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夢と幻想の狭間で君に  作者: 稲戸結衣/はくまい
終わりの始まり、始まりの終わり
5/6

平行世界と時間旅行

いらっしゃいませ。

深い眠りから覚めた時、隣には湊人がいた。

私が起きたことに気づくと、思いっきり抱きついてきて泣いて喜んでいた。何だか懐かしいような気がした。

しかし一体どうして湊人はここに戻ってきたのだろうか。

湊人にそのことを訊ねると、少し困ったような顔をした。

「……まああれだよ、時間旅行(タイムトラベル)だ、別の世界線の玲唯に会って、事情を聞いたから、時間を遡ったってわけだ」

「…つまり別の世界線の私は」

そう言うと湊人が私の頭を抱え込んで言う。

「…それ以上は想像しなくていい。したところでいやな気分になるだけだ。」

そう言われても気持ちは晴れなかった。

「…ねぇ湊人」

「どうした」

「どうしたらあのことを、あの感覚を忘れられると思う?」

湊人は少し笑った。

「…よくそういう小説であるような感じだったら『そんなこと俺が忘れさせてやるよ』みたいな感じなんだろうけどな…僕はそんなことはできないしな」

「……出来ないの?」

「……ん?」

「……湊人じゃ、私を、救えない…の?」

意地悪な質問だとは思ったが、そうしてでも何かに縋りたかった。

湊人が黙り込む。

沈黙の中でふとあることに気づく。

湊人はあの時、一人称が「俺」だった。

今、私と話しているときも、手紙の時も、一人称は「僕」「私」だったのに、あの時は「俺」だった。そのことは何か関係があるのだろうか。

次の瞬間だった。

湊人がばっと私に覆い被さり、布団に押し倒す。

「ひゃっ?!」

思わず変な声が出てしまったが、それよりも湊人の目に注意が行っていた。

湊人の目には使命感と、愛情と、あともう一つの何かが宿っていた。

そのあともう一つは何だろうか。

だが何故かわからない。いや、分からない、というのは正しくないかもしれない。分かりたくない。

それはきっと、知るべきものではないのだと。

そう思った。

湊人が優しく語りかけてくる。

「……玲唯、どうすれば僕が君を救えるんだ?」

そんなこと、分かりきっているはずなのに。

意地悪だなと思った。

「……私の口から言わせるの?」

だが。

「………言わなきゃ分からない。一体玲唯は何を求めてるんだ?」

その言葉には冗談が含まれているとは思えなかった。

「…何って……湊人が、私を……その……」

湊人は少し目を細める。

「……愛してくれればいいの」

「僕は君を愛している。もうこれ以上の愛情は僕は持ち合わせていないよ。」

何かが違う。そうじゃない。そう、強く訴えたい。

「…違うの。……その、私を、抱い…」

その続きは湊人によって遮られた。

「無理だよ」

「えっ?」

湊人は心底げんなりした声で言う。

「町田に聞いたよ、あの時のあれ、不同意なんだってな」

初めて聞いたことに驚く。

「えっ?そうなの?」

だが湊人は苦しそうな顔をしていた。

「もう嫌なんだよ、あんなことになるのは」

少なくとも自分はそう思っていなかった。

一体誰がそんなことにしたのかは分からないが、なぜ湊人が苦しまなくてはならないのかが分からなかった。

「そんなことをして玲唯を傷つけた僕に、玲唯を抱くことなんて許されない」

「湊人」

呼びかけるが、湊人は俯いたままで何も答えない。

何かが心の中で動いた気がした。その次の瞬間だった。思いっきり湊人を抱えこむと、横に転がり、湊人を地面に押し倒した。

湊人の顔に驚きの表情が見えた。

そのまま腰を湊人の上に下ろす。

湊人は何が起きているのかわからない様子である。

そのまま全身の体重を湊人に預ける。

顔、胸、腹、腰、脚。

全てが湊人の上に乗る。

ぐぐっと何か硬いものが、当たる。

それを感じながら、湊人にキスをした。



そろそろ日暮れという頃だろうか。

温かな体温を感じながら、床につく。

きっと布団がぐっしょりだろうから、明日洗わなくてはならないなと思った。

