勇者の友
私が生まれてまだ間もないころ、魔女がその強大な力によって、民の心を恐怖に染め上げ、心身ともに支配していたという。当時の父は、常人の力を圧倒する力を持っており、民からは「勇者」と呼ばれていた。父はその力を持って、勇敢にも魔女に挑んだという。しかし、父の力を持ってしても、あと一歩というところで魔女には及ばなかった。最後の力を振り絞り、父はその命を犠牲にし、魔女を討ち取ることに成功した。だが魔女は死ぬ前に呪いを残していったのだ。当時、母のお腹には私の妹がいた。魔女はその妹に死の呪いをかけたのだ。母はその事実を知り、ひどく悲しんだという。まだ幼かった私には、その意味が分からなかった。
妹は奇跡的にも、無事に生まれることがかなった。しかし、呪いの影響が消えたわけではなかった。妹はまだ幼く、魔女の呪いに体を蝕まれ、ひどく病弱だった。私はそんな妹を見ていられず、いろいろな医者や聖職者、果てには魔術師にまで妹を診てもらった。しかし念願敵わず、誰の手にも救えないという、最悪の結論に至った。数年が過ぎ、もはや起きることもままならないほど妹は弱っていった、体重も少しずつ落ちてゆき、小麦俵の半分ほどの体重になっていた。そんな中、私のもとにとある情報が入ってきた。「魔女の弟子」を名乗る男が、大陸の反対側に現れたというのだ。
「嘘か誠かもわからない、単なる噂話に過ぎない。わかっている。でも今は、それぐらいしか、妹が助かる術はないかもしれない。すがるしかない。この話を噂話だと決めつけて無視をしたならば、どうなるだろうか。もしも本当なら、大きな手掛かりになるかもしれない。その弟子が必ずしも俺に好意的とは限らないが、それでも今は、その人に会わなければ。」
片道に半年はかかる道のり、果たして妹に耐えられるのだろうか。しかし、もし妹を家に残したまま出発し、その間に妹が………考えたくもない。
仕方のないことなのだと自分に言い聞かせ、妹を連れて大陸の反対側へと向かう…………。
道中、様々な危機を乗り越え、「魔女の弟子」を名乗る男のもとへとたどり着いた。彼は、「10年ほど魔女のもとで弟子として修業させてもらっていた。今は魔術師として多くの人々を助けたいと思い、こうして活動している」と語った。あの魔女が本当にそんなことをしたのかとは思ったが、今はそんなことはどうだっていい。とにかく今は、「魔女の弟子」に妹を診てもらわなければ。何でもいい、何か手掛かりがつかめれば。そう考えていた。
「私の父は、昔魔女を殺した勇者なんだ。魔女は、死ぬときこの娘に呪いをかけ、それが原因でこの娘は今このように苦しんでいる。私は決して貴方に復讐しに来たわけではない。ただただ今は、この娘を救って欲しいだけなんだ。
この娘が助かるならば、私はいくらでもこの命を犠牲にする。」
そう言うと、彼は一瞬憎悪に満ち溢れた顔を覗かせたが、すぐに戻りこう言った
「そうですか…、わかりました、ではあなたに手を貸しましょう。ただ、一つ条件があります。私の言うことには従ってください。それがたとえいかなる命令だとしても。」
「この娘が助かるならば。」
それからはひたすら魔女の弟子の命令に従い動き続けた。彼は魔女の教えを今でもよく覚えているそうで、当時のことを今でも鮮明に覚えているという。彼は魔女からの教えを今でも守っており、実験や研究、記録などを毎日事細かにメモしていた。その中には到底人道的とは言えない行為もあった。しかし、これも妹を助けるためだと、自分自身に言い聞かせていた。妹が助かったならば、すべてを明かして私自身も罰を受けよう。そう考えていた。
