囚われの男
いらっしゃいませ。
しばらく時間が進んで、彼らが疲労困憊で歩けなくなった。
玲唯はもはや立つことすら辛くなってきている。
そんなこともあったな、と思い起こしながらも、この後しなくてはならないことを考えただけで気が重かった。
なぜあの男を殺すために一度自分を殺さなければならないのか…。
まあどうせ世界線をやりなおして復活するのだろうが、にしても胸の内は良くならない。
しかしいくら嫌であっても湊人を殺すためであればなんだってできる自信があった。
だから、もちろんこの場では仕方なく殺さざるを得ない。
この視点から見ていると色々過去の答え合わせができて面白い。
湊人の謎の行動の意味や、都合のいいぐらいの素材調達力。
あの数々の点がどんどんつながってゆく。
そして、いまや人の不幸すら笑えるようになってしまった自分に気づくことはできなかった。
とりあえず先回りして王国の魔法砲を作る。
見れば、玲唯と湊人は何やらテントを立てているようだ。
二人が完成したテントに入る。
しばらくして湊人だけ出てきて荷台を弄り始めた。
もちろんこの隙を逃すわけはない。
テントに照準を合わせて、発射する。
とんでもない反動と共に砲台が崩壊した。
とともに、テントを丸ごと包み込み、消しとばす、かのように思われたが、玲唯に与えた幻想の加護でまだかろうじて生きているようだ。
しかし砲台は壊れてしまった。
ではこちらが直接手を下すほかあるまい。
素早く右手を翳し詠唱する。
瞬間眩い光と共に魔法砲が消える直前、光線がテントに衝突し、易々と玲唯の防壁バリアさえも破壊し貫通した。
もくもくと舞っていた砂煙と土埃がようやく収まってきた。
そこには、無惨にもボロ切れとなったテントの端切れと、地面に膝から崩れ落ちた湊人がいた。
手を顔にあて、今にも叫び出しそうな気配である。
いい気味だ、と思いつつも、一体なぜ湊人はこんなに玲唯に執着しているんだろうと不思議にも思った。
次の瞬間、湊人がふっと消えた。
違う世界線に行ったのだろうか、と憶測を巡らし、みると確かに湊人は違う世界線をやり直している。急いで戻り、アーケンス王国を作り上げる。
そもそもアーケンス王国のような絶対王政的な国家がこの世界に存在し続けることは限りなく難しい。
魔法で一瞬にして下剋上があり得るからだ。
でもそれが成立していたのは私がそう作ったから。
それ以上でもそれ以下でもない。
すると突然、玲唯が発砲して砲台を乗せた塔を破壊する。
あの時突然に湊人が言った言葉のままに撃った結果だが、こんなにも正確に当たっていたとは思わなかった。
そしてそのことに感心しすぎたばかり、彼らのところに鉄板が飛んでいったことに気づかなかった。
ふっと目を向けると、湊人が玲唯の上に覆い被さっていた。
瞬間的に生理的な嫌悪感と憎悪が湧いてきたが、どうにか理性で押さえ込む。
手がぷるぷると震える。
見たくもなかったので見なかったふりをして王国の諸要素を追加していくが、怒りのあまりかなり雑な設定ばかりになってしまっている。しかしそのことに気づくことはなく、ただ自分の見たことと合うように作ることしか意識しなかった。
ようやく完成し、嫌々ながら彼らの元の戻ると、二人とも寝落ちていた。いくら嫌いであると言っても今死なれては困る。そんな生ぬるい死に方で逃げられては玲唯に憎悪が生まれなくなってしまうし何より自分の気が済まない。
仕方なく彼らの周りにテントを生成してテントの中に入れて保護する。
この時ミヌシューラはもうすでにあの凌辱は終わったと思っていたが、実はまだ始まってもいなかったことを知るのはその後の話だった。
色々なことが終わり、気を抜いた瞬間、ふっと今まで忘れていた、いや無視していた疲れと眠気が襲ってきた。意識が徐々に遠くなり、まぶたも重りでも引っ掛けられたかのようにどんどんと落ちていき、必死で抵抗するが全くの無力。
