7A~セブンスアビス~ 白夜奪還作戦 完全版
この物語は改変版です。
原作とは時系列や設定が多少変更されている場合があります。
この物語は、人生で初めて書いた小説、7A~セブンスアビス~の第6章にあたる物語です。
書きたくてもかけなかったもの、書き忘れてしまったもの、語彙が足りずに諦めた物語を収録したものとなります。
能力の発動時期などが多少前後する恐れがありますが、ご了承ください。
では・・・行きましょう。
これは存在しなかった物語・・・
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風で前髪が揺れる・・・
視界に広がる闇は一層深さを増した。
~フェールセーフの丘~
黒髪の少年は黒衣に身を包み、風に吹かれる。
バサバサと服がなびき、彼はため息を漏らした。
「・・・クミさん」
少年が腰につけている通信機から声が漏れ出す。
それはよく知る人物、シルヴィアの声だった。
「タクミさん。もう現着してますか?」
その声に黒髪の少年は頷く。
「はい、大丈夫です」
少年は闇を見つめながらそう答えた。
「今回の任務はサミュエルさんの妻、エリーさんの救助になります。一般人の救助と護衛が主な任務となりますので、戦闘はなるべく避け、迅速な対応をお願いします」
「わかりました」
通信機から漏れた女性の声に少年は頷く。
「ただの任務じゃないか・・・アタシらにできないわけがないだろ?な、リーダー」
そう話して少年の肩に手を置くのは右目に眼帯をした赤髪の女性、ネアだった。
ネア・エスペラント
ウルフカットの髪に、極小のおさげを付けたみたいな髪型をしている。
そのおさげには左右対称に玉が付いていた。
「寒くないのか?」
「アタシは寒くない」
そう言いながら胸を張るネア。
プルンと胸が揺れ、少年は目を背けた。
彼女は薄着だ。ホットパンツに上半身はビキニと来た・・・
黒が好きなのか、全身黒で、寒さを紛らわせそうな革のロングコートも黒だった。
首にはセブンスアビスを象徴とするアクセサリーが付いたチョーカーをしている。
「油断はいけませんよぉ、ネアさん」
そう話しながら大きな胸を揺らすのはレディースのスーツに身を包んだ茶髪の女性だった。
髪型はボブであり、セブンスアビスの象徴となるネックレスを首から下げている。
彼女はメル。
メル・ストリッシュ
ネアと仲が良く、いつも一緒に行動している。
ネア曰く、軍学校からの同級生らしいが・・・
「油断?どっちにだ?風邪か、任務か?」
ネアがそう話すと、メルは首をふる。
「どっちではなくぅ、どっちもですぅ」
おっとりとした話し方でメルは笑って見せた。
「はいはい、別にまだ何もしてないんだからいいだろ」
ネアが頭を掻きながらそう話す。
メルは何も言わなかったが、不敵に映る満面の笑みが恐怖を掻き立てる。
「・・・わかったよ」
ネアが居心地悪そうにため息を漏らし、腰に掛けた短剣に手をかけた。
「ネアさん?」
メルがネアの名前を呼ぶと、ネアは振り返らずに闇を見つめる。
「・・・なーんか・・・変な感じがするんだよな・・・」
ネアの赤い瞳はギラリと鋭くなる。
獲物を見るというより、世界そのもの、目の前にある風景そのものを疑っているような目つきだ。
「・・・それ、勘違いじゃないと思うわ」
そう言いながら後ろから歩いて来たのは、紫髪でロングストレートの女性だ。
「・・・デューア」
ネアは彼女の名前をつぶやく。
デューア・ヴァイツァー
彼女は鎌を肩に乗せながら話す。
彼女の身長よりはるかに大きい大鎌は、すべてを切り裂くような刃を光らせる。
全身がタイツに覆われ、腰には赤いスカート・・・
頭の右側にはハーフアップがあり、髪留めはセブンスアビスを象徴するシンボルが刻まれていた。
「・・・なんか魔力の流れがおかしい感じがするんだよね・・・」
そう言いながらデューアは赤い瞳を凝らし、闇を覗こうとする。
「・・・そんなになんか感じるか?」
少年はつぶやく。
少年はこの業界・・・地獄の軍隊に入ってからまだ日が浅い・・・
極端な魔力の変化には気が付くが、些細な違和感には気づけるはずがなかった。
「タクミはわからなくても仕方ないわ」
そう言いながらデューアは少年の名前を呼び、優しく笑った。
タクミ・・・
佐藤拓実・・・セブンスアビスのリーダーで、今作の主人公になる。
黒髪黒目の高校生、身長は百六十五センチほど。
眼鏡をかけている。こんな部隊のリーダーということ以外は、ただの高校生だ。
「俺にはさっぱりわからん」
そう言いながらタクミはため息を漏らした。
「・・・私たちも分からないから大丈夫だよ、お兄ちゃん!!」
そう話し、タクミの背中をポンと叩いたのは銀髪の少女・・・フィオナだった。
振り返り、銀髪ボブの彼女に話しかける。
「フィオナも分からないのか・・・」
フィオナ・クリスタ
ウタウタイの生き残りで、リリュアスの妹である。
そして、セブンスアビスに二人いる天使の内の一人。
純白の軍服には青いラインがある。
肩にもさりげなく刺繍が施されていて、これぞオシャレというのだろうか。
彼女は左の耳だけにピアスがされていて、それにはセブンスアビスのシンボルが刻まれている。
「はい・・・わかりません・・・。フィオナ、お兄さんに触れるときは、もう少し優しくね」
フィオナにそう話しながら現れたのはリリュアスだ。
彼女は腕を組みながら歩いてくる。
銀髪のロングストレートがなびき、綺麗に揺れた。
リリュアス・クリスタ
ウタウタイの生き残りでフィオナの姉である。
そして、セブンスアビスにいる天使の内の一人。
彼女は妹とは違い、淡泊で落ち着いた雰囲気を持っている。
そして、セブンスアビスのシンボルが刻まれたピアスは右耳にあった。
「気のせいかどうかかはわかりませんが、各自警戒を怠らないように行きましょう」
そう言いながらカチャッと金属音を鳴らすのはソラだ。
彼女は帯刀している直剣に手をかけ、戦闘態勢を取る。
ソラ・アルトリウス
水色の長いポニーテールが揺れる。
彼女は純白の服に身を包む。
足首まであるロングスカートを揺らし、闇を見つめた。
「全員揃ってますか?」
そんな声が背後から響く。
タクミたちは振り返り、声の主を確かめた。
「・・・誰ですか?」
タクミはクリーム色のふわっとした髪を持つ女性に目を向けた。
「今回、ともにこの作戦を実行させていただくセレナと申します」
そう淡々と話し、敬礼をする。
その言葉に、セレナの後ろにいた隊員たちも敬礼をして見せた。
「・・・セブンスアビスのリーダーをしています。サトウです。よろしく」
そう話し、左手を出す。
そう。タクミは左利きの兵士だ。
セレナは出された左手を見つめ、自身のスカートで汗を拭いてから握手を交わした。
「はい、よろしくお願いします」
そう話してセレナはタクミたちの前に出て、あたりを見渡す。
広がるのは闇ばかり、かろうじて見えているが、・・・奥深くまでは見通せない。
「・・・遠くはほぼ見えませんね・・・」
セレナはそう呟いた。
見通せてもせいぜい百メートルが限界だ。
それから先は闇・・・月明りだけが視界を照らす。
「だよな・・・とりあえず今回の作戦の整理をしませんか?」
タクミの提案に、セレナは振り返り頷いた。
「はい。今回の作戦は私たちとの合同作戦で、サミュエルさんの奥様、エリーさんの救出です。戦闘はほぼないと思われますが、フェールセーフの丘自体、かなり広大な場所ですので人数が必要と判断し、私たちが派遣されました。上官から、基本はセブンスアビスのサポートをし、指示に従うようにとの命令を受けていますので、何なりとお申し付けください」
そう言いながらセレナはにっこりと笑う。
「ありがとうございます。今回の作戦、万が一戦闘になり、それが苛烈になると判断した場合には。自身で逃げてしまって構いません、よろしくお願いします」
タクミの言葉にセレナや、彼女の隊員たちが顔を合わせる。
