漆黒の翼を喪失せし者
しいな ここみ様の『瞬発力企画2』の参加作品です。
最後のお題は『愛のお化け』『ねぎ塩焼きうどん』『漆黒の翼を喪失せし者』というバラバラな世界観のあるワードを全て入れること。Σ(º ロ º๑)
「漆黒の翼を喪失せし者‥‥」
ねぎ塩焼きうどんを食べながら、甥っ子が小さく呟いた。
「なんだ? 研ちゃん、その年で厨二病にでも罹ったのか?」
わたしは箸を止めてテーブルを挟んで向き合った研一を見る。
「あ、いや。そういうんじゃなくて‥‥。っていうか、今日相談に来た理由のひとつなんです。」
甥っ子が箸を持ったまま手を振ってちょっと照れたように笑う。
「ねぎ飛ばすな。お祖父さんの遺産の謎ってやつか? とりあえず食べちゃえよ。腹が減っては‥‥って言うだろ?」
「おなかふくれたら、頭に血ぃまわんなくならないですか?」
「いいから食べなって! せっかく研ちゃんのためにわたしが作ったんだから。箸振るな。ねぎ飛ばすな! っつの。」
甥っ子の研一は、わたしと年の離れた一番下の弟の末っ子で、甥・伯母とは言いながら下手すれば孫とおばあさんくらいに見える年齢差だ。
しかし、彼の祖父にあたる源助さんが大の推理小説ファンで、息子が探偵物の漫画で売れっ子の漫画家になっているわたしと源助さんは推理小説オタク仲間みたいな関係だった。
そして小さい頃からそんな環境の中に育った研一もまた、少年時代からわたしたちの仲間として謎解きごっこなどで遊んだものだ。
その源助さんが、1ヶ月ほど前に亡くなった。
いつかは‥‥とは思っていたが、やはり現実にいなくなってしまうと心にぽっかり穴が空いてしまったような気がする。
お祖父ちゃんっ子だった研一なんかはさぞかし‥‥
と思って、どんな声をかけようか悩んでいたとき、健一の方から「相談がある」と電話をしてきたのだ。
「遺産相続でなんかもめたのか?」
「いや、そうじゃないんです松露子伯母さん。もめるほどの遺産はないし、うちの家族はそんなんじゃないし。」
そう言って研一は、洗い物を終えてテーブルに戻ったわたしに1枚の紙と封筒を見せた。
『漆黒の翼を喪失せし者が見ている愛のお化けの背中にそれはある』
紙にはそれだけが源助さんの筆跡で書かれていた。
封筒には『研一に贈る』とのみ書かれている。
「謎解きだね。」
源助さんは、死の間際までこんな謎解きを考えてやがったのか?
あるいは、自分の死を悟っていたからこそ、かつての研一少年との謎解きゲームをもう一度やりたかったのかもしれない。
そう思ったら、わたしもちょっと湿っぽくなってしまった。
「この1ヶ月、ずっと考えてたんだけど‥‥手がかりすらつかめなくて‥‥。そしたら母が『青山の伯母さんに相談してみたら?』って。」
「ふむ。」
とわたしも腕組みをしてみる。
源助さんは心臓に持病を抱えていたが、頭は最後までしっかりしていた。当然研一がわたしに相談するだろうことも予測してたはずだ。
「お祖父さんの謎かけって、一つのパターンがあったと思う。」
わたしは源助さんが研一と謎解きごっこで遊んでいるところを何度も見てきた。そこには1つのパターンがあった。
「お祖父さんがさ、研ちゃんと謎解きゲームで遊ぶ時ってさ、何かを隠すのは研ちゃんとお祖父さんの関わった共通の場所に隠してたよ。」
「そういえばそうだったかもしれない。子どもの時のことだから、しっかりとは覚えてないけど‥‥」
「まずはお祖父さんと研ちゃんの関わった共通する場所を挙げてみようよ。」
「そんなこと言ったって、一緒に行った場所なんてTDLからUSJまで数えきれないほどありますよ。」
研一は途方に暮れた顔をした。
「それらは除外していい。少なくとも源助‥‥お祖父さんがこれを書いたのは随分弱ってからの、最近のはずだよ。封筒も紙も黄ばんでない。しかも自分の死期を悟ってから仕掛けたんだろうから、家の中か、家から行ける割と近い場所だ。そして研ちゃんが謎を解くまでの間、決して他の人には触れられない場所。」
「そんな都合のいい場所、あるかな? お祖父ちゃんの部屋は、もう母が整理を始めちゃってるし‥‥」
「『漆黒の翼を喪失せし者』とは何なのかが分かれば、一気に進むと思うんだがな‥‥」
久しぶりにわたしは推理頭をフル回転させる。
源助さんなら、何をそう呼ぶだろう?
