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習作、パスティーシュと多少の考察. 1

仮タイトル:果実の断面がラベルに刷られている飲料は果汁100%らしい


以下は免責のため。

*村上春樹の短編の続き:(原作のタイトルは「夜の汽笛について、あるいは物語の有効性について」)を書くことが、高校の国語の課題として出されるらしい。私はそれの真似をした。いわゆる翻案である。そして勘違いされると弱ってしまうのだが、“もちろん原作の続編ではない”。単なる習作として書いたため、その点は理解されたい。認めることとして、プロンプトや「私のことどれくらい好き?」といった契機的な文言は引用(ひょっとすると剽窃している。そして文体も浅知恵ながら意図的に模倣している。しかし、その文学的な内面に関して、大きく変えている(少なくともそれを企図している)ことは、極めて文学的な(あるいは私的な)観点ではあるが、自負するところである。


しかし、然るべき第三者に剽窃とされた場合は、即座に削除します。

(私に限ってそんなことはないと、内心安穏としていますが)

 他の意見から湧いた着想は、やはり凡人の模倣に過ぎないのでしょうか。

 部屋の中はひっそり閑としていた。少女はシエスタ気分でロッキングチェアに座る。そこに少年が質問する。「君は僕のことどれくらい好き?」その質問はハッキリさせる、微睡に似たぼんやりとした意識を。少女はかなり長い事考えてからはっきりとした調子で言う。

「極夜の太陽くらい」

そのまま、少女は話を続ける。

「そこは地平線が望めるところじゃないから、あたりは真っ暗で、銀世界は見えない。空気は澄んでるけど、星は何一つ見えないんです。ただ一つ、不自然に大きい三日月が東の方にポツンとあって空の上にはその他に何もないんです。北極圏の夜は深々と冷え込んでお寒いですから、私は凍えてしまうのです。貴方なら北極圏の夜の寒さは分かりますよね?」

少年は黙ったまま首肯く。少女はその間、次の展開を考え纏める。そして、再び話し始める。「私はどうにかしてこの場から逃げ出そうと思い、歩き始めたのですが、その途端、左足がヒヤッとしました。そこはとても浅い池でした。池の水は墨液みたいに黒黒としており、この暗闇に溶け込んでおりました。どおりで気付けなかった訳です。自分自身が作った波紋を目で追ってみますと、忽然と歪んだ月が浮かびました。私は驚き空を見上げると、先程より少し西の方にずれた三日月が相変わらず不気味に光っておりました。もう一遍、池に視線を落としますと、今度は円く美しい朧月がそこにゆらゆらとおりました。それともう一つ、耳で気付きました。長風が両耳をふーっと優しく吹き抜けて、微かに風音が聞こえ始めていたのです。風はそれまで凪いていたと言うのに」

少女はそこで話すのを止めて黙り込む。考えるのには時間が必要だ。特に適度なストレス下に置かれていない場合は時間を浪費することが多い。少年は三文の続きを気長に待つ。その御目は相変わりませず——見透かしている。少女はゆったりともはっきりともつかない調子で話し始める。

「私は諦めることにしました。到頭、ここから逃げ出す事はできないと思ったのです、所持品は小さな本と手鏡だけでしたから。しかもどちらもこの暗闇では役に立ちません。小さな文庫本は表紙すら読めず、手鏡にはただ闇が映っているだけでした。両足は水に浸かったまま、私は銀色の地面に寝そべって、凍えて死ぬのを待っていました。あの三日月は相も変わらず東の空に、今度は誇るようにギラギラとしておりました。このまま凍え死んだとして、私はきっと腐る事も許されないでしょう。次第に風はびゅうびゅうと激しさを増し、雪を具して吹雪と化してきました。川に溺れた蟻や鼠なら最期まで踠くでしょう。勿論、私とて気持ちは同じでした。私とて、あの月に嘲笑されながら死にたくはありませんでしたし、死を容認したり甘受したりなど、出来るはずがありません。ですが、私は指一本動かすことも敵わないのでした。所謂絶対零度下では原子の振動は停止すると聞いたことがありますが(現代では原子は止まることなく最低の状態で振動していると考えられているらしいですが)、今の私はまさにそれなのです。ですから、私はすっかり諦観してしまったのです」少女は枯れた向日葵のように項垂れる。姿勢もそれに従う。少女は虚ろに遠くを見る。しばらく部屋はしいんと静まり返る。近く、遠くで自動車が静かに横切る。その騒音はいつもより喧しく聞こえる。