「軍人なのに、闘えと言わないんですか??」
セレナの問いに、デューアが一歩前に出て代わりに答えた。
「タクミは少し特殊で、任務の遂行より命を最優先するの。それが私たちのやり方。命令に従うってんなら、そのやり方にも従ってもらうわよ?」
デューアはため息交じりにそう話すと、セレナは少し悩んだ後、頷いた。
「了解しました」
そう話してセレナは頭を下げる。
「それにしても、セブンスアビスのリーダーはものすごく強い方だとお聞きしていたのですが・・・驚きました」
そう話すセレナに、タクミの眼鏡の奥の瞳が笑う。
「あまり頼りないですか?」
タクミの放った言葉に、セレナは首を振った。
「いえ!!ですがもっと厳しい・・・敵前逃亡など許さない方だとおもっていました。まさか・・・こんなにやさしい殿方だったとは・・・」
そう話し、セレナは優しく笑う。
彼女の瞳には、安心感が芽生えていた。
その直後、腰に付けた通信機が震える。
「やぁやぁやぁ!!タクミ君!!もうそろそろ、目的地に着いたころかな!?」
そう話すのは、ベイルだ。
現在の地獄を統治していて、政治や軍の運用に関しても携わっている人間だ。
そして、この依頼を受け、タクミたちに丸投げした本人でもある。
「ベイル・・・もっと声を抑えられないのか?」
「無理だよぉ~!!これが僕さ!!これを失くすってことは、僕の個性、つまり・・・存在そのものがなくなってしまう!!!」
大きく、異様なまでに元気な声が響く。
「はいはい、で?用があるから無線機を繋いだんだろ?」
そう、ベイルは正直、その場のノリと勢いだけで生きてきたのかと思うほどよく話す。
もちろん関係ない話もするが、用がなければそもそも無線を繋がない。
「やっぱ鋭いねぇ・・・まぁ、大した要件じゃないんだけど」
そう言いながらベイルは続ける。
「今回は戦闘はないと思っていい。特別な反応も見られないからね、そこで、明日は休暇にするから、そこ周辺の観光に行くといい。もちろん全部終わってからね」
無線機から流れるベイルの声に、タクミは首を傾げた。
なぜか・・・それは目の前に広がる闇が答えだった。
観光なんてする場所じゃない・・・
「観光・・・こんなとこでか?」
そう呟いたタクミの言葉に、ベイルは疑問の声を浮かべる。
「そう?あんまり興味ない感じかなぁ?そこは夜に包まれない場所だ、白夜が綺麗だろう?とり・・・かん・・・あ・・・タク・・・へん・・・・タ」
次第に通信機の電波が遮断される。
「ベイル?おい・・・・!クソっ」
タクミは通信機を叩きながらつぶやいた。
通信機が繋がらず故障かと確認するタクミの肩を、デューアが叩く。
「タクミ・・・タクミ!!あれ・・・」
その声にタクミは顔を上げ、デューアが指さす方を見る。
上空・・・闇の中・・・
「・・・なんだあれ」
そうして視界に映ったのは、パキパキと音を立てながら上から構築されていく球体だった。
それは徐々に形を成し、すぐに完璧な球体が現れた。
「解析します」
そう話したのはセレナだった。
彼女はクリーム色の髪を揺らし、俺の前に立つ。
右手に握っていた何かを開き、照準を球体に合わせる。
「それはなんですか?」
俺の質問に、セレナは解析をしながら答えた。
「これは物体を透視し、内部まで見通す高性能解析機です」
それは懐中時計の蓋の部分がガラスになったような構造をしている小型の機械だった。
「そんな物があるのか」
「かなり便利ですよ・・・」
そう言いながら彼女は解析を続けた。
「解析完了しました」
「速いですね・・・結果は?」
セレナが高性能解析機の蓋をカチンと閉じて、タクミを見た。
「内部には研究所のような構造が広がっています。ですが、何か大きな施設にも見える反面、施設にしては機器類が少なく、一言で言うのであれば、ハリボテ・・・施設の形をした何か・・・といったとこでしょうか」
そう話しながらセレナは顎に手を置き、唸る。
タクミは球体に目を移し、眉を歪める。
「ハリボテ・・・通信障害の原因はあの球体ですか?」
「はい、その推測で間違いないかと思われます。今回は戦闘のない作戦のはずですが、通信機が使えないとこの後に響くと思われます。迅速に対応し、通信機の復旧を最優先にした方がいいと、私は思います、ですが、最終決定権はサトウさんにあります、指示を・・・」
セレナはタクミに真剣な視線を向けて指示を待つ。
「そうですね・・・通信機の復旧を最優先にしましょう。ですが、あの球体に侵入する方法はあるんですか?」
そう言いながらタクミは球体を見上げる。
その球体は鋼鉄の球のようで、見た感じでは出入り口のような場所は見当たらない。
「ありますよ」
セレナは綺麗な髪を揺らしながらタクミを見て優しく笑った。
「お、ではお願いします」
瞬間セレナの金色にも似た瞳が薄い水色に発光する。
「・・・魔眼持ち・・・」
タクミは少し驚いた様子でセレナを見つめていた。
魔眼持ち・・・
地獄に存在する悪魔。天国、天界に存在する天使の中には、極稀に魔眼と呼ばれる能力を持つ個体が産まれる。
もちろんそれは万能ではなく、能力を持つ者は魔眼を持てず、魔眼を持つ者は能力を持てない。
だが、一説には・・・魔眼を持つ者は皆等しく、大陸を地図から消せるほどの力を有していると言われる。
同じ魔眼は世界に存在せず、現在の所持者が死亡しないと同じ魔眼は産まれない。
だが、少しばかりの工夫で魔眼を後天的に得る方法もある。
それが・・・魔眼の移植。これは倫理に反し、適合しなければ被検体が死亡し、魔眼も失われることから、リスクが多く好まれる手法ではない。
遺伝などは存在せず、産まれてからでないと魔眼の有無はわからない。
セブンスアビスで持っているのはデューアと・・・ネアのみとなる。
「では・・・球体内に転送します」
セレナがそう話した瞬間視界が明るく光る。
「転移の魔眼・・・」
タクミがそう呟くと、身体が浮遊感に襲われる。
それは次第になくなっていき、足が床についた。
浮遊感が消えたのを確認して、ゆっくりと目を開ける。
すると、視界にはまるで巨人でも通るのかと思うほど大きな通路が広がっていた。
「・・・これは・・・」
眼前に広がる奇妙な光景にタクミは眉を歪める。
「なんなんだここ」
「わかりません。ですが、研究所か・・・または別の施設か・・・」
タクミの呟きに、セレナが淡々と話す。
先ほど言った情報と同じ。
「通信機を妨害している何かの場所はわかりますか?」
タクミの問いに、セレナは首を振った。
「すいません、流石にそこまでの特定はできませんでした」
「いえ、気にしないでください」
セレナとそう話している間、セレナの部隊の隊員たちが首をかしげて何かを話している。
すぐにこちらに共有をしないということは、大した話ではないのだろう。
「では、原因の装置を探します」
そう言いながらタクミは歩き出す。
いくつかの部屋を見るが・・・何も見当たらない・・・
セレナの言った通り、何かの部屋というか・・・外からそれっぽく見えるように偽装しているような感じだ。
ハリボテ・・・この言葉が今になって理解できた。
「何もないですね・・・」
「ですね・・・」
そう話しながら球体内部を散策する。
電波を妨害している装置はなかなか見つけられない。
「本当にあるんですかね?」
「それはわかりません」
タクミの問いにセレナは肩をすくめながらため息を漏らす。
装置がないなら別に構わないのだが・・・
それを守る兵士すら一人も見えないのが奇妙だ・・・まるで、何かに誘い込まれたような・・・
そんなことを考えた瞬間、全身に悪寒が走る。
背中に汗が滲み、鼓動が早くなった。
タクミは振り返り、セレナと隊員たちを見る。
「・・・サトウさん?」
「タクミ・・・?」
俺の行動に、セレナとデューアがほぼ同時に首を傾げた。
「・・・何かを見落としてる」
なんだ・・・勘違いじゃない・・・何を見落としてる?発言?人物?些細な環境の変化?
