おくることば
「馬鹿なことしたなぁ」
そう言って彼は笑った。
腹立たしいくらいに。
「そんなことするくらい辛かったのか」
げらげらと笑う。
あの頃みたいに。
「放っておいてよ」
私が言うと彼は肩を竦める。
「なんだよ。俺に会いに来てくれたんじゃないのか?」
「別に。そんなつもりじゃなかったよ」
「本当は?」
意地悪く言う彼の言葉に私は黙りこくる。
とっくにバレていた。
彼に会おうとしていたことなんて。
だから、何も言ってやらない。
「まったく。君は変わんないなぁ」
そう言って彼は私の背を軽く叩いた。
「こんなことしなくたっていずれ会えるのに」
「……そんな保証ないじゃない」
「まぁ、何にも知らないとそう思うよな」
くすりと笑い、彼は私の身体を軽く抱きしめた。
温かい。
少なくとも私はそう感じた。
「小さいね」
ぽつりと落とす。
「こんなに小さかったんだね」
もう一つ、落とす。
「もう六年も前だしな」
彼は笑う。
温かな言葉が遠く感じた。
「次会う時はのんびりお話ししよう」
聞こえないと思ったけれど私は答えていた。
「数十年。ちゃんと待っててくれる?」
彼の返事は聞こえなかったけれど、きっと待っていてくれるだろうと私は思った。
***
うんざりするほど母に泣かれ、辟易するほど父に怒鳴られた。
真逆の反応と態度なのに話していることはまったくもって一緒だ。
要するに――自殺なんてするな。
馬鹿みたい。
こっちは耐え切れなかったからしたのに。
喉が渇いて水を飲んだのと同じだ。
なんでそれを責められなければならないんだ。
……なんて思っていたけれど、しばらくは生きてやるか。
両親は私を理解はしてくれないけれど、理解しようと必死になってくれているのだから。
ベッドに横になったまま私はスマホを手に取りLINEを開く。
六年前から更新されていない彼のトークルーム。
小学生の頃に死別したのに、今でも時々見てしまうその場所に私はぽつりと文字を落とす。
『もう少しだけ頑張ってみる』
決して既読にならない。
けれど、彼は待っていてくれるだろうと思った。
「実際、待っていてくれたしね」
馬鹿みたいに呟いた言葉は私に力をほんの少しだけ与えてくれた。