としての誇りが、オーク戦士の代表としての立場が、そして何より血が騒ぐ己が、他の選択肢を消し去った。
オーク戦士は目線を逸らさず、落ちている仲間の棍棒を拾い上げて、老いぼれに向かって歩いていく。
オーク戦士はただ自分の渾身の力を込めて棍棒を振り下ろした。最も威力の乗る攻撃だ。
剣聖は躱し、巻き上がる粉塵や礫すら無視して、剣の腹でオークの足を叩いた。
オーク戦士は激昂する。今ので足を斬れば良いものを、戦士としての自分が侮辱された気がした。
棍棒を地面から横に薙いだ。
信じられないものを見た。自分の棍棒が自分の描いた道筋を逸れたのだ。
この老いぼれは、剣で棍棒の軌道を逸らした上で、オークの腰を再び叩いたのだ。
感情のままに棍棒を振る事数閃。
オークの戦士は気付いた。これは指導だ。
まるで子供に餌の獲り方を教える様に、指導されている。その証拠に自分の身体には痛みはあれど傷は無く。老いぼれの目に殺意は無い。
恐らく、悪かった部分を剣で教えているのだ…。
一撃で相手を倒すなら、踏み込み方が足りない。それでは速度が出ない。
横に薙ぐなら腰を使え。何の為に身体の下半分があるのだ…という様に。
…何をしているのだ。この老いぼれは、相手は敵だ。命を奪い合う仲だ。
朦朧として同族にでも見えているのか?!
しかし、振るのを止められなかった。顔がニヤけていく。指導に従い身体の動かし方を変える。力だけで無く、身体の流れで棍棒を振る。
身体の動きの大きさを変化させる。次の攻撃に繋げる姿勢を作る。防御の為に構える位置を変える。
そしてどれだけ経ったか分からない頃、棍棒を叩かれた。
迷わず棍棒を割る。重過ぎて重心がブレるのだ。
武器は威力では無く身体に合わせるべきなのだ。
教えられた事をそのままに、身体の動きに集中した。武器による重心の変化を感じ取る。
眉間に軽く剣が当たる…視線だ。視線の場所が悪い…どこを見るべきだ?足か?相手の目か?全体か?
老いぼれの目を見ると、穏やかな目でこちらの身体全体を映している気がした。
相手の動きの"起こり"を見なければ動きに対処出来ない。視界は広くあるべきなのだ。
老いぼれは次の瞬間、"起こり"の無い一撃を放ってきた。少し前の自分なら死ぬ一撃を。
このジジイ正気か?そんなものどうやって…どうやって避けたのだ?今自分は。重心と姿勢を戻す。
重心と姿勢だ…。次何が来ても良い様に、防御をするには…ジジイと同じ構えをした。
数瞬後、さっきとは違う一撃を放たれる。
避けるだけではダメだ、崩された姿勢は反撃の機会を失う。
咄嗟に躱わす勢いのまま棍棒を打ち付けた。
老いぼれは"避けなかった"。
…は? 一撃で絶命した老いぼれは笑顔だった。
教えるべき事は教えたと言わんばかりの笑顔だ…。
ふざけるな…ジジイなら避けられた筈だ。いくらでも手段があったのでは無いか?!
…オーク戦士は手が震えていた。キングは…ただ茫然と眺めていた。
ふと、気になりました。
昼と夜のPVの伸びの差は、時間帯以上に内容の差なのでは無いかと。
夜の方が集中力も思考力も上がる…そういう事なのではと。