なんだ・・・この違和感は・・・
瞬間、タクミが腰に付けた通信機が鳴る。
「やっとつながったぁ・・・ごめんごめんこっちの通信状況が悪かったみたいで・・・」
ベイルがそう話した。
瞬間、嫌な感は当たり、隊員の一人がにやりと笑う。
「セレナさん!!全員を外にテレポート!!これは罠だぁぁぁ!!」
タクミがそう叫んだ瞬間、視界が真っ白になり、テレポートが開始する。
放り出されたのは外・・・球体のそばだった。
浮く力を持っていないタクミは落下する。
落下のスピードが徐々に上がり、髪がめくれあがり、視界が鮮明になる。
眼鏡を手で押さえ、視界を確保する。
「何が起きた?あいつは!!」
タクミがそう叫んだ瞬間背後から笑い声が響く。
「ハハハっ!」
その笑い声にタクミは振り返り正体を確かめる。
「誰だ・・・!?」
眼鏡がピントを対象に合わせる。
その人物は、セレナの首を持っていた。
目を閉じ、生首だけとなった彼女を見てタクミは歯を食いしばった。
フードを被っていてしっかりとは顔は見えないが、声の主の青年が身に着けているマントには見覚えがある。
「その服装・・・」
タクミはそう呟きながら相手を睨む。
少し前のことだ、タクミは一度この奇妙なマントを見たことがある。
初めて魔眼の所有者と戦った際にも近くにこのマントを羽織った人物がいたのを覚えていた。
そのマントには赤いバラが大きく描かれていて、そのバラは血を流していた。
「お前・・・血塗れの薔薇か・・・」
「やっぱりわかっちゃう?でも、それって問題なんだよね・・・だから・・・」
落下を続ける体。
マントがバサバサと大きな音を立てながら翻る。
青年がゆっくりとこちら手を伸ばす、瞬間、一瞬だけ彼の顔が見えた。
綺麗な顔
灰色の瞳
灰色の髪・・・そしてかなり若く見える顔立ち。
年齢は・・・十五歳くらいだろうか?
直後、タクミの顔に手が触れた瞬間、灰色の瞳が薄い水色に発光する。
「・・・魔眼・・・・!!」
タクミは瞬間的に刀を生成し、刀を上に振り上げた。
それは肉を切り、骨を断ち切る。
切り離された腕は上に打ち上げられるように飛んでいき、タクミたちの体は重力に逆らわずに落ちて行った。
「いったぁぁぁぁ!!本当に武器を一瞬で作り出すんだ?流石・・・『創造』の能力だね!」
青年は両腕から大量の鮮血を流しているにもかかわらず、気にする素振りさえない。
むしろ、楽しそうに弾む声で話した。
創造・・・
タクミの能力で、自身が想像した武器、能力、魔眼を再現し使用する。
だが、完ぺきではない。
武器を創造する場合は、素材を覚えてないといけない。
能力を創造する場合は、細かな設定が必要となる。
魔眼を創造する場合は一度見て、能力を理解してないといけない。
だが、日本に生まれたタクミはこの能力に関してはうまく扱えていた。
それは・・・創作物でもいいから・・・
能力は意識の結晶体。
つまりは、誰かが作り出した、アニメや漫画、ライトノベルからでもイメージを具現化できるのであれば創造できた。
「お前ら何者なんだ!!」
そう言いながらタクミは赤い鬼の仮面を創造し、顔を隠すように身に着けた。
その言葉に、いや、その光景に青年の少しだけみえる口が笑みを浮かべた。
「本当に・・・黒衣の男・・・左手に握られた刀・・・左利きの剣士・・・赤い片角の仮面・・・まじで・・・セブンスアビスのリーダーと同じ情報だ!!魔眼を使用せずに魔眼保持者を殺害したって聞いて耳を疑ったけど・・・実在したんだな!!」
彼は両手を広げながらそう話し、高らかに笑う。
近づく地面、タクミはロングコートを翻しながら体制を整え、着地に備える。
トンっ
と軽い音とともに地面に着地した。
「あいたぃ」
青年はうまく着地をできずにしりもちをつく。
腕がないせいでうまく動けないのだろう。
タクミは刀を構え、ゆっくりと近づく。
ドサッ
その音とともに視界の奥、青年の後ろに先ほど切り離した腕が落ちてきた。
タクミと青年の視界が一瞬だけその腕に吸い付き、静寂が流れる。
「今、楽にしてやるから動くなよ」
そう話しながら落ちた腕から青年に視線を移すと、青年の背後から足音が響く。
視界には人影が写っていた。
タクミは首をかしげて暗闇に目を凝らす。
「・・・メモリア・・・記憶は消せましたか?」
腕を切り離した青年をメモリアと呼ぶ別の青年。
彼も同じ服装をしていた。
「ごっめん失敗しちゃった!!それより、この腕治せる?クロッカー」
メモリアは彼に視線をむけてそう話す。
クロッカーと呼ばれた青年はため息を漏らして、地面に落ちている腕を拾い上げる。
「メモリア、気を付けてください。死までは変えられません」
そう話しながらクロッカーはタクミを睨む。
「セブンスアビスのリーダー・・・実在したんですね」
クロッカーがそう話した瞬間風が吹く。
被っていたフードが脱げ、彼の顔が露わになる。
若い・・・
テクノカットの金髪に整った顔立ち、透かしたように綺麗な緑の瞳。
瞬間、緑の瞳が暗い紫に発光する。
魔眼・・・
クロッカーが触った腕が地面に落ち、震えながら空に打ち上げられる。
くるくると回りながら闇に消え、数秒後に降りてきた。
それはただ落下をするというには軌道が綺麗すぎた。
まるで導かれるような挙動・・・
そして腕はメモリアにくっつき、ジワリと傷口が消える。
再生・・・治癒?
この世界の治癒魔術はレベルが高い・・・
治癒魔術の中でも一番簡単といわれる低難度の治癒魔術でさえ、かなり上位の魔術師しか使えない。
その理由は治癒魔術の原理にある。
この世界の治癒魔術は細胞の活性化や修復ではない・・・
簡単に言えば指定した場所に小規模の時間操作を施し細胞を逆行させ、定着させる技法だからだ。
そのせいで理屈は簡単な魔術でも魔力の消費量が桁違いという理由で高位の魔術師しか扱えない。
それを簡単に・・・それも魔眼で・・・
そして一番の違いは痛みだ・・・
時間を逆行させるということは、再生の際に痛みも逆行する。
メモリアにはそれが見えなかった。
「・・・なんだそれ・・・」
タクミがつぶやくと、クロッカーは紫の瞳をタクミに向けた。
徐々に瞳の色が戻り、緑の瞳が現れる。
「タクミ!!」
「「タクミさん!!」」
「リーダー!!」
「お兄さん!!」
「お兄ちゃん!!」
その空間に女性の声が複数響く。
セブンスアビスのメンツが集まったようだった。
「なんで血塗れの薔薇がいるの?」
デューアが目を細くして、クロッカーを睨む。
「セブンスアビスのリーダー・・・」
クロッカーがタクミを呼ぶ。
その声は低く、真剣だった。
「なんだ?」
「・・・戦争をしませんか?」
「なに・・?」
クロッカーの言葉に首を傾げ、タクミは低く唸った。
「戦争をしませんかと、そう言ったんです。メモリア、あなたは離れていてください。帰ってもいいですよ、僕もすぐに戻りますので」
「はいはーい!!がんばってねぇ」
クロッカーの声にメモリアは手を上げながら立ち上がり、暗闇の中に歩いていく。
「待て!!」
「おっと・・・僕を置いていくんですか?それは無いでしょう・・・まだ質問に答えてもらっていませんし」
メモリアを追いかけようと一歩踏み出すと、クロッカーが前に立ちはだかる。
少し笑ったような表情でそう話した。
「戦争なんてしない」
「・・・そうですか・・・では、あの女性は死んでしまいますね・・・」
クロッカーのその言葉は暗闇に消える。
月明りが八人を闇の中に照らし出す。
「あ?」
タクミのその反応にクロッカーは優しく笑う。
「やっぱり・・・あの女性を助けに来たんですよね。そうでもないと、こんな場所に大人数で足を運ぶはずがありません」
クロッカーはニヤニヤと笑いながら話す。
「・・・ここにいるんだな?」
「えぇ・・・白夜を黒くしているのはその女性から魔力を吸い出しているからです。まぁ、どんな原理かは知りませんし、興味もありません」
「どこにいる?」
タクミのその言葉にクロッカーは肩をすくめ、首を振った。
「教えると思いますか?僕は護衛を任されているんです。大義名分・・・戦争を始めるにはちょうどいい理由です。悪役ってこんな時はこう言うんですかね?『助けたいなら俺を殺してみろ』って」
そう話しながらクロッカーはタクミに視線を向けた。
「・・・それしか手段はないのか?」
「あるとは思うけど・・・僕を止められるとは思えません。僕は未来が見えます。だから、僕が勝つ未来も見えるんです」
タクミの言葉にクロッカーはそう答えた。
未来が見える?