ある日、彼からとある命令が下された。今の時代に現れたという勇者のパーティに潜入し、内情を探ってこいとのことだった。私は先代勇者の子供であり、父に代わり仕事をしていたため体も丈夫だった。それが好都合だったのだ。無事に勇者と面識を持つことができ、パーティに入れさせてもらった。「私はこのパーティの本当のメンバーではない。」「こんなにも優しい勇者を、その気持ちを、私は裏切っているのだ」と、そんな風に考えてしまい、いつも自分の意見を、いつの間にか押し殺してしまった。そんな私を見て勇者は気を使って「何でも言ってくれ、お前は俺の仲間なんだから。」と言ってくれた。私はますます後ろめたさに押しつぶされていった。
そんなある日、とある出来事があった。仲間の一人が野党にさらわれたのだ。パーティのみんなで探していくうちに、だんだんと私自身も本気で仲間を探すようになっていた。「どうか無事でいてくれ、私たちが見つけるまでどうか無事でいてくれ。」と。そうして野党のアジトを突き止め、無事仲間を救うことができた。心からよかったと、そう思った。そう思ってしまった。いつの間にか、勇者たちに情が移ってしまったのだ。妹に対するものとは違う、仲間を思う気持ちが。
彼に命令された内容と、それに相反する矛盾する感情を得てしまった私は、もう耐えられなくなり、彼に聞いた「妹の呪いはあとどれ程で解けるのか」と。そこで彼の口から発せられた言葉に私は、驚愕した。
「君には悪いことをしたね、まぁ本心じゃないが。君の妹さんの呪いは解けない。僕はまだ修行中の身だ、そんな僕がお師匠様の渾身の術を解ける訳が無いだろう?」
唖然とした。嘘を吐かれていたのか。私がこれまで行ってきたことは何なのか。人を騙し他人を陥れ自分まで騙してまでここまでやってきたというのに。すべては意味がなかったのか。もう私は耐えられなくなってしまった。自分を騙すことも、もうままならない。私は魔女の弟子にこう告げた。
「私はもう、あなたの命令に従うことはできません。もう、自分を騙すのに疲れました。」
すると彼は
「そうか、じゃぁもういいかな。君にはもう何も命令しないよ。けど、最後に一つだけやってもらうことがある。」
「それで、終われるんですか?」
「あぁ、これでもう終わりだ。君には最後に…………」
人間という生き物は嘘を吐ける生き物だ。
私が今まで仲間たちに吐いてきた嘘、些細なものから大きなことまで、すべて覚えている。
きっとそういうことの積み重ねが、今、私のもとに帰ってきたのだろう。むしろ、遅いくらいなのかもしれない。
そして、その日がやってきた。正体を悟られぬよう顔を隠し、ローブをまとうことで体格も誤魔化した。今、私の目の前にいるのは、かつてともに旅をし、苦楽を共にした、勇者御一行様だ。
到底私が一人で太刀打ちできるはずもない相手、いくら魔女の弟子の力を借りているとはいえ、敵うはずもない。
勇者の一撃を、かつて間近で見ていた最強の一振りを、その身に受け、どさっと倒れる。
倒れた反動で仮面が外れ、久々の再起を果たす。
「どうして、お前が……」
「ははは、どうして…か、
どうして……だろうな。
なんで、こうな、ちゃ、たかなぁ。」
「なんで、今までのことは嘘だったのか?」
「まさか、……そんなわけねぇだろ。
たのしかったよ。かなしかったよ。ずっと、……くるしかったよ。
たすけたか、た、だけなのに、…
なんでかなぁ…」
「…………」
「ゆうしゃ、どうか、おねがい、だから、
そんな、かお、しないで、くれ
おまえ、たちと
いたとき、だけ、は
わすれ、られた、から
おまえ、たち、に、
すくわれ、た、から
だから、さい、ご、まで、えがおで。」
そして、たった二十年かそこらの、俺の人生は幕を閉じた。思うこともある。やり残したこともある。だけど、もう疲れちゃったから。でも、勇者と過ごしたあの日々だけは、ずっと色あせないでいる。だから、勇者、もし私の、いや、俺の思いが届くなら、俺のことは気にしないで欲しい。どうか、乗り越えて欲しい。俺はできなかったから。
きっt、おmえなr、のrこえてつyくなれrとおmうkら。