そのまま深い眠りに落ちて行った。
次に目が覚めたのは真夜中の頃だった。
しかしその目覚めは決して心地よいものではなく、何か不快感と共に嫌な予感がした。
ずんっ……と重い空気の中、何かが頭の中でぼんやりと光っているような錯覚に陥る。
そして次の瞬間、自動再生のように、言葉が、耳に聞こえた。
もう二度と、聞きたくなかった音。
そして、終わったはずだった音。
「……そんなっ……いやっ……ぁ」
生理的な嫌悪感が身体中を駆け巡る。
次第にゾワゾワと背筋を駆け上がり、身を固くする。
しかし何という苦痛だろうか。
見たくなかったもの、今にでも消してしまいたいものが目の前にあるというのに、そしてそれをする力もあると言うのに、たった一つの、それでいて大きすぎるほどの目的、「湊人をこの手で殺すこと」、そのためだけにそれを我慢しなくてはならないなんて。
これ以上そのことを考えていると頭がおかしくなってしまいそうだった。
ふと思い立って、ほぼ完成したアーケンス王国に戻り、建築を進めることにした。
無我夢中で出来ることがなければ正気を保てる気がしなかったから。
長い時間が経ち、アーケンス王国は完成した。そして、その中で、人の営みが始まった。
その光景を遥か上空から見ながら、かつて遊んでいたことを思い出す。
自分で作った街の中で、自分だけの暮らしを作る。
懐かしい光景を目に浮かべながら、街中の様子を眺めていると、静かな陽気を浴びながら無心になれたのだった。
また、王国の完成は、暗に舞台の完成、とも言えた。
それと同時に、夢が、希望が、徐々に確信めいてくることが身をもって感じられた。
これは決して、幻想なんかではない、予定、いや、未来だ。
私たちの望む未来。
そして、それは、湊人の完全な収容(Containment)と言っても過言ではない。だからこそ、決して収容違反(Containment Breach)を許してはならない。彼は、湊人は、いつまでも、未来永劫、永遠に、苦しみの中で生きていくのだから。
孤独ながらに力を持ってしまえば、狂気に走る、と言うのはこのことなのだろう。
もはや大切な物も人も、全て失くしてしまえば、もうどうでも良くなる。
この世界に心残も余念も、何もない。
そうなれば、もはや一時の感情さえも、目的になり得てしまうのだ。
そんな、理性を失ったような突発的な、非合理的な行動をすることを、狂気に走る、と言うのだ。
しかし玲唯にはそんな細かなことを考えるほどの気力は残っていなかった。
自分がやっていることは正しいのだ、とただひたすらに行動してきた彼女にとっては受け入れ難いことだろう。
もしかしたら、薄々気づいてはいたのかもしれないが。
嫌々ながらも、あのテントのあった所まで戻ると、二人はぐっすりと眠っていた。
何故かテントの中はとても平和そうだった。
そんな様子に意味もわからず怒りが噴出する。
絶望に染まった空気がテントを瞬く間に覆い尽くすほどに、心のそこから憎しみが溢れてきた。
それは、湊人にだけではない。過去の自分にもだ。
こんな奴なのに、何故身体を許してしまったのか、いや、それ以前に、そもそも何故好意を抱いていたのだろうか?
こんな自問自答を繰り返したとて、何か収穫があるわけではないと分かっていてもなお、せずにはいられなかった。
同時に、その疑問は自分の不遇さへの憐憫と絶望にすり替わってゆく。
自由を希求してなお、それが叶わないこと。
自分の最も身近で、親密で、大事だった人。
それに、裏切られたこと。
そして…………。
結局、「湊人が全て悪い」というわかりきった陳腐なことに辿り着いただけだった。
更新遅れてしまいました!申し訳ありません!
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