そんな魔眼なんてあるんだろうか・・・
「じゃあ・・・戦うしかないのか?」
タクミがそう話すと、クロッカーは肩をすくめた。
「そうですね。どうしますか?」
クロッカーは優しい笑みを浮かべながらそう話した。
「・・・開始の合図は?」
タクミがそう話した瞬間、クロッカーはマントの内側から拳銃を取り出す。
銃口をタクミに向けた。
「なるほど」
そう呟いたタクミは、次の瞬間に走り出した。
それに合わせるようにデューア達も走り出し、クロッカーに一歩でも近づく。
パァンと銃声が七発、夜の闇に溶けた。
ドサッ・・・
何かが倒れる音が響く。
耳を刺し、視線が地面を向く。
「・・・っはぁ!」
跪いたのはクロッカーではなく、セブンスアビスの面々だった。
何が起きた?
銃口はこちらを向いていた。
弾丸くらいの速度なら、視認できれば簡単に回避できる。
左腹部を右手で押さえ、溢れる血を止めようと圧迫する。
銃声の音と着弾はほぼ同じだった。
撃たれた距離は正確なはずだ、視界にはしっかりと月明かりに照らされた弾丸が確認できたはずなんだ、なんで・・・回避ができなかった!?
「ね?言いましたよね?僕には未来が見えているんです。勝つのなんて簡単」
そう言いながらクロッカーはタクミに銃口を向ける。
タクミの瞳には、どこまでも続く闇のような銃口が映っていた。
「じゃあ、さようなら。セブンスアビス・・・期待していたのに、戦闘にすらならなくて残念です」
クロッカーの指が引き金にかかり、ゆっくりと押し込んでいく。
タクミは息を吸い、大きく口を開けた。
「湾曲する盾!」
その言葉と同時に銃声が響く、
カツンッ
金属音が小さく鳴り、地面に落ちた。
「高密度の魔力で形成されたシールド!?」
クロッカーの前に現れたのは、セブンアビスを囲むように作り出された円柱状の魔力で形成された半透明のシールドだった。
「これは・・・」
クロッカーは驚いた様子でシールドに触れ、頷く。
「これは流石に、弾丸を通せませんね・・・僕が扱うのは魔力も何もないただの拳銃です」
クロッカーはあっさりと認めた。
だが、その様子に焦りは存在しない。
「まぁ、弾丸を通せないだけなんで」
クロッカーのその言葉にセブンスアビスは傷口を押さえながら立ち上がる。
「何言ってんだ・・・お前」
タクミが立ち上がる。
苦痛に顔が歪み、頬には冷や汗が垂れた。
「あぁ、立つと危ないですよ」
クロッカーがそう話し、シールドの向こうで銃を構える。
銃は当たらない。
シールドが全てを防ぐ、その自信がある。
直後、パァンと銃声が響くと同時に、跪く。
跪くと同時にタクミは見ていた、内壁に弾丸が当たるのを。
「・・・ぐっ・・・」
歯を食いしばり、地面の土を眺める。
左足に空いた穴を見つめ、冷や汗を垂らした。
どこから・・・
なんで・・・
湾曲する盾は、円柱状のシールド。
指定したエリア、対象を囲むように作りだされるそれは、四方からの攻撃を完全に防ぐ。
タクミは上を見上げて、暗い空を見つめる。
円柱状のこのシールドは上は抜けている。
弾丸が上から侵入し、セブンスアビスにダメージを与えるのは簡単だ・・・
だが、問題はそこじゃない。
タクミは足を見つめ、ゆっくりと触れる。
「入射角がおかしい・・・」
ぽっかりと空いた穴は太ももの裏側から、斜め上に貫通するようにできていた。
背後からの射撃・・・
タクミは背後に視線を巡らし、原因を探る。
だが、そんな物は見つからない。
それに、入射角・・・
下から斜め上に撃たれているのなら、太ももより下から撃たれているのなら・・・
・・・地面の中か?
そんなことを考えて、視線を地面に戻し、さらに探る。
視界には茶色の地面が広がる。
そしてそこにはきらりと光る物が映った。
「・・・なんだ?」
冷や汗とともにそんな言葉が漏れた。
眼球が自動的に、痛みでかすんだ視界を鮮明にする。
光った何かにピントが合い、その姿を確認する。
「・・・弾丸!?」
タクミはそう叫んだと掃除に顔を上げ、半透明なシールドの内側から丘全体を見渡す。
月明りが照らす地面、はるか遠くまで金色に光る何かが地面に転がっている。
「正解・・・言いましたよね?僕は未来が見えますと・・・事前に種を仕組んでおいたんです。負けないように」
そう話しながらクロッカーはニヤリと笑った。
瞬間、彼の緑色の瞳が激しく紫に発光する。
カチャカチャと足元では弾丸が震え、クロッカーがにやりと笑いながら銃を構える。
「銃はブラフ・・・念力の魔眼か!?デューア!ネア!ソラ!、剣を待たないものを囲んで弾丸を叩き斬るんだ・・・じゃないと・・・全員死ぬぞぉ!!!」
タクミの叫び声を合図にデューアは大鎌を、ネアは腰に携えていた短剣を、ソラは聖剣を、タクミは瞬間的に刀を二振り創造し、構える。
「デューア、魔眼使え!!」
「了解!!」
タクミの声にデューアの赤い瞳がさらに赤く発光する。
『戦神の魔眼』
セブンスアビス、デューアが保有する魔眼。
発動中は全ての身体能力を向上させる効果を持つ。
直後にタクミの黒い瞳が金色に発光する。
『動体視力向上の魔眼』
セブンスアビス、タクミが創造する魔眼。
早く動くものを視界に簡単にとらえ、視認性を向上し、脳の処理速度を限界まで引き上げる魔眼。
「じゃあぁ、始めましょうか」
クロッカーのその言葉と同時に地面から次々とハイスピードで弾丸が射出される。
刀を一振り、視界に赤く輝く火花が舞い、金属音が耳を突き刺す。
止まない銃声、止まない弾丸の雨、捌き切れなかった弾丸は自身の体を貫き、苦痛とともに穴が開く。
だが、手を止めることは許されない。
後ろにいる三人が、死んでしまうから・・・
カランカラン・・・
薬莢が音を立て震える。
パァンと銃声が鳴り響き、最後の弾丸が放たれる。
それを叩き斬り、弾丸が地面に落ちた。
「・・・うぅ・・・おえぇ・・・」
緊張が解けたのか、胃の中の物が外に押し出る。
体に空いた複数の穴から鮮血が垂れ、息が切れる。
「・・・ネア・・・魔眼・・・」
「おーけーぇ」
タクミの指示にネアが眼帯に触れる。
瞬間、通信機が震えた。
「セブンスアビス・・・タクミ君!!そこから退避・・・任務は中止・・・!!」
「タクミさん!!そこから逃げて・・・・」
ベイルとシルヴィアの声が夜空に響く。
静寂が流れ、切羽詰まった声でこの空間に轟く声は、異常を伝えるには十分すぎた。
「「逃げろぉぉぉぉぉ!!!」
ボゴ・・・
叫び声の直後、遠くでそんな音が響く。
暗闇に目を凝らし、音の原因が何かを確かめようとした。
それは次々と数が増え、音が重なる。
足音のような・・・
暗闇の中から大きな影が見える。
ユラユラと揺れる尻尾・・・
三メートル以上ある巨体・・・
「黒雲蠍!?なんでヴェノスがここにいるんだ!?」
ネアがそう叫んだ。
「落ち着け・・・シールドの中にいれば・・・」
タクミがそう話した後、クロッカーは肩をすくめながら首を振って、親指を立てながら横を指さした。
月明りで少しばかり晴れた視界・・・
そこには真っ二つに斬られたような大きな岩の残骸が転がっている。
サイズは・・・四メートルくらいだろうか。
あれが・・・なんなんだ。
