地味王子と欲しがり妹。(エヴァン14歳)
「うわあ」
目の前に積み重なった手紙を前にして、エヴァンは特大のしかめ面をした。机上にこんもりと山を築くそれらは、全てエヴァン宛の夜会のお誘いである。
次代の玉座から最も遠い三男坊とはいえ、エヴァンも一応は王子。臣籍降下をしても将来は公爵位は確定なわけで、今のうちに媚を売ってお近づきになろうとする貴族は絶えない。
「これ全部読むの? 本当に? すでに中身あらためられてるんだから僕が改めて読む必要ある?」
「どれも殿下宛の『お誘い』ですので。返事をしたためるにあたって一応目を通していただかないと」
「……そうだよなぁ」
側仕えのルーシャスにド直球の正論を返されて、エヴァンは虚ろな目で天を仰いだ。
ルヴィルカリア王家では「王家は臣民に向けて心を尽くしていますよ」というポーズを取るために王族への手紙には自らが返事を書く習わしがある。
さすがに膨大な手紙全てを手書きしろとは言われないが、代筆者に丸投げはせず王族自らが「こういうことを書いて」と内容を決める。そして代筆者の手でやんごとなき文章に成型された文面を確認して、私が書きましたと肉筆のサインをするのだ。
王に向けた陳情などには定型文の利用が許されるが、貴族からの手紙——主に夜会への誘いやその出席へのお礼の手紙にテンプレは使えない。
貴族間の手紙、特に交流のための手紙はお宅は今これこれこうですね、先日の夜会はああでしたね、と世間話を織り交ぜて書くのが不文律だ。それができていないとあの家こんな貧相な手紙寄越したぞ、世情に疎い田舎者なんだろプークスクスとナメられることになる。
国のトップとして最も高貴なる者であらねばならない王家がそのマナーをガン無視するわけにはいかない。王家の端くれである以上、エヴァンにもその責任が重くのしかかってくるのであった。
「……さすがに僕、これ全部には出られないと思うんだけど」
「すでに優先順位をつけております。開催日が被ったものはどちらに出席なさるべきか目印をつけました」
ルーシャスの言葉に、脇に控えていた男の一人が「私がやりました」と言わんばかりにエヴァンに礼をする。返事を書くにあたって、世間話のネタ出しのためにあちらこちらの領地の情報やお家事情に通じている政務官がお助け要員として用意されるのだ。
無理がない程度にご出席された場合のスケジュールがこちらになります、と紙面に纏められた予定を提出されて、エヴァンの目からますます光が消えた。
「……じゃあさっさと片付けようか。代筆よろしく」
エヴァンがやけくそ気味に宣言すると、ルーシャスと政務官と代筆官が揃って礼をする。
うずたかく積み上がった手紙の山から一通を取って中身を開きながら、エヴァンは窓の外のうららかな日差しに思いを馳せていた。外はあんなに晴れているのに、太陽ぽっかぽかであったかそうなのに、エヴァンの心はこんなにどんより雨模様だ。
(王族って、ほんとめんどくさい……)
エヴァンの心の叫びは声にならないまま、紙の擦れる音に埋もれて消えていく。
時はエヴァン十四歳。貴族学院に入学する前の最後の春も、忙しなく過ぎていく予感に満ちていた。
◇◆◇◆◇◆
ルヴィルカリア王国では、貴族令嬢の社交界デビューは個人によって差はあれど十四歳程度が好ましいとされる。
昔は十八歳前後が通例だったが、貴族学院が設立されてからはその入学前に衆目に晒されるのに慣れておこうということでデビュタントの平均年齢が引き下げられたのだ。
今や入学前のコネ作りの場という役割も与えられたデビュタントに、エヴァンも招かれていた。
「初めまして、殿下。ローズマリー・ミアン・フォールドですわ」
エヴァンに向けて優美にカーテシーをしてみせた少女は、このデビュタントの主役となるフォールド公爵家の次女だ。
確か歳は十二と、平均年齢からすれば少し若い。早めの社交界デビューはよっぽど娘の出来に自信があるか、もしくは目に入れても痛くないくらい可愛がっている娘を自慢したい場合に行われる例が多い。眼前のローズマリーを見る限り、彼女はその両方といったところか。