一見するとゲームか何かのキャラみたいに思えるけど、源助さんは今どきのゲームなんかできない。
そういうデジタル世界の何かじゃなくて、もっと実体を持った何かだ。しかも研一にもわかるような‥‥。
「研ちゃん。キミの部屋に何か黒い羽がもげたものってないか?」
「いや‥‥そんなものは‥‥。あっ! 小学校にあった。」
「え? 小学校?」
「お祖父ちゃんも僕も通った小学校で、2年ほど前に統廃合で廃校になった。そこの図書室兼郷土資料室に、なぜか羽根が片方なくなった鵜の剥製があったよ! 建物はその後の使い道が決まらずに、そのままになってる。うちのすぐ近くだ!」
「それだ! そんな状態なら、誰も手をつけない。少なくとも研ちゃんが謎を解くまでの間くらいは。今から行ってみよう!」
わたしは研一の運転する車に乗って研一と源助さんが2人とも通った小学校へと向かった。
わたしの家からは1時間ほどかかったが、わたしはワクワクしっぱなしだった。
「もし、その鵜の剥製の見つめる先に『愛のお化け』に該当する何かがあったら、その背中——つまり背後にお祖父さんは研ちゃんに渡したい何かを隠したんだ。」
小学校は施錠してあるかと思ったら、木造の旧校舎の方は鍵が壊れていて簡単に中に入れた。その旧校舎に図書室兼資料室はある。
大半の資料は統合された小学校の新しい資料室に移されていたが、問題の鵜の剥製は古ぼけたガラス戸棚の中にまだ入ったままだった。
片方の羽根がないから、放っておかれたんだろう。
「間違いない。ここだね。」
とわたしが言う。
「昔はこの辺でも鵜飼漁をする漁師がいたらしいんだ。」
研一はそう言って、小学生時代を思い出しているようだった。
「でも‥‥」
と研一は首を傾げる。
「鵜が見ている方は窓しかないよ?」
「そうじゃないよ、研ちゃん。鳥ってのは人間みたいに顔の正面を見てるんじゃないんだ。顔の側面、目ん玉の向いている方を見てるんだ。鳥はよく首を傾げるようなしぐさをするだろ? あれはよく見ようとして、顔の側面に付いている目を対象に向けてるんだ。」
そう言ってわたしは鵜の目玉が向いている方向を指し示した。
そこには壁にかかった額がある。
何かの説明を書いたものらしく、額もアルミの安っぽいフレームだった。
「ああ、これはカルロ・ニョッキのことを書いたパネルだ。この町は一時期イタリアと交流があったらしくてさ。カルロ・ニョッキは司祭で教育者で作家でもあってさ。第二次大戦で従軍司祭として悲惨な現場を目撃して、その後戦争の孤児や負傷者、特に障害を負った子供たちの支援に生涯を捧げた人で‥‥」
「詳しいんだね、研ちゃん。」
「お祖父ちゃんも戦争経験してるしね。だからかな。これはよく覚えてるんだ。最後は自分の死後に世界初の移植用に自分の角膜を盲目の子供達に提供したんだって。」
「まさに『愛のお化け』に相応しいな。ねえ、そのパネル、少し壁から浮いてない?」
「ほんとだ。」
「その裏に何かが隠してあるんじゃないの?」
わたしがそう言うと、研一はパネルを持ち上げて裏側をのぞいた。
「あ! 何かもう1つ、金具に紐でぶら下げてある!」
外してみると、それは封筒に入った単行本くらいの大きさのものだった。
封筒には『見つけたね。青山の伯母さんも一緒かな?』と書いてある。全てお見通しだったらしい。
さすがは源助さん。
わたしは思わず笑ってしまう。
封筒から出してみると、丁寧に手作りされた白いボール紙の箱が出てきた。
箱のフタを開ける。
中に入っていたのは‥‥
「シャーロックホームズの初版本だ! 延原謙訳の!」
お宝だ。
保存状態もいい。
古書店などでは相当の高額で取引されるものだが、もちろん研ちゃんがそんなことするはずがない。
研一は本を両手で持ったまま目を潤ませ、口角を上げて微笑んでいる。
最高の贈り物。
最高の遺品。
でも、わたしはもうひとつのことに気がついた。
この1ヶ月、研一はこの謎解きをすることで大好きだったお祖父ちゃんのいない空白を埋めることができていたはずだ。
それは‥‥
源助さんの研ちゃんへの最後の愛の形じゃないか。
源助さんのこの謎解きゲームこそ、かわいい孫のために残した『愛のお化け』だったんじゃないか。
了
ここで脱落か‥‥と一時諦めかけたんですがね。
やりましたよ。しいなさん。。(`・ω・´)
ダイイングメッセージをダイニングで解くという。。。(^◇^;)