「んん」

少年が催促の為に咳払いしても少女は変わらない。ただ俯く。続きを考えているのかさえわからないが、少年は其れ等を見透かす。少女はふっと顔だけを上げ、凝然と少年の瞳の奥を下から見つめる。ああ、やっぱり思った通りだ。少女には見透せない。よく見ても小人が椅子に座っているだけ。少女は姿勢を直す。観念して続きを話し始める。

「私は殆ど死にかけながら確信しました、『夜明け』が訪れると。何故、そのように断定できたのでしょう。それは私の目に明星が見えたからです。愈愈、寒さで幻覚が見えていた。というわけではありません。はっきりと明星が見えていました。次第に私の予想通り……」その時、少年が大儀そうに立ち上がった。青白い仏頂面が今までより一層超然とした顔付きになる。どうかすると顰めっ面にも見える。そして垂教するかのように話す。

「ただ星を目視するしか術のない君にそれが明星だと如何して判ろうか。いや、そもそも吹雪く山にいる君に如何して星などが見えようか。それに、本と手鏡しか持っていない君が何処に逃げられるというのか。雪山は最大限の支度をした者でさえ、敢え無く死に至る場所だというのに。仮令、無事に夜が明けたとして、太陽が凍て付いた君を溶かしてくれるとでもいうのか」少女はその見下げたような態度に驚愕する。なんとなく平伏させられたような気分であったが不思議と悪い気はしない。少年は淡々と続ける。「これからも君は自転のせいで凍える事になるだろうし、その自転のおかげで温められるだろう」

少女は少年の話を漸く理解し始める。いや、もしかすると曲解して本意を取りこぼしているかもしれない。ある雨水は地下に染み込み様々な地層を経由して海に出てゆく。我々はその循環を幾度となく繰り返して涵養されていくのだろう。その点で少女はまだ成熟していないのだ。しばらくすると、少年は急に柔らかく調子を変えて話す。恐ろしい事に彼の内面は一切読めない。「その文庫本は君の良き話し相手になるだろう。インクが滲んで読めなくなる前に急ぐといい。鏡に反射した太陽光に随従すると良いだろう。鏡は昔と違って良く物を映すようになったからね。割れないうちに急ぐといい」彼は話し終えると満足したのか飽きたのか、部屋から出て行ってしまった。私は一人残されて、ただただ呆然としていた。しばらくすると内面は落ち着き始めた。私は彼の晦渋な表現を反芻する他無いと直観的に思った。真理を悟得するためには。

少女は銀世界を貫徹するらしい。


この作品は、村上春樹「夜中の汽笛について、あるいは物語の効用について」から着想を得つつも、その構造的主題に対して問い直しを試みたものです。

文体や語りの形式は似ていても、内容的には別の方向を目指しています(どちらも失敗しているかもしれませんが)。



原作に対する私の解釈を簡潔に申しておきます。(原作: 夜中の汽笛について、あるいは物語の効用について)


 この作品はなぜ物語を創作するのかといった、素朴な疑問に対してある答えを与えようとしている──そのように直観したのでありまして、明白な論拠はありません。

 しかし、デタッチメントという言葉を標榜していた作者ならば、それを突き詰めてゆく際に、必ず、それは論理的な形で「孤独」や「ニヒリズム」にぶつかるはずです。つまり、デタッチメントをしても、この世界に存在する苦が楽になることはなかった。むしろ、透明さを深めていった。そして、苦しさは二重化して一向に癒えない。

 村上春樹という特異な作家に対して、私程度の浅薄な人間ではその全体を捕まえるのはとても不可能ではありますが、この作品に限って言えば、その「ニヒリズム」を創作論に引き寄せて語ったように思います。

作者は「ニヒリズム」の克服を「物語の効用」に託したのだと思います。その希望が、原作中の女の子であり、物語る行為です。

ただ、私は物語とはもっと不確かなものだと勝手に勘案するものであります。それゆえに、効用を果たせずに、頓挫したり根腐れすることが多々あるのです。そして、希望からも見放される。つまり、もっと分裂した状況を呈しているのです。デタッチメントとアタッチメントの両者が振り子のように過剰に反応する。その様は、劇的ではあるが平衡感覚の欠如であり、健康的ではありません。しかし、表現の宿命なのか平衡を取り戻そうとしても、とても難儀で上手くいかない。けれど、お互いに変な満足感と断絶を残す。結局、ドミナントからトニックへの進行のような解決感は与えられないのです。勿論これは、単作の否定にはなり得ません。ただ、不確実性と感激の類縁関係、理解と断絶の類縁関係は、存外近いと思います。しかし、感激と理解の間、不確実性と断絶の間は、また繋がっております。が、不確実性と理解は交わらず、感激と断絶もまた交わりません。

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