ローズマリーのカーテシーは姿勢に乱れもないし、主賓のエヴァンと対面しても緊張が表に出ていない。身につけたライトブルーのドレスと美しく結い上げられたホワイトブロンドは彼女をより魅力的に見せている。
幼さを隠して大人っぽく——ではなく、幼いが故のかわいさを全面に出しているのだ。まん丸いアイスブルーの瞳もピンク色のつややかな唇もふっくらした頬も華奢な体躯も、彼女はどこを取っても文句のつけようがなくかわいらしい。
(幼児趣味の令息なんかに目をつけられなきゃいいけどなあ)
お節介なことを考えながら、エヴァンはローズマリーに微笑み返す。極めてスマートに、エレガントに。精一杯の王家の風格を出した営業スマイルだ。
「初めまして、ローズマリー嬢。噂に聞く通り、いや噂以上に美人で驚いてしまったよ」
「まあっ。本当ですか」
(お世辞だけどね)
エヴァンの心の声などつゆ知らず、ローズマリーは頬をぽっと染めて嬉しそうに顔を綻ばせる。
澄ました顔がかわいければ笑った顔もまた一層かわいらしいのだが、所詮子供と割り切っているエヴァンにはあまり響かない。
たかが二歳、されど二歳。思春期の、それもティーンエイジ前半の少年少女にとって二歳下はお子ちゃまだ。かわいいね〜という小さい子供に向けるような慈愛の情はわいても恋愛感情など起こらない。
「ありがとうございます、殿下。わたしも殿下のことをどんな方かしらと噂話をもとにあれこれ想像していたのですけど、想像以上に素敵な方で恐縮しておりますの。まるで絵本から飛び出てきた王子様のよう」
「ははは。さすがに言い過ぎですよ」
絶対嘘だろ、という本音を特上のオブラートに包んでエヴァンは愛想笑いをする。父譲りの蜂蜜のような濃い金髪に生まれたのは上の兄二人だけで、エヴァンは母譲りのアッシュゴールドにオリーブ色の瞳だ。単体では綺麗でも兄と並ぶとどこか色褪せて見えてしまう。
顔も整ってはいるが立っているだけで衆目を引く美形ではなく、慎ましく品の良い顔立ちなのでやはり兄達と比べてパッとしない。一人では高貴な花でも三兄弟が揃うとただの茎になるのがエヴァンの特徴だった。
「お近づきになれて本当に嬉しいですわ。よろしければ今後も当家にお越しになってくださいね」
「こちらこそ、レディ。あなたのように魅力的な女性にお誘いいただいて光栄ですよ」
めんどくさいからやだな、という本音は飲み込んで、エヴァンはあくまでよそ行きの丁寧な返事をした。
その言葉が本心と取られたのか、デビュタント以降も度々フォールド公爵家からは夜会の誘いが届くようになったのであった。
◇◆◇◆◇◆
(めんどくさい……)
王家の馬車に揺られながら、エヴァンは濁った目で天を仰ぐ。兄と比べると地味な容姿をゴージャスに映えさせようと着飾ったエヴァンが向かう先は、やっぱりあのフォールド公爵家である。なんでも今度は長女の誕生日パーティーらしい。
面倒だから断りたいところなのだが、公爵という爵位は国が始まって以来の重臣か王位を継がなかった親族を示すものだ。王家に近しい立ち位置の家だから、王家としては誠意を尽くさねばならない。
(まあ、長女の誕生日パーティーだから妹の相手をしなくてよさそうなのが救いかな)
デビュタント以来、ローズマリーはエヴァンのどこが気に入ったのか夜会で会う度にエヴァンに纏わりつくようになった。歳下のお子ちゃまに興味のないエヴァンは内心それを面倒に思いながらも当たり障りなくやんわりと対応せねばならず、ローズマリーに出会うたびに疲労が溜まっていた。
今日は長女が主役の席なのだから、長女に挨拶をしたらさっさと集団に紛れ込んでしまうか、それか長女がまともそうなら長女と延々話をしてローズマリーを牽制すればいい。ローズマリーの姉上はどんな方か気になっていたのです、なんて口実をつければ初対面で構い倒しても不自然ではない。
よっしゃこれで行こう! と自分なりにバッチリ作戦を練ってエヴァンはパーティーに臨むことにした、のだが。
(……あれぇー?)
