第二話 戦士になりたかった子供
水の大陸が魔法の使えない暗黒大陸に変わってしまってから3年後、追撃を逃れて暗黒大陸北西に辿り着いた馬車の一団は船を作り、大陸近くの島に逃げ延びていた。
生まれ育った地の大陸は暗黒大陸北東に位置している為、随分遠くにきてしまった。しかし、元々新しい土地に居住地を作る為に集まった一団は、急場を凌いで過ごす程度の資材も人員も足りていた。
島の南東は平原地帯でモンスターの中でも弱いゴブリンや兎が生息するのみだった為、さしたる脅威も無く街や村を作る事が出来ていた。
狩りや備蓄の消費のみによる不安で辛い時期が過ぎ去り、作物の収穫でも食料確保が可能となった今、いよいよ本格的に島の調査と故郷への帰還方法の模索が始まろうとしていた…。
(平原最北端、森に近隣する農村にてとある9歳の子供とその友達)
子供「今日の仕事は終わったし一緒に訓練しようぜ!」
友達「良いけど手加減してよ? 君は力が強いんだしさー」
森に住むオークや平原に住むゴブリンから村を守る為の内柵の見回りが終わり、自由時間となった子供2人はいつも通り訓練と称するチャンバラをしていた。
子供「そんな事言ってると、馬車に乗って泣く事しか出来なかった時みたいに何かあった時何もできないぞー…っと!」
子供ながらに努力しようとする姿は凛々しくも見え、チャンバラで力加減を間違える姿は子供らしくもあった。
友達「いっっ?!だから手加減しろって言ったじゃん!」
痛みを感じて半泣きでやり返し、お互い怪我をする様子は正しく子供であった。
チャンバラをし始めてから1時間後、疲れて座り込んでいた二人は話し込んでいた。
子供「馬車の中でさ、ずっと震えて一緒に泣いてるだけだった俺達も少しは皆の役に立てる様になったのかな」
友達「見回りの仕事もしてるし、手伝いや訓練で力もついて来たんだよ?大丈夫だよー」
子供「いつかみんなを守れる冒険者に、戦士になりたいよな。まあまだゴブリンくらいしか倒せないだろうけどなー」
少し悲しげに談笑しながらふと気付くと、日が落ち掛けてきていた。
友達「そろそろお父さん達迎えに行こっ」
二人は少し汚れた服装で駆け出し、内柵の見張り番の人に点検に異常が無かった事を伝えた。
子供「今日はお父さんが外柵の警備してるから、迎えに行きたいんだ」
見張り番の人は微笑ましく思いながら、後で怒られそうだな…とも考えつつ子供を外柵と内柵の間に出してあげた。何か異常があったら二人とも絶対に逃げる事、可能であれば近くの大鈴を鳴らして異常を知らせる事をしっかり言い含めた。
子供にとっての小さい冒険であり、父に肩車してもらったりする大切な時間でもあった為、いつも通り話を聞いて子供は外に出た。
友達「いいなぁ…僕は父さんに叱られて叩かれちゃうから内柵から出れないんだ…」
愚痴にも似た独り言を友達が呟いてから、二人は内柵の中と外で話しながらお父さん達を迎えに行った。
父達の担当の場所まで半分程の道程に…ソレは居た。
警戒してなかった訳では無い。ただ日常の無事が、気の緩む冒険が、あり得ない異常に気付くのを遅らせたのだ。
柵と柵の間に身体が緑で頭の悪そうな顔をした豚人…"オーク"が横たわっていた。
子供達は動けなかった…。十数m先のオークが立ち上がるまで…。その2.5mに近い体躯がこちらに歩いて来ようとするまで…。
友達「は、早く逃げよう!」
声を掛け、走り出した数秒後足音が自分のものしか聞こえてない事に気付いた時振り返ってしまった。
柵の向こう側でオークと対峙する子供の姿を何も出来ず眺める事となってしまった。
--(子供視点)--
なんでこんなとこにオークが。
乾いた口が音を発さずに動き、声にならない悲鳴を上げる。
心臓の音は嫌に煩く、乾き始めていた汗は服に染み出し、身体は石みたいに動かなかった。
手に持っていた棒は何の意味も無い事すら忘れ、オークを見つめたまま気が付いたら構えていた。
"オークの顔に棒を投げ付けて、怯んだ隙に走り抜ければ…!"
刹那、脳裏に打開策が浮かび実行に移した。
…恐怖で目を閉じていなければ…
…棒が顔にさえ飛んでいれば…
…早く逃げていれば…そもそも内柵の外に出なければ…
後悔ばかりが矢継ぎ早に浮かび、消えていく。
身体の浮遊感で目を開けた時、身体は掴まれオークの眼前に居た。
次の瞬間にはオークの顔は消え…地面が見えた。
--(友達視点)--
柵についた鈴を鳴らす事すら忘れ…友達が地面に叩きつけられるまで、動けずにいた。
過ぎた時間を取り戻したい様な気持ちで、必死に柵を蹴り鈴を鳴らした…。
柔らかいものが地面に叩きつけられた音と鈴の音で近くの大人たちが走ってくる姿が見えた数秒後。
子供と目が合った…。
目から光は失われ、口から血を吐き、力無くだらりと垂れ下がる手脚と共に…。
オークが子供の身体を持ち上げ…外柵の壊れた箇所から逃げる姿と共に…。