タクミが再度視線をクロッカーに向けると、彼の瞳が紫色に光る。
それを確認した後に岩を見ると、触れていなはずの岩の周りに土煙が発生する。
気持ちが悪い・・・この世の物を見ているとは思えない違和感。
土煙はまるで岩から出てきたと言わんばかりに岩に吸収されるように集まる。
土煙で包まれた岩はグラグラと小さく揺れ、次第に揺れは大きくなった。
次の瞬間・・・真っ二つに割れたはずの岩が自分自身で起きるようにしてくっつく。
「はぁ?」
そんな声がタクミから漏れた。
岩は転がり始め、周りの小石などを自身に数センチ近づけながら迫る。
そしてキィィィィンと甲高い音を立て、シールドにぶつかった。
「・・・マズイ」
このシールドは瞬間的な衝撃には耐えれるが、持続する質量での圧迫には脆い。
「全員下がれ!!」
タクミは振り向き、通達する。
瞬間、ガラスが割れるような音とともにシールドが砕けた。
だが、岩はなぜか放物線を描きながら空に飛んでいく。
「な・・・」
瞬間、背後を大きな何かが通過し、血が舞う。
「・・・しまっ・・・!!」
デューアが歯を食いしばりながら黒雲蠍が放つ尻尾での殴打を鎌で防ぐ。
弾丸で掠っただけの小さな傷が裂け、鮮血が溢れる。
「デューアァァァ!!」
ネアの悲痛な叫びが響く。
彼女もまた、ヴェノスの猛攻に短剣で応戦する。
ガチンと音が鳴り、火花が散る。
何回かの金属音の跡、土煙と共に地響きが地面を揺らす。
先ほどまでネアが立っていた場所に、黒雲蠍の尻尾が叩きつけられていた。
『黒雲蠍』
大型で漆黒の蠍。
魔力で体が構成されているため、物理攻撃を完全に無効化する特性を持つ。
攻撃の際は顕現するため、一瞬だけ触れることができる。
どこからともなく現れ、姿を消す神出鬼没の魔物である。
「・・・あ・・・」
小さく苦しそうな声が耳を刺し、タクミはそこに視線を向ける。
土煙が晴れるとともに、リリュアスとフィオナが宙に浮いているのを視認できた。
何かに掴まれている・・・透明な腕に。
近くにいるはずのソラは何もできずに視線を巡らすことしかできない。
それはそうだ・・・『見えてないんだから』
次の瞬間、リリュアスの右腕がナイフに変容し、何かを切り裂いた。
地面に落ちて咳き込むリリュアスは呼吸を整える前にフィオナを掴むなにかを切り裂いた。
フィオナを受け止め、着地した瞬間に強い衝撃で体が弾かれた。
「がっ・・・」
リリュアスは血を吐きながら地面をボールのように弾み、転がる。
「お姉ちゃん!!」
フィオナの叫びが夜空に大きく響く。
地面に手を付き、立ち上がろうとするリリュアスの背後で小さく赤い光が一瞬だけきらりと光る。
直後、リリュアスの近くの地面が抉れ、二回目のインパクトでリリュアスの体が地面とともに沈んだ。
そのあとも、すり潰すかのように透明な何かがリリュアスと地面に攻撃する。
「・・・やめ・・・ダウンラック!!」
フィオナが涙をこぼしながら鮮血が舞う空間に視線を向けヴェノスの名前を呼ぶ。
『ダウンラック』
魔眼保持者から眼球を奪い自身に移植する魔物。
インパクトの瞬間、攻撃対象になっている人物にしか姿が見えない。
ダウンラック死亡時のみ、全員が視認することができる。
どんなに運がいい、ツイている人物も、こいつに遭遇したら確実に殺されるという情報から名づけられた不可視の魔物である。
ソラがフィオナの横を駆け抜け、リリュアスのもとに駆けだす。
鞘を押さえ、素早く駆ける。
月明りに照らされた瞬間、彼女は再度剣を抜いた。
月の光を吸収する聖剣・・・
たった一振りで、月のエネルギーを放出する光波を放ち、透明な魔物の体を両断する。
ダウンラックの姿が視界に映り、死を感じさせる。
ソラは急ブレーキをして、リリュアスのもとに駆け寄ろうとした瞬間、ダウンラックの瞳が青色に発光する。
「・・・ソラ!!」
タクミがそう叫んだ瞬間、ソラの体が高く浮いた。
「タクミさん!!これ・・・念力・・・」
ソラが情報を共有しようと話した瞬間、地面に叩き落とされ、血塊を吐き出す。
念力・・・の魔眼。
たとえダウンラックが魔眼を所持していたとしても、魔眼のルールは変わらない。
この世界に念力の魔眼はもう一つは存在しない。
となると、クロッカーの魔眼は念力ではない・・・
「タクミさん!!頭上ですぅ!!」
メルの声にタクミは頭上を見る。
ブォォォンとエンジンのような音と共に球体が数十体通り過ぎる。
「・・・センちゃんもいんのか!?」
タクミは歯を食いしばりながらそう叫んだ。
銀色の球体は空を旋回しながら地面に光線を打ち込む。
土煙と共に地面が溶け始めた。
『センピクス・バングル」
センちゃんの愛称で呼ばれる、二十メートル級の眼球を模した鋼鉄の球体。
瞳から広範囲、高密度の光線を打ち出す。
装甲は硬く、群れで行動する魔物である。
「この作戦は戦闘がなかったんじゃないのか!?」
ここまで来てしまえば任務などできない。
ソラは体を引きずり、リリュアスの胸に触れた。
「・・・回復」
唯一セブンスアビス内で治癒魔術を扱えるソラはリリュアスに治癒を施す。
黄緑色の光が浮かんでいた。
「どうすんだリーダー!!」
ネアがタクミに叫ぶ。
「このままじゃジリ貧だ!!体力も魔力も尽きたら死んじまうぞ!」
「戦うんだ、今までどうり・・・ダウンラックだけは二人一組での討伐を心掛けろ!!」
タクミのその言葉にネアは歯を食いしばり、牙を見せる。
「アタシの魔眼を使えば一網打尽だ!!」
「リスクが高い・・・!寝てる間に殺されたらどうする!?」
「ならリーダーが守ってくれ!!」
そう言いながらネアが走り出す。
身軽だからか、敵の間を縫い、仲間の死体を飛び越える。
「ネア・・・待て!!」
「タクミ!!」
ネアを呼ぶ声に混じるようにデューアの声が響く。
声のした方に目を向けると、紫色の髪が赤く染まってしまうくらい出血が多い。
「・・・あの子の作戦ならうまくいくかも・・・」
「でも・・・」
「ヴェノスを数千体相手じゃ勝てるかわからない!!これで勝ったとしても、クロッカーには負ける!!」
デューアのまっとうな意見にタクミは歯を食いしばる。
「あぁ・・・クソ!!・・動ける奴は来い!!」
タクミがそう話すと、デューアが鎌を構える。メルは頷き、ソラとリリュアスは立ち上がった。フィオナはその場で準備運動をする。
「行くぞ!」
「「「「「了解!!!!」」」」」」
それを合図と共に走り出す。
目的はネアの護衛・・・
夢の旅人を使用中のネアは無防備だ。
『夢の旅人』
セブンスアビス、ネアが保有する魔眼。
自身の周辺、敵味方問わず夢の中に引きずり込む魔眼。
周辺というのが、どの程度の範囲なのかは本人も理解していない。
夢の中には制限はなく、存在する、しないにかかわらず全てを作り出せる。
創造には魔力を大量に浪費するため、魔力勝負となる。
夢の中で起きた出来事は現実に影響する。
能力発動時、発動者含め効果範囲にいた者は深い眠りに落とされる。
素早く走り、ネアを探す。
この戦場じゃ人一人探すのも苦労する。
念力の魔眼ではない、血塗れの薔薇とヴェノスは敵対しているはずだ・・・
なぜ従えているんだ?