通されたパーティー会場に、姉らしき人の姿がない。主役だから一番目立っていないとおかしいのだが、パーティーの中心には着飾ったローズマリーとそれに群がる人々がいるだけだ。これではまるでローズマリーが主役のパーティーではないか。
「ご機嫌麗しゅう、殿下。またお会いできて光栄ですわ」
「こんばんは、ローズマリー嬢。君の姉上にご挨拶を差し上げたいのだけど、どこにいるのかな?」
エヴァンに群がる令息令嬢の最前列にいたローズマリーに尋ねると、ローズマリーは一瞬表情を歪めた。ありゃりゃ? とエヴァンが疑念を抱く間に、ローズマリーは元のかわいらしい笑顔に戻って答える。
「お姉さまならきっと会場の隅におりますわ。人混みが苦手なので休んでいられるのでしょう」
「そうか。教えてくれてありがとう、ローズマリー嬢。さっそく挨拶に伺おう」
「えっ、ちょっと」
エヴァンは追い縋ろうとするローズマリーをひらりとかわして、エヴァンを呼び止めようとする貴族の群れの中にするりと潜り込む。王族にあるまじき存在感の薄さを誇るエヴァンが集団の中に紛れてしまえば、そうそう見つかるはずはない。見事ローズマリー達の目を欺いたエヴァンは殿下はどこだと惑う貴族達の中からあっさり抜け出して、身一つでパーティー会場を練り歩く。
出席者の大半がエヴァンに群がってきたのか、あちこちに設えられたテーブルにはまばらに人がついている。マイペースに料理をつついたり酒を傾けたりする来客をうらやましいなと横目で見ながら、エヴァンは姉らしき令嬢を探して辺りを見回す。
(あれか……?)
そうしてようやっと見つけたのは、庭園の隅で所在なさげに立ち尽くす一人の令嬢だった。アッシュグレーの髪にブラウンの瞳、という特徴は政務官に事前に聞いていたものと合致している。しかし身に纏うドレスはモスグリーンのクラシカルなデザインで、ヘアメイクもローズマリーと比べると手の込んでいないシンプルなものだ。
よく言えば慎ましく、悪く言えば貧相。主役にあるまじき装いにこれが本当に長女か? とエヴァンは訝しんだが、ローズマリーの「隅で休んでいる」という証言が嘘でなければほかに条件に合致する令嬢はいない。
「シャーリー嬢?」
違ったら失礼だな、いや違ってたほうがいいかも、などと思いながらおずおずと声をかけると、隅の令嬢はびくっと肩を震わせる。人違いです、と否定せずおっかなびっくりといった様子でカーテシーをする姿に、この子だったか……とエヴァンは天を仰ぎたくなった。
「初めまして、殿下。シャーリー・リノ・フォールドでございます」
「初めまして、シャーリー嬢。君は今年で十四歳だそうだね。僕と同じだ」
「恐縮でございます。殿下に私の誕生日を祝う席にお越しいただいた上にお声がけしていただけるなんて」
「いえ。パーティーの主役に声をかけるのは当然の礼儀ですよ」
深々と頭を下げるシャーリーに、エヴァンは気にすんなの意をこめて微笑みかける。実際、主役であるはずのシャーリーがこんな地味な格好で壁際に追いやられて、ローズマリーが中心に立っているのは明らかにおかしいのだ。
しかし、シャーリーは「過分なお言葉でございます」とへりくだるばかりでその状況に不満を抱いている様子は見えない。
まるで、これが自分の在るべき姿だとでも言うように。あからさまに不当な扱いをシャーリーは粛々と受け入れている。
「私のようなつまらぬ女が殿下のお時間を奪うわけにはまいりません。ローズマリーもきっと殿下を恋しがっているでしょうし、私よりもあの子を気にかけてやってくださいませ」
「しかし、今宵の主役は君だろう? 主役を放り出して妹を構うなど無作法な真似はできないよ」
「いいえ、よいのです。私に主役は向いておりませんから」
