第四章 災いの子
いつものように境内を掃除していると、青ざめた顔の神主に呼び止められた。
「柊よ…お前はなんて可哀想な子なんだ。」
日頃穏やかで、あまり感情の起伏を見せない神主が、苦痛に顔を歪めていた。
「僕はなんともありません。どうしたというんですか。」
僕には神主が何にこんなに苦しめられているのか、心当たりがなかった。
「柊よ、私はずっとお前は赤子の頃、この神社の境内で拾った子だと伝えてきたが、本当はとある貴人から内密に預かった子だったんじゃ。」
初めて聞く事実だった。
「預かった…?では、僕の両親が誰か知っているんですか?なんで僕は預けられて、そのままに?」
衝撃のあまり、問いが矢継ぎ早に口をついた。
神主は、一瞬戸惑って口を噤んだ後、ゆっくりと語り始めた。
「お前は尊い身分の夫婦のもとに生まれたが、災いとなってしまった。」
災い?子が生まれることが災いとは、どういうことなのか。
「いいか、お前は何も悪くない。ただ、お前の父君が、どうしてかお前を不義の子と思い、生まれてすぐに亡き者としようとした。それに抵抗した母君が、お前をこの私に預けたのじゃ。」
何もかもが衝撃的で、僕は口を開けることすらできなかった。
孤児ではなかったことも、身分のことも、望まれぬ子だったことも。まるで現実の話とは思えなかった。
「それで、お前の母君が亡くなって…。その家の従者が、母君からお前への遺書があるので、取りに来てほしいと言っている。」
僕は否とも応とも言えず、その場を立ち去った。
自然と足は、本殿のほうへ向かっていた。




