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第十三章 花蘇芳に包まれて
また瞼が重くなり、目を開けると、今度は私ひとりだった。
譲位を迫る敵軍の鬨の声が、遠くから押し寄せてくる。
私は、この争いに負けたのだ。
従者たちにはすでに暇をやり、逃がしてある。
そして、私の愛おしい后にも、別れを告げた。
本当のことを言えば、彼女はどんな手を使ってでも離れなかっただろう。
だからこそ、傷つけてでも突き放した。
「政などなにもわからぬそなたがいては、足手まといだ。」
そう告げたときの、彼女の顔が忘れられない。
離縁は済んでいる。
故に、私が罪人として裁かれても、彼女に累は及ばないだろう。
ただひとつ願うのは、私亡きあと、この歌が彼女の手に届くことだけ。
「犠牲は私ひとりでよいのだ。……幸せに生きよ、桔梗。」
私は毒を入れた盃を呷った。
薄れゆく意識の中で、花蘇芳の花弁が私の身を包んでいるように感じられた。
―――
次に目を開けたとき、そこは本堂だった。
思い出した。
僕は――いや、私は、自らの正体を。
そして桔梗の想い人が、誰だったのかも。
知らずのうちに、彼女の手を強く握っていた。
痣の枝は、首元まで伸びていた。