そう口にしたシャーリーの瞳には諦観が浮かんでいた。エヴァンの胸中で疑念が渦を巻いて深まっていくが、それを問いただす前に背後から甘ったるい声が聞こえてきた。
「殿下、こちらにいらしたのですね!」
(げえっ)
喜色満面でひっついてくるローズマリーに、エヴァンは内心顔をしかめた。エヴァンがいくら周囲と同化する存在感の持ち主とはいえ、話し声までは隠せない。エヴァンを探しに姉の元まで来たところで二人の話を聞かれてしまったのだろう。
「ずるいわお姉さま。殿下を独り占めするだなんて」
「ごめんなさいねローズマリー。ご挨拶はもう済んだから、あとはふたりで過ごしてちょうだい」
「えっ、いや待ってシャーリー嬢」
「私はここで失礼いたします。どうぞごゆっくり」
エヴァンの制止も聞かず、シャーリーはドレスの裾を摘んで逃げるように庭園の外へ駆けていく。
結局その晩も、エヴァンはローズマリーに構われ倒して過ごすことになったのであった。
◇◆◇◆◇◆
あの誕生日パーティーから数ヶ月後。
自分宛に届いた手紙の山を崩す最中、一通の封筒がエヴァンの目に留まった。
「またローズマリーか……」
差出人の署名はローズマリー・ミアン・フォールド。あのひっつき虫のローズマリーだ。中身を取り出せばまたお手紙を送ってくださって嬉しい、わざわざお姉さまを介さないで今度は私宛にしてくださいねという内容が綴られていた。
(そりゃ君に宛てて書いてないからだよ)
眉間の皺を深くして手紙を読むエヴァンを見守るルーシャスも政務官も代筆官も、みんな揃って微妙な顔をしていた。シャーリー宛に書いた手紙にローズマリーから返事が来る、なんてヘンテコな事態はこれで五度目だ。
誕生日パーティーで出会って以降、エヴァンは何度かシャーリーと連絡を取ろうと試みていた。ところが手紙を送ると「姉は筆不精だから」と理由をつけてローズマリーからの返事。じゃあ直接話そうと夜会に招いてみると「姉は出不精だから」とローズマリーが出席。シャーリーを指名しているのに、何につけても出てくるのはローズマリーという状況にエヴァンはほとほと辟易していた。
ローズマリーの言い分通り、本当に面倒くさがりなだけならエヴァンもここまでかまいはしない。しかしあのパーティーで顔を合わせた時、シャーリーはどこか後ろめたそうな態度でエヴァンに接していた。その態度が気になって事情通の政務官に詳しく調べるよう頼んでみると、しばらくしてひとつの回答が得られたのだ。
シャーリーは、妹のローズマリーとは格差をつけて育てられているようだと。
「……自分宛の手紙も読ませてもらえないんだろうか、やっぱり」
「家族が検分した後でなら読ませてもらえるのかもしれませんよ。自分で返事は書けないようですが」
「僕みたいだな……いや僕以下か。自分宛の手紙なのに自分の自由にさせてもらえないって問題だよ?」
人権無視の気配に、エヴァンは額を押さえてうんうんと唸る。明らかにおかしいシャーリーの待遇に、しかし現状では手出しはできない。
虐待を罪に問う法律はあるのだが、シャーリーが受けているそれが虐待とは言い切れないのだ。パーティーで見たシャーリーは流行遅れのものとはいえドレスはちゃんと着ていたし、顔色も悪くなく不自然に痩せ細ってもいなかった。最低限の養育義務を果たしているのであれば多少の扱いの差は「教育方針」で済まされるし、手紙の件に関しても「返事を書かないのは本人の意向」と家族ぐるみで言い張られたら咎められない。
「シャーリー嬢、大丈夫かな……」
「やけに気にかけられるのですね。殿下にしては珍しい」
「いやだって、なんだか他人事とは思えないからさ……」
はあ、と溜息を吐いてエヴァンは窓の方を向く。見るのは外ではなく、ガラスに映る自分の姿だ。