死体を飛び越え、肉をつぶし、血の沼に足を取られながら進む。
タクミは戦場の有様を見て、走りながら通信機を取り出す。
「セブンスアビスから通達。これを聞いているものは全員退避!!繰り返す、全員退避!!」
そう話して通信機を腰に差した。
「お兄ちゃん・・・」
フィオナがタクミを見ながら悲しそうにつぶやく。
もっと早く言えば犠牲者は減ったかもしれない。もっと早ければ
そう思いながらタクミは歯を食いしばり、走り続ける。
次第に視界が晴れ、大型のミステリーサークルのような場所に着く。
ネアの魔眼が使われた証拠だ。
円形上に効果を発揮するネアの魔眼は、その場だけにサークルを作り出す。
「見つけた・・・」
タクミがそう話すと、デューアが頷いて周りを見た。
「全員警戒!!」
デューアの言葉と共に振り返り、寝ているネアを守るように武器を創造する。
デューアは大鎌を構え、メルは鞭を腰から抜く、ソラは聖剣を鞘から引き抜き、リリュアスはは右手を変容させ、フィオナは屈伸をする。
迫るヴェノスの群れに全員が深呼吸をする。
守れなかったら、確実に負けると言っていい・・・
ネアの周りに転がっているヴェノスだけでも二千はくだらない。
これが起きて閉まったら・・・おそらく全滅は避けられない。
「絶対守りぬけ!!」
タクミの声と共にフィオナの姿が消える。
群れの中で衝撃波が発生し、ヴェノスの体が舞う。
『瞬間移動』
セブンスアビス、フィオナが保有する能力。
地面を砕き、衝撃波を生みながら移動する。
目にもとまらぬ速度で標的を蹴散らす。
天界、地獄を含めトップの速度を誇る。
「フィーが頑張ってるから・・・私も」
そう言ってリリュアスは群れの中に飛び込む。
『変態』
セブンスアビス、リリュアスが保有する能力。
自身の体の一部を自由に変容させ交戦する。
腕を剣に変え、足をバネに変え、背中に翼を生やす。
異形の力を取り入れた能力である。
「私も、役に立たなくちゃですねぇ?」
おっとりとした言い方でメルが話した。
彼女は自由自在に鞭を振るい、センちゃんの装甲に巻き付け両断する。
『メル』
セブンスアビスで唯一能力を持たない人物。
経験と観察から来る異常なまでの判断力、判断速度、推察力を保有する。
弱点を的確に見抜く目を持ち、魔眼すらも凌駕する知識を持つ。
セブンスアビスを支える脳である。
迫りくる群れを倒し、時間を稼ぐが・・・
「タクミ、これじゃキリがない!!」
デューアのその言葉にタクミはアサルトライフルを数十丁作り出し、弾丸をばらまく。
何十・・・何百と倒したはずだ・・・なのに、減っている気がしない。
「だめだ・・・これ以上は・・・全体にシールドを張る・・・!!何枚も重ねて、ネアが起きるまで耐えるんだ!!」
そう話すと、狩りに出ていたソラたちが戻ってきた。
「タクミ、今!!」
「ドームシールド・・・!!」
デューアの言葉を合図にドーム型のシールドを生成する。
何枚も重ね、強度を最大限まで引き上げる。
「これで大丈夫・・・数十分は・・・」
そう話した瞬間、誰にも触れられず、小石一つすら当たっていないドームシールドがガラスのように砕けた。
「な・・・」
迫りくるヴェノスの足音が次第に大きくなる。
「タクミ・・・交戦・・・」
デューアがそう叫んだ瞬間・・・フラフラと彼女が跪く。
それは、タクミ以外のメンバーに現れた症状だった。
だが、立っていることができると言うだけで、タクミの刀が砕けるのを、全員が見ていた。
「・・・何これ・・・」
「力が入りません・・・」
デューアとソラがそう話す。
「何が起きてる?」
タクミはそう呟きながらあたりを見渡す。
なんで、何が起きた?
そんな中、視界の端に妙な集団が入った。
「なんだアレ・・・」
血塗れの薔薇に酷似したマント・・・薔薇のシンボル・・・だが、血の代わりに異様なまでのトゲが生えたシンボル。
見覚えがない・・・知らない・・・
瞬間、その中の一人が口を開いた。
「血塗れの薔薇・・・魔女狩り特化部隊・・・グリムローズ・・・」
ヴェノスの足音が邪魔をするはずなのに、その声だけはハッキリと聞こえた。
視界がヴェノスに包まれ、体に衝撃が走る。
セブンスアビスはヴェノスに蹂躙された。
「フィー!」
「お姉ちゃん!!」
鮮血が舞う中、リリュアスとフィオナの声が闇に響く。
「クソ、キリがない!タクミ!」
金属音と火花と共にデューアが叫ぶ。
「このままでは・・・」
ソラが歯を食いしばり、逃げ道や活路を探しながら呟く。
「ネア・・・」
メルが未だ目覚めぬ親友の名を呼ぶ。
瞬間、眠っていたヴェノス達の体が裂かれ、内臓が引き摺り出される。
まるで順番を待っていたかのように次々と裂かれ、一帯に血の雨が降り注いだ。
「・・・ぐぁ!キッツ!」
そう叫びながらネアは目覚め、体を起こした。
眼帯の下があらわになり、金色の瞳が状況を吸収しようと忙しなく動く。
「リーダー!どんな状況だ!?」
ネアのその声に、タクミはヴェノスの攻撃を回避しながら答える。
「わからない!魔力が使えなくなった!武器の生成も・・・出来ない!」
そう話しながらタクミは何度も左手に刀の創造を試みる。
だが、形を成したあたりで跡形もなく砕けてしまうのだ。
「・・・なんだよそれ。じゃあ、この状況をどう掻い潜る!!」
ネアがそう叫ぶ。
悪魔と天使の体内には血管のように魔力回路が組み込まれている。
魔力を失えば、単純な弱体化だ。
リリュアスの変態と、フィオナの瞬間移動は魔力による依存だ。
ソラも月明かりに透過された魔力を剣に集めるだけにすぎない。
単純な戦闘はこの段階で不可能になる。
「魔女狩りをするために開発された魔力抑制装置。魔力を強制的に使用不可にして、蹂躙するための装置です」
低く唸るその声が、慌ただしい夜空に響く。
この惨劇を生み出しているのが、その魔力抑制装置なら・・・勝てるのか?
「なんでそんなことになってんだよ!眠ってる間に!」
ネアが叫ぶ。
この状況に腹を立て、蹂躙されるのをよしとしない悪魔。
そうだ・・・
彼女は眠っていたから気づいてない。
魔力抑制装置が起動してから彼女は目が覚めた、それまでは夢の砦にいたのだから。
そう・・・夢の砦に・・・
待て。
魔眼は機能するのか?
魔力とは切り離された存在?魔力の力を借りずに発動が出来るのか?
