第三十七話 守る為の戦い。
剣聖の目に、オークの軍が映る。
デカいオーク…キングが混ざっている。
剣聖は自分の手元を見る。普通の幅広の剣を。
聖女様から頂いた剣を持ってくれば良かった…と後悔した。街に、聖騎士達に預けたままだ。
オーク達は囲いの前に整列すると、武器を掲げて吼えた。まるで、今から襲うぞと宣言する様に。
住民が逃げてくれていて助かった。これでは、守り切るなど不可能だ。剣聖の脳は既に勝敗を諦めていた。
オーク達が突撃してくる。大地を踏み締め、巨体に勢いをつけて。
柵を棍棒で殴り付け、壊していく。素手で破壊するデカいオークも見える。
剣聖は最初に襲い掛かって来たオークの攻撃を躱し、筋を断って転ばせ、頭を地の魔術で砕いた。
ほんの一瞬だった。何事も無かった様に剣聖はようやく構える。
オーク戦士達は二手に分かれる、斥候を含んだ収奪部隊と、この老人の相手をする部隊に。
この枯れ木のような老いぼれはなんなんだ?戦士オーク達は囲むだけで攻撃をしない。
さっき何をしたのかが分からない。
同時に3体のオークが盾をしっかり構えて剣聖に挑む。
次の瞬間には、一体は手首を斬られ棍棒を取り落とし、一体は首が落ち、最後の一体は盾が顔面にめり込んでいた。
剣聖は息を吐く。老いとは嫌なものだ…既に息が切れ始めている事にうんざりする。
もっとだ、もっと慎重に攻めて来い、もっと囲んで来い。わざと2体の命は逃した。これで良い。
絶叫するオーク、激昂するオーク、傷付いた2体を下がらせる。包囲を広げ距離を取りつつ形を変える。
わざと一方の包囲を解き、一番強いオークが棍棒で思い切り地面を抉った。
ゴブリンや狼程度ならば場合によっては死ぬ。大量の礫が剣聖に飛来していく。
剣聖は姿勢を低くして、最低限の礫を大地の壁を生み出し防いだ。
剣聖は嗤う。そんなもので殺せる気か?と挑発する様に。
剣聖は軽く走る。わざわざ包囲を解いてくれたのだ利用しなければいけない。
包囲の端、両端に仲間の居ない孤立のオークを刈る。
剣聖は舌打ちする。なまくらが…と。
半ばまで首を断ち切られたオークが絶命する。
戦士オークは対処に困っていた。逃げ出すか。無理にでも近付いて命の奪い合いに持ち込むか。
明らかに動きは遅くなっている。剣の速度は落ちている。
一番強いオーク戦士は吼えた。もぬけの殻となって拍子抜けする程あっさり食糧を奪えた収奪部隊から、戦士オークを引き抜き合流させる。
全力で戦おう。死者に敬意を、この老いぼれに敬意を払うのだ。
オークキングは戸惑っていた。なんだ…この戦いは…敵は卑怯者で極悪な筈だ。一歩も動けずにいた。
包囲を狭める。ゆっくりと、小さな動きも見逃さない様に。そしてそれをずっと待っていた老人は嗤い、言葉を紡いだ。"グラウンドランス"
避ける隙間が無い。不味いと思ったオーク達はもう遅かった。
剣聖の周りの足元から巨大な石の槍が次々飛び出す。
腹に突き刺されば空中に縫い止められ。暴れても抜けない。絶命をしたものも居た。絶命させた槍が砕けて次の槍が生えてくる。
包囲は完全に崩壊した。なんとか回避出来たのは遠くで見ていたオークキングと、盾と武器を犠牲に軽傷で済ませたオーク戦士1体のみだ。
剣聖の足元がふらつく。魔力を使い果たしたのだ。
オークの戦士は傷をチラリと見る。胸から肩に掛けて抉られていたが、大丈夫だ。
オークキングは大量の血を流していたが、死ぬ訳ではない。
"もう充分だろう。もう充分生きた…。"剣聖は剣を支えに立っていた。
この手で殺めた人々、いつ帰れるかも分からない故郷、精霊の力を借りられない状況は剣聖の心も身体も蝕み続けてきた。
もう良いのだ…そう思いながらも、剣聖は最後の言葉を呟いた。
剣聖レーベ:「精霊様…どうか…どうか私に癒しを…」
ほんの少しだけ、体の疲れが取れて活力が湧いてくる。
剣聖は乾き切った涙を一滴流した。