人目をさほど引かない地味な容姿。生まれが生まれだからみんな殿下殿下とちやほやしてくれるが、もしそのへんの下級貴族の息子なら「何あのパッとしない令息」「華がなくてやーね」と令嬢方に笑われていたであろう。
シャーリーもまた、同じように華やかとは言えない見た目だった。くすんだ色の髪に落ち着いた色合いの瞳、そしてパーツの配置こそ悪くないものの、無難だからこそ印象には残りづらい容貌。
本人にとってみれば失礼な話だろうが、同じ「地味仲間」としてエヴァンはシャーリーのことを深く気にかけていたのだ。
「そんなにご心配であれば、婚約者にしてしまえばよろしいのでは? 殿下の婚約者ならばフォールド家も下手に扱わないでしょう」
「それをしたらローズマリーが来そうだから絶対やだ」
花嫁衣装を着込んだローズマリーが押しかけてくる図を想像して、エヴァンはめまいがした。面倒くさがりのエヴァンにとって、一方的に好意を寄せてくる貴族令嬢は面倒の化身でしかなかった。
◇◆◇◆◇◆
それから時は流れ、エヴァン十五歳の春。貴族学院に入学した後に、ようやくエヴァンはシャーリーと話す機会に恵まれた。
「シャーリー嬢」
人気のない中庭の隅、ベンチの端にぽつんと座るシャーリーに声をかけると、彼女はびくっと肩を跳ねさせて周りを見渡す。気配を消しすぎたことを後悔しつつ、「ここだよ」とベンチの裏から彼女の正面に歩み出ればシャーリーは唖然とした表情でエヴァンを見上げた。
「殿下……?」
「こんにちは、シャーリー嬢。話があるんだけど、いいかな?」
エヴァンが言うが早いか、シャーリーはさっと立ち上がって駆け出そうとする。「ちょっと待って」と慌てて腕を掴んで引き止めると、彼女は震える声で離してくださいと懇願した。
「僕と話すの、そんなに嫌?」
「いいえ、決してそのようなことは……ただ私と殿下が話すなど恐れ多くて……」
「僕に気遣いは不要だよ。君と話がしたいんだ」
「私にはそのようなお誘い、とてももったいなく……」
「そんなの誰が決めたの? 君の妹? それとも両親?」
エヴァンの言葉に、シャーリーがわかりやすく動揺する。うつむいて「どうかご容赦を」とか細い声で呟くシャーリーに、エヴァンは穏やかな声を作って言い聞かせる。
「ここに君の振る舞いを咎める人はいない。見咎められることだって心配しなくていいんだ、僕は目立たないからおとなしくしていれば気付かれやしない。現に今だって誰にも見られてないだろう?」
エヴァンの説得を聞いて、シャーリーが恐る恐るといった様子で辺りを窺う。中庭に集まった生徒はそれぞれ歓談を交わしたり花を愛でたり四阿の下で茶を嗜んだりと、めいめいの時間に夢中になって片隅のエヴァン達には見向きもしない。
少し落ち着いた様子のシャーリーをベンチに座らせて、これまで疑問に思っていたこと——シャーリーの家庭内での位置付けについて尋ねると、シャーリーは声を低くして喋り始めた。
フォールド家の長女シャーリーは父方の悪い所取りをした容姿に生まれた。祖父のアッシュグレイの髪、父のブラウンの瞳。美しい妻に似た娘を期待した父にとっては、やや期待外れといったところだった。
ほどなくして生まれた次女ローズマリーは、母譲りのきらめく金髪の持ち主だった。開いた目の色も母と同じで、父は大喜びしたという。
成長すればするほどに愛らしさを増していくローズマリーに、父母も祖父母も使用人も皆虜になった。地味なシャーリーより、華やかなローズマリーに目が向くのは当たり前だ。
ローズマリーに与えられるものは次第にシャーリーより多くなり、同じわがままでもシャーリーではなくローズマリーのほうが優先されるようになった。泣いても喚いても自分の言い分は通らず、「長女なのだから我慢しなさい」の一言で封殺される日々に、シャーリーは諦めることを覚えた。