すーっと目線を動かしていると、障子の隙間から誰かが覗いていることに気づく。そして目と目が合った。

だがその人は逃げるでもなく、何を言うでもなくただこちらを見ていた。

「…あなたは誰?」

率直な質問に、その人は答える。

「…天月です」

その人、いや、天月さんは、障子を静かに開けると、部屋の中に入り、また障子を閉めた。

「…申し訳ありません」

そう言うと、彼女は腰につけていた銃に手をかけようとした。

その理由が、何故か私には分かった。

「やめて!!」

天月さんの手が止まる。

「……別に気にしてないから。やめて。」

そう言うと天月さんは手を降ろし、言った。

「続きをどうぞ。」

気にしていないとは言っても、他人の前でそういうことを平気でできるという訳ではない。

「…それは…」

「ではやはり気にしているのでは?」

「違う、他人の前で堂々と出来るわけじゃないってだけ。」

「……そうですか」

この様子からして何か他に言いたいことがありそうだが、彼女はきっと何も語ってはくれないだろう。

そう思い、何か言わなくては、と思い。

「……天月さんも、一緒にしますか?」

瞬間、天月さんの顔に驚きと羞恥の色が浮かんだ。

自身もしばらく硬直した後、自分が何を言ったかに気づき、耳まで赤くなる。

「いやっ?!ち、ちが」

慌てて訂正しようとするが、それもまた天月さんに遮られる。

「はい」

思わぬ返答に思考が停止する。

「………はへ?」

「します、と言っているのです」

あまりにも堂々と言うので驚いて天月さんを二度見すると、口調こそ堂々としているが、顔は真っ赤であり、それどころか首まで赤くなっていた。

「もしかして」

その続きは言わなかったが、ようやく全てに理解が追いついた。

天月さんも何も言わない。

「…湊人の、女たらし」

実際湊人に他意があったわけではないだろう。ただ心からするべきだと思ったことをした結果である。だからこそ、憎い。無意識のうちに他人を堕としてしまうなんて。でも自分もその一人なのだ。憎みきれないのも仕方ない。

何と罪深い人なのだろう。


二人で布団を挟んで対面する。

布団をそろそろと剥がす。

ついに湊人の服まで……というところで湊人の目がうっすら開く。

だがそのことは私しか気づかなかったようで。

天月さんはそのまま服を脱がせにかかった。

湊人はむくりと起き上がると、一瞬天月さんの方をぼんやりと見て、急に目をぱっちりと開けた。

「……姉さん?」

その声に天月さんがパッと手を離して湊人を見る。

「…あっ、あ…あ…」

声も出ないようでそのまま固まってしまった。

その様子を見て、湊人はゆっくりこちらに視線を向ける。

「……どういう……?」

ただ恥ずかしいばかりである。かろうじて出た言葉は「ごめんなさい」だけであった。

湊人はそのまま布団を被ると、再び眠りに落ちていった。

残った二人は目を見合わせ、笑った。

どうなるかは分からないけど、多分湊人が守ってくれる。

それに天月さんもいるし。

そんな淡い期待を持てた玲唯は全ての平行世界(パラレルワールド)でこの世界線だけであったことを彼女らは知らない。


人知れず着々と、そして淡々と、時間は進んでいく。


ベルサイユ条約の締結から978日。

大東亜戦争まであと7353日。


だったはずだった。


大東亜戦争まであと1172日。

函館講和条約まであと1823日。


時間旅行(タイムトラベル)時間矛盾(タイムパラドックス)を生み、歴史を変える。

その歪みは、余波は、全て幻想世界へと流れ込む。

幻想世界は常に改変され続けているのだ。

そして、その反動で、消えゆくものもあるのだ。

———それは彼ら自身も例外ではない。

いかがでしたでしょうか?

今回も相変わらずの内容ですが、お読みいただきまして本当にありがとうございます。

もし、お気に召していただけましたらぜひ!感想もよろしくお願いいたします!

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