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第二十一章 犠牲の果てに
景色が変わり始める。
人の営みが見え、文化の芽生えが感じられるようになった。
女はなおも「捨てないで…」の一言だけを繰り返している。
見慣れた建物が視界に現れる──御所だ。
その瞬間、女の声が変わった。
「離さない。」
最後に見えた光景は、私の死後のものだった。
桔梗が文を手に、泣き崩れている。
「蘭様……どうして……置いていってしまわれたのですか。」
「私が無知で無力だったから、あなた様を失ったのですか。」
「この桔梗、あなた様のいない世で生きる光なぞ見出せません。」
「もう一度あの日に戻れたならば……今度こそ、蘭様に一人で戦わせたりしないのに。生も死も、共にありたかったのに。」
あの時の私は、自らだけが犠牲になることで桔梗を守ったつもりだった。