「・・・デューア!魔眼なら使えるかもしれない、魔眼なら機能す・・・」
タクミが突破口を叫ぼうとした、セブンスアビスと敵の視界もタクミに集中する。
瞬間、銃声とともにタクミの頭の高さをキラリと光る何かが突き抜ける。
少ない鮮血が飛び散って、地面に倒れ込んだ。
一瞬の静寂。
デューアの耳には何も入らない。
ネアの瞳には倒れるリーダーの姿。
メルの瞳には蹂躙の惨劇が。
リリュアスの脳裏には大切な者を失うことが駆け巡る。
フィオナの脳裏には支えてくれた者の死が。
ソラの瞳には信頼していた者が倒れる姿が。
直後、悲鳴にも似た号哭が静寂を裂いた。
「タクミ!」
「リーダー!」
「タクミさん!」
「お兄さん!」
「お兄ちゃん!」
「タクミさん!」
全員が目を見開き、惨劇を取り込むように見つめる。
セブンスアビスのリーダー、タクミは即死。
闇の中で地面に倒れた。
「クッソ!」
ネアが魔眼を発動させようと瞳を光らせる。
「待ちなさい、ネア!ここで使ったらみんな眠る!範囲外の敵から殺されて終わりなのはわかってるでしょ!?」
デューアの叫びに、ネアは歯を食いしばりながら眼帯を付け直した。
「ならどうすんだよ!」
そう叫びながらネアは短剣で華麗に攻撃を回避し、デューアに問う。
デューアは視界を巡らせ、状況を把握しようとした。
赤い瞳が発光し、魔眼の行使を知らせる。
「どうするつもりなんだよ!」
何も答えなかったデューアにネアは再度問う。
デューアなら、タクミの考えを知っているかもしれない。
はじめに会い、この世界にタクミを引き摺り込んだのも彼女だ。
だから、唯一の希望は彼女にある。
「まず・・・遺体の確認!まだ生きてるかも!」
デューアはそう叫んだ。
誰もがわかっている。
きっとデューア自身も、理解している。
タクミは死んだと、だが、それを信じたくはなかった。
責任という文字が駆け巡り、戦闘の音も遠ざかる。
生きていて欲しい、その一心で敵を押し退け、刻み、タクミの肉塊に近づいた。
魔力抑制装置のせいで、仮面は外れている。
額からは出血していて、目は閉じてすらない。
雨粒が一つ、ポツリと当たった。
次第に勢いを増し、地面を柔らかくする。
額から流れる血が薄くなり、地面に染み込んだ。
「タクミ・・・」
デューアの心はきっと、ここで立ち止まる。
この戦いに勝っても、意味はない。
「だから、もう・・・」
ガランッと音を立てて大鎌が地面を打つ。
雨粒が激しく鎌を打ちつけ金属音を奏でる、世界がスローになる気がした。
「なんで殺してるんだ!」
「だって、殺すべきだろ!もとはセブンスアビスのリーダーの討伐だろ!」
グリムローズと、クロッカーが言い争う。
殺すべきと・・・
もう死んでいるのに。もう、帰ってはこないのに。
だが、その会話の違和感に、デューアは気がついた。
デューアは遺体と彼らを交互に見つめる。
動かなくなった肉塊に視線を落とし、思考を巡らせる。
死んでいるのは確実だ・・・
なのになぜ殺したのかと話す・・・
だが、殺すのは目標だったらしいし・・・
・・・タイミングの問題・・・?
「・・・タクミ・・・アンタ・・・何が・・・」
デューアは遺体に視線を落とした後、首を傾げた。
「全員突撃・・・!!魔力の命を断てぇぇぇぇ!!!!」
その叫びと同時に彼らが動き出す。
だが、その行動が、デューアの考えを核心に導いた。
「全員防衛!!タクミはまだ死んでない!!」
そう叫んで周囲を見渡すが、魔力抑制装置の効果で魔眼を持たぬ者は身動きすら取れない。
「クッソ・・・私一人でも!!」
そう言いながらデューアは襲い来るグリムローズとヴェノスの群れを捌く。
火花が散り、骨が砕け、軋む。
吐血なんて気にしていられない。
そんなことは些細なことだ・・・タクミを死なせることに比べれば、私の・・・デューアの命など些細なものだと。
デューアはそう感じていた。
デューアの視界がぐらりと揺れ、地面に手を付く。
両足に走る激しい痛みに、視線を下げた。
「・・・足が・・・」
脚がない・・・切り落とされた・・・
痛い・・・でも・・・そんなのはどうでもいい。
デューアの名を呼ぶ声がいくつも反響する。
限界・・・もう・・・守れない。
デューアの瞳に涙が浮かぶ。
視界がかすむ中で懺悔をする。
ただの高校生をこんな戦闘に巻き込んでしまったこと、こんな世界に引きずり込んだこと。
私がいなければ・・・もっといい生活をできたと・・・
瞬間、通信機からベイルの緊迫した声が漏れる。
「デューア・・・何が起きてる!?タクミ君と連絡が取れない!!」
その声にデューアは歯を食いしばり、自身を恨む。
「タクミは・・・死んだ・・・ごめん・・・」
「武器は!?殺された武器は!?」
ベイルの声に苛立ちすらも感じていた。
なんで・・・仲間が死んで、最初に気にするのが武器なんだ。
でも・・・上司、上官の言うことだ・・・答えなくてはならない。軍人なのだから・・・
「銃・・・拳銃」
「それだけか!?死ぬ前でも、死んだ後でもいい・・・ほかに武器はないのか!?」
「それだけだよ・・・馬鹿!!そんなの気にしても意味ないんだよ!!」
そう言いながらデューアは地面を叩く。
ぬかるみ、血が混じった雨粒がはじけ、視界にきらりと光る。
そうして通信機の声が耳を強く刺した。
「全員退避!!不可視条約が破られるぞ!!」
ベイルの叫びが響いた瞬間、まるで狐の尻尾のような血の塊が空に伸び、薙ぐ。
グリムローズの面々はその場で倒れこみ、無数の頭部が転がる。
デューアはその惨劇を見つめ、タクミに目を向けた。
そこには先ほどまで倒れていたはずの人間・・・セブンスアビスのリーダーが立っていた。
「・・・タクミ?」
「お待たせ・・・足・・・すぐに治すから」
タクミがそう話した瞬間・・・
地面から赤く細い槍が伸びる。
それは想像しえない速度で、魔力抑制装置を貫いた。
「・・・魔力が戻ってきてる」
デューアは自身の手を見つめながらそう呟く。
「少し痛むぞ。高回復」
広範囲に黄緑に光る魔法陣が展開され、デューアは再生する自身の脚を見つめた。
切断されるときと同等の痛みに顔を歪める。
「・・・人間・・・復活したのか・・・。またこれか・・・またこの状況か!!」
そう話し、グリムローズの男は一人、歯を食いしばる。
『不可視条約』
人間が死なないように悪魔、天使でフォローをする。
万が一、戦闘中の事故で人間が死んだ場合は辻褄を合わせるために動く。
悪魔、天使、ヴェノスを視認できない人間には危害を加えてはならない。
人間からの協力要請があった場合は迅速に対応する。
これが・・・知っている不可視条約の項目・・・語られている部分だけでは・・・
通常、人間には悪魔、天使、ヴェノスは視認できないと教わる。
そして視認できないものには攻撃は当たらず、すり抜けると教わった。
それは小さいころからの常識で、だれも疑わなかった。
だが・・・もし、その前提が違ったとした・・・視認できない人間にも攻撃ができて殺せたとしたら・・・
ならなぜこんな条約を作ったのか・・・
不可視条約とは何なのか・・・それは・・・悪魔と天使を守るための条約だった。
タクミの通信機が震える。
「タクミ君・・・力はなるべく抑えるんだ・・・貧血になるかもしれない・・・周りを巻き込むかもしれない・・・十分に注意して利用を」
ベイルの声がそう響き、タクミは頷いた。
「了解・・・」
そう小さく呟いたタクミはバシャと地面を踏み、一歩前に出る。
「・・・化け物が・・・不死身の化け物がぁぁぁぁ!!」
グリムローズの一人がそう叫び走り出す。
それは何よりも速い、瞬間移動にも見える速度を誇る移動だが・・・タクミはそれを見破っていた。
