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夢と幻想の狭間で君に  作者: 稲戸結衣/はくまい
君がための復讐
11/11

幻の記憶

いらっしゃいませ。

ぱっ


意識が覚め、目を開けるとそこは八百屋の前であった。


「…戻ってきたのかな…?」


半ば反射的に服を見るが、何も変わった様子はない。


それに、鼻腔にはまだ紅茶の香りが強く残っていた。


「………」


しばらくそのまま立ちぼうけていたが、

ふるふると頭を振ると、側の手提げをもう一度引っ提げ直した。


「…で、今日の夜ごはんは何にするんだっけ…」


そう呟きながら目の前の食材を眺め…


「………あれ?」


何かの違和感に気づく。


「…トマト…は…?」


目の前にあったはずの野菜がない。


「……」


そのまま考え込んでいると、かすかに雑踏に混じって人の叫ぶような声が聞こえてきた。


「…?」


その音に不安を覚え周囲を見渡すが、特に何も起きていないようであった。

正常性バイアスが働き、空耳だったのだろうか、などと思っていると。

突然爆音とともに周囲が真っ白に塗りつぶされた。

とっさに張った防壁(バリア)も軋むような、とてつもない圧力が、街全体を覆っていった。


白い光が消え、軋むような音が鳴り止んだ時、

そこは見渡す限り………ん?

自身がいる場所から数百メートル離れた位置の両サイドには、半分が完全に削られたような建物が並んでいた。


「…ふぇ…」


呆気に取られていると、横から閃光が射し込んできた。


咄嗟に目を細め、光源を見る。


そこには二つの人影があった。


逆光で、というよりも、眩しすぎて直視できないがために、輪郭しかわからない。

陽炎のようにぼやけた様子の影だ(・)け(・)が、見えたはずだった。


「……湊人?」


分かりうるはずがないがために、一瞬反応が遅れた。


相手を、湊人が追い詰めているのか?


………いや、違う。

湊人が(・)、相手に追い詰められているのだ。


そうわかった瞬間、身体が無意識に動いた。


右手をばっと翳し、口が詠唱を紡ぐ。


「エト・セト・ビーミア・エクスプローズ!」


瞬間、右手の前から眩い光が発せられたかと思うと、太い光線が空気を切り裂くかのごとく一直線に黒い影に向かう。


光線が影に重なる、その時だった。


一瞬、ほんの一瞬ではあるが、どこからか視線を感じた。


憎悪と、悲嘆とが、ごちゃ混ぜになったような、讐心を具現化したような、そんな視線だった。


体が震えた。背筋を冷や汗がつたう。

そのほんの一瞬が、永遠のように思われた。


だが、時計の針は、進む。必ず、進む。

例え微小な角度でも、距離でも。


玲唯は、粘度が増したかのような時間の流れを全身で感じながら、光線が影をあっという間に飲み込んでいくのをただ見つめることしかできなかった。


「…ぁ」


吐息なのか、声なのか、分からないような小さな音が漏れる。


そして、影は跡形もなく、消えていた。


次第に、時間の流れが普通に戻っていく。


「玲唯っ?!」


恐怖で硬直していた私の耳に湊人の叫ぶ声が聞こえた。


「湊人ー?」


かろうじて動いた足を踏み出しながら、障害物を避けてよろめきながら走る。


しかし、その中に一抹の不安がよぎった。


特に何か思い当たることもなかったが、

どうにかしなければという強迫観念に囚われた。

これが精神操作(マインドコントロール)というなら、おおよそその主はミヌシューラだろう、などと頭の隅で考えていたが、そんな思考の余白を塗りつぶさんと真っ黒な観念が迫り来る。


必死で自らに暗示をかけるも、焼け石に水だ。


あっという間にどす黒く染まっていった。


やっとの思いで湊人の元に辿りつくも、湊人はどこか遠くを見てぼーっとしている。


「はぁっ…はぁっ……湊人…?湊人!ねぇ?湊人?」


湊人はようやくこちらに気づいて愛想笑いをしながら、誤魔化す。


しかし残念なことに、今回の湊人の誤魔化しは下手くそだった。動揺が隠せていない。


そもそも嬉しさのあまり遠くを見てぼーっとしていることなどありうるだろうか。


ともかくそんな誤魔化しは通用しない旨を伝えるが、湊人は何も言わない。


ふと湊人の視線の先を辿ると、そこには世にも奇妙な、異形の物体が、いや、生命体がいた。遠目でみるにはピンク色のスライムのような、それでいてところどころムラのある赤色が混ざっているものだったが、それが徐々に近づいてくるにしたがって徐々に鮮明になってくる。それはまさに肉と憎みの塊だった。悍ましいほどの肉の破片が、うぞうぞと蠢いているのだ。

