第六章 花蘇芳の幻
母上の屋敷までは、桔梗が牛車を出してくれることになった。
彼女の身なりから、庶民ではないことは感じていたが、こうして並ぶと僕とは釣り合わない気がしてしまう。桔梗の従者は頑なに僕を見ようとしなかった。
母上の屋敷に到着し、僕と桔梗の二人だけが中に入ることになった。
ここまで来ても、拒絶されるかもしれないという不安が胸の中を渦巻いていた。
そんな僕の顔を見て、桔梗は僕の手を包みこんだ。
彼女には、安心させたい時に手を握る癖があるのだろうか。
手をつないだまま、ゆっくり息を吸う。
桔梗は僕の真横に立ち、共に中に入ろうとしていた。その姿が、一人で立ち向かうわけではないという思いを僕に抱かせ、自然と一歩を踏み出させた。
刹那、辺り一面に花蘇芳の花びらが舞ったように見えた。
「服喪だというのに、花を撒くなんて…」
「私には花なんて見えなかったけど…」
中に入ると、母君の屋敷の従者が僕たちを出迎えた。
「お待ちしておりました、柊様。母君からの遺書を預かっております。どうぞご覧ください。」