大量に流れる血と共に、下半身だけが地を滑り、上半身は空に舞う。
バシャッと音がなって上半身だけとなったグリムローズの遺体を踏みつけ、タクミは鬼の仮面を生成する。
瞬間・・・銃声と共にタクミの体が倒れる。
二度目の死・・・
今回は先ほどとは違い、すぐに蘇生した。
「なんで・・・なんで死なないんですかあなた!!」
クロッカーが恐怖するように後ずさりながら銃を撃つ。
弾丸のすべてを背面に作り出した盾でタクミは防いでいた。
普通は銃の弾丸は前方から飛んでくるはずだ。
だが・・・クロッカーの放つ弾丸だけは違った。
「お前の魔眼わかったぞ・・・」
まるで蚊でも落とすかのように、タクミは弾丸を血の鞭で叩き落としながらクロッカーに近づく。
「来ないでください・・・」
「お前の魔眼・・・一度触れた物体の動的時間を逆行させる能力だろ?だから・・・弾丸は後ろから飛んでくる。崩れた岩はくっついて転がって空に飛んで行った。だが本当は・・・飛んできた岩が地面にあたって転がって崩れたんだろ?お前は逆行させただけだ」
その言葉にデューアは疑問を持つ。
「腕をくっつけたのは?メモリアの腕をくっつけたの事の説明がつかない」
「それは簡単だ。腕は体の一部だが・・・切り落とされたら物体だからな」
タクミの発言にデューアが頷く。
「なるほど・・・」
そう話しながらクロッカーを見つめる。
「デューア・・・エリーさんを探しに行け・・・ここは俺一人でどうとでもなる」
「でも」
「大丈夫」
クロッカーから目を離さず、デューアに指示を出す。
デューアは少し不安そうなまなざしでタクミを見た後、走り出した。
「で・・・勝てなかった場合のプランはあるのか?」
クロッカーの顔は恐怖で歪み、徐々に下がっていく。
「ないよな?勝てる予定だった。どうやら、未来は見えてなかったみたいだな」
その瞬間、クロッカーの首を刎ね、落ちてくる頭部を見ながら血の刀を生成した。
「さて・・・魔眼持ちは処理完了・・・あとは・・・掃討作戦かな・・・」
そう呟いて勢いよく走り出す。
黒色の瞳が金色に発光し、速度を上げた。
群れの中を駆け巡り、敵の体を切り裂く。
デューアはエリーを探しながら駆け回る。
「・・・なに、あれ」
タクミの動きを見ながらデューアが呟くと通信機が震えた。
「タクミ君の状態はどうだい?」
「・・・ピンピンしてる。それどころか、死ぬ前より元気かも・・・」
デューアのその言葉に、ベイルが少し笑った。
「良かった。不可視条約は破られた。きっと、目の前に広がる光景は、地獄だろう?」
いつもより落ち着いたベイルの言葉に、デューアは首を傾げた。
「何か知っているの?」
「あぁ。知ってる、不可視条約は人間を守りましょうって条約じゃない。悪魔と天使を守るために、人間を傷つけないようにしましょうね・・・って条約だ。人間は一度、微量の魔力を含んだ武器で死んだら、ほぼ不死身の兵隊になることがわかったはずだ」
その声を聞きながらデューアは地下に繋がる道を見つけ、駆け出した。
息を切らしながらエリーを探し、入り組んだ施設内を走る。
その間も、ベイルとの通信は途切れなかった。
「どうしてそんなこと知ってるの?」
「・・・デューアが産まれる前かな。もっと前かも、一度、人間と悪魔の戦争があった。人間は十人程度に対し、悪魔は数万・・・結果は人間の勝利。勝利どころか圧勝だ」
デューアが産まれる前ということは、少なくとも百年以上は前だ。
「人間はほぼ無傷、死んだら蘇生し、傷が塞がる。だが、不死身ってわけじゃない、ほぼ不死身だけどね」
そう話すベイルの声を聞きながら施設を走り回り、やっとエリーを見つけ出し、拘束具を外して外に向かう。
「もう、大丈夫だから」
「・・・ありがとうございます」
力無く礼を言うエリーの言葉に歯を食いしばりながらデューアは歩いた。
「そして、人間が一度死んだ後に共通して扱うものがあった・・・それが・・・」
「血の武器」
「正解」
タクミが扱っていた血を思い出し、デューアは歩く。
「変幻自在の赤い武器。形状から長さまで、硬度も全て変えられる。世界に存在しない異質の武器だよ」
そんな声を聞きながらデューアは出口を目指し、外の光が施設内に差し込むのを見た。
白夜が訪れる。
「人間曰く、蘇生する際は燃えるような熱で血が沸騰している感覚がするんだって・・・だから彼らは自らをこう呼んだ・・・」
デューアはベイルの話を聞きながら外に出る。
柔らかい風、差し込む日差し。
そして、逆光に照らされるタクミを・・・
ベイルは続けた。
「不死鳥・・・てね」
血に塗れた姿で丘の中央に立つタクミを、デューアはただ見つめる。
傷だらけだ、全員がフラフラだ。
だが、この戦闘に・・・いや、戦争に勝利した。
セブンスアビスのリーダー、タクミが・・・不死鳥が・・・
勝利に導いた。
「白夜の不死鳥・・・」
誰かがそう呟く。
それを漏らした本人はきっと、無意識に漏らしたことにすら気がついていない。
「・・・不死鳥」
デューアはそう呟いた。
直後、タクミの視線がデューアに向き、笑いながら手を振った。
「お疲れー見つけた感じ?」
「えぇ、大丈夫。見つけた」
タクミの平然とした態度に、少し困惑しながらもデューアは答える。
「良かった。任務は終わり、白夜は奪還した」
タクミのその言葉と共に、デューアの顔には笑みが浮かぶ。
安心した・・・信じていた。
「リーダー!」
「タクミさん!」
「お兄さん!」
「お兄ちゃん!」
「タクミさん!!」
そう声を張りながらネアたちが寄ってくる。
「死んでなかったのか!?」
「まぁな。ギリギリだ」
ネアの言葉にそう話すタクミの顔は、どこかスッキリとしている。
「さて、帰るかぁ・・・少し高いアイス食べたい人!手ェ上げて!」
タクミのその声に、全員が疲れた表情で手を上げる。
「七つか・・・」
「いや、リーダー。アタシは二つだ」
「ダメだよ。高いんだから」
遠慮せずにネアは要求する。
その言葉にタクミは眉を歪めながら否定した。
「あれだけ頑張ったのに?酒飲めないのに?アイスもダメなのかよー!!」
ネアはタクミの肩に腕を回しながらそう話す。
その光景は、軍というよりも、友人同士のじゃれ合いにしか見えない。
「ならいいよ!今回だけだからな・・・」
そう話すタクミの言葉に、ネアがガッツポーズを行い、白夜の空に拳を掲げた。
タクミはそう話しながら丘に残る遺体を眺める。
グリムローズは全滅までは追い込めなかった。
途中で逃げ出すのは想定になかった。
だが・・・もとはと言えばエリーの救出が依頼・・・
白夜奪還作戦はサブ目標。
誰も死なずに帰れるんだ・・・それだけで良しとしよう。
転送装置を起動し、装置に乗る。
「帰ったらアイスの前に休みたい」
「その前に体に異常が無いかの検査ね」
タクミの呟きにデューアはそう返す。
「またあれやんのか・・・」
「なんかあって死ぬよりはマシでしょ?」
デューアからの返事にタクミは頭を掻きながら訪れる浮遊感に目を瞑った。
7A~セブンスアビス~ 白夜奪還作戦 完全版 完
ご愛読ありがとうございました。
おそらく、書きたいものが書けたと思います。
楽しんでいただけたら幸いです。
確認してはいますが、誤字、脱字など見つけたら報告いただけると幸いです。
続きが気になる方は、原作、7A~セブンスアビス~の方を呼んでいただければと嬉しいです!!
最後になりましたが、お時間を使っていただき感謝・・・ではまた!!
作品内で説明をしていない単語の補足を載せておきます。
『ヴェノス』
セブンスアビスが戦う魔物の総称。
『ウタウタイ』
綺麗な歌声を出す者達。と言われているが、歌声を聴いたものは世界に存在せず、呪いの絶唱を扱う。
以上。 ありがとうございました。