見るだけで吐き気が催されるほどに、本当に悍ましい。もはや生命と呼べる代物ではあるまい。命に対する冒涜者だ。


そんなことをうだうだ考えていると、ふと嫌なことに気づく。いや、気づいてはいたが。



近づいてきている。


それもかなりの速さで。



思わず声が漏れる。


「…どうした?玲唯?」

湊人が尋ねる。


「…えっと…あのピンク色の…もの?人?分からないけど、こっちに近づいて来てない?」


「え゛っ?!」


湊人が慌ててそ(・)れ(・)に向き直る。


その瞬間、突然声が聞こえた。


「さっさと殺しておしまいなさい!」

「あんな悍ましいモノ!生かしておく価値などないわ!」


どこかで聞き覚えがあるような気がしたが、どうも思い出せない。


その言葉の赴くままに手のひらを遠くのあ(・)れ(・)にかざす。


「イレ・プリゲージャ」


詠唱した瞬間、まばゆい光と共にその怨念の集合体が歪んだ檻の中に閉じ込められた。


本来なら遠すぎて聞こえないのだろうが、マナによって感覚領域を広げたために、嫌なほどに鮮明に音がする。


ぐちゃ、ぬちゃ、がきゃっ、みきゃっ


今まさに惨殺されているかと思われるほどのなんとも惨い音が耳に響く。


それに応じるように、その肉塊は檻に体当たりをして、逃げ場を探しているようだ。


なんとも憐憫を抱かざるにはいられないものだ。


と、ふと目の前で何かが蒸発した音がした。

そこには融け切った肉塊の残骸があった。


……なんとも下衆な行動か。


こんなモノ無くなってしまえばいいのに。


瞬間、無意識に口走った。


「…このまま死んでくれる?」


そのまま腕を思いっきり振り下ろす。


速度を得た幻の檻がメキメキと音を立てながら地を割って沈んでゆく。


やがて、その音も、振動すらも聞こえなくなった。


ぱっと振り向くと、湊人がこちらを凝視していた。その顔を見た瞬間、安堵の感情が心の底から湧き起こってきた。


「湊人ー!無事で良かったぁ!!!」


そのまま湊人の元に飛び込むが、湊人は浮かない顔をしている。

その瞬間、心のうちにどうしようもないほどの不安がぼこぼこと湧いた。


「あっ、あぁ、良かった、か、うん。」


不安がとてつもなく大きくなる。

もはや自分だけでは抑えられないほどに。


「…?どうしたの?……もしかして、嬉しくなかった…?」

「…っあ、いやっ、そういう」

「どっちなの?」


もう止まらない、し、止める気もない。


この不安が埋まるまでは、止まれない。


「う、嬉しいよ?嬉しいんだけど、その、何ていうんだろう、玲唯、なんか変じゃない?今日」


そんなことは自分でわかっている。

でも、だからこそ、今この場所で弁明をして欲しいのだ。


不安を消すために。


「…そうかな?私はいつも通りだよ?変なのは湊人でしょ?」

「いや…」

「変じゃないよ?大丈夫だよ?湊人?ねぇ、ちゃんと見て?何で?ねぇ?」


捲し立てるように、

湊人がちゃんと私と向き合ってくれるように、

話しかける。


でも、応えてくれない。


「ねぇ湊人?聞いてる?見てる?ねぇ?湊人?…ねぇ、湊人…?……湊人?」


自分でも声が弱々しくなっていくのを感じる。


あぁ、なんでだろう。


涙は出ないけれど、このどうしようもない不安と悲しさでいっぱいな心情を、どう表現すればいいんだろう。


「———もしかして、私のこと、嫌いになっちゃった?」


瞬間、湊人の目の奥で何かが動いた気がした。


「…玲唯、お前何言ってんだよ?僕が玲唯を嫌いになると思うか?」


「でも」


「でも、じゃなくて。玲唯はいまだに気づいてないみたいだけど、僕は、玲唯が好きだ。大好きだ。愛してる。もう愛してやまないんだよ。それになんで気づいてくれていないのか分からないけど、少なくとも自分が玲唯を嫌いになることはないということだけは知っててほしいな。」


その言葉には、きっと湊人の本心が詰まっているんだろう、ってわかってはいるのだけど。


なぜか……なぜか、信じられない。


不安で、不安でたまらない。


「———言葉でだけだったら何でも言えるよね、ね?湊人?」


咄嗟に、自分でもよくわからないこの感情を、湊人のせいにしてしまう。


「じゃあどうすれば分かってもらえる?」

「…態度で示してよ」

「態度…?」

「そ、態度。…あとは自分で考えて。」


自分でも何が欲しいのかわからないのに、

とりあえずそれっぽいことで済ませてしまう自分に、嫌悪感を抱かざるを得なかった。


湊人はうつむくと、そのまま黙りこくってしまった。


それにしても、一体どうしてこんなにも不安が消えないのだろう。


何を詰めても、いくら塞いでも埋まりそうもな

い空虚が心を蝕んでいる気がしてならない。


そんなことを考えながら歩いていると、


突然背後から声が聞こえて。


「玲唯っ!」


その声を聞いて、ゆっくりと立ち止まる。


湊人が駆け寄って来るのを背中で感じていると、その勢いのままに私の肩を掴んで振り返らせられた。


思わぬことに目を見開くが、すぐさま目を細めて睨む。


「———何?」


「…玲唯、僕じゃダメなのか?」


「…えっ?」


「僕が、力不足だから、なのか?」


「……っ」


そういうわけでもない、というよりは元々答えなどない。しかしそういう風に思わせてしまったことに後ろめたさを感じて。


「どうしたらこの気持ちが分かってもらえるのか、他に玲唯の求めてる答えはあるのかもしれないけど、僕には分からない。これしか、わからなかった。」


言っていることが何もわからず、一瞬頭の中で考え込んだ。が、次の瞬間、嫌な予感が頭をよぎった。反射的に湊人の顔を横から張り倒す。


この変態……変態が。

そうとしか思わなかった。


「……湊人の…バカ!アホ!…変態!!」


私が、どうにか紡げた言葉はそれだけだった。

いかがでしたでしょうか?

今回も相変わらずの内容ですが、お読みいただきまして本当にありがとうございます。

もし、お気に召していただけましたらぜひ!感想もよろしくお願いいたします!

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