それでもまだ、シャーリーにはささやかな幸せがあった。ひとつしかないものの取り合いにさえならなければ、ふたつあるものの片方ならシャーリーにも与えられた。ローズマリーのついでに同じデザインの髪飾りも買ってもらえたし、ローズマリーが好みでないと言ったドレスも自分のものにできた。ローズマリーのようにきらびやかに着飾ることはできなくても、自分が好きなものを集めて宝物にする自由はあった。
転機が訪れたのは、シャーリーが九歳になった誕生日のこと。シャーリーの誕生日プレゼントに祖父母からは青みがかったグレーの瑪瑙のペンダントが贈られた。
自分のアッシュグレイの髪を認めてもらったようで、シャーリーはとても嬉しかった。大事にしよう、とシャーリーがペンダントをうっとりと見つめていると、ローズマリーもペンダントを見ていることに気がついた。
そして、ローズマリーが言ったのだ。「わたしもそれが欲しい」と。
シャーリーは困惑した。それまでローズマリーがシャーリーの持っているものを欲しがることなんてなかった。シャーリーの持ち物はローズマリーがもう持っているものか、ローズマリーが興味を持たないものだったから。
きっと両親が同じような、あるいはずっと高価なアクセサリーでも買い与えるのだろうな——と、シャーリーは思った。現に両親は宝石のはまったペンダントをローズマリーに与える約束をしようとしたが、ローズマリーは泣いてだだをこねた。どうしてもシャーリーの貰ったペンダントが欲しい、と。
両親は、ローズマリーにペンダントを譲りなさいとシャーリーに言いつけた。シャーリーは絶対にあげたくないと泣いたが、例の言葉と共に取り上げられた。
代わりに買い与えられるペンダントを、シャーリーは選ばせてもらえなかった。白の瑪瑙のペンダントをシャーリーは身につける気になれず、箱の奥にしまい込んだ。
それからというもの、ローズマリーはことあるごとにシャーリーのものを欲しがった。いつかは好みじゃないと言ったドレスも、違う色がいいと言ったイヤリングも、難しくて読めないと言った本も。シャーリーが嫌がると、ローズマリーは「お姉さまだけずるい」とシャーリーを責めた。
いつからか代わりのものも買い与えられないようになって、シャーリーの手元からは宝物が次々に消えていった。シャーリーは大切なものをなるべくローズマリーの目に入れないようにしたが、ローズマリーはシャーリーの部屋に入ってきては目ざとく隠された宝物を見つけて「ちょうだい」とねだった。
あらゆるものを奪われたシャーリーがローズマリーから守り通せたのは、貴族学院に通う権利くらいだった。
「それはひどいね」
シャーリーの話を聞き終えて、苦々しい表情でエヴァンが呟く。話しているうちにシャーリーの目からは涙が溢れ、喉からはくぐもった声が漏れていた。
「君宛てに出した手紙もローズマリーのものになったの?」
シャーリーが力なく頷く。シャーリー宛ての手紙にエヴァンの署名があったのを見て、ローズマリーが引ったくったらしい。お姉さまばっかり殿下からお手紙をもらってずるいとローズマリーが泣くので、妹の想い人に手を出すとは何事かと両親に叱られたという。
(やっぱり想い人にされてたのか、僕)
エヴァンの胸中にはローズマリーからの熱烈な好意への辟易と共に、シャーリーへの罪悪感がこみ上げていた。シャーリーを心配する自分の気持ちがかえって彼女を傷つけていたと思うと、己の浅はかさに怒りさえ覚えた。
「ごめんね。僕のせいで余計つらい思いをさせて」
ハンカチを差し出しながら詫びると、シャーリーは殿下のせいではないと、自分がかわいくないから悪いのだと声を詰まらせながら答えた。貧相な自分に殿下からの温情はふさわしくないと、そう言ってシャーリーは両手で顔を覆った。
「違うよ。君のいる環境が悪いんだ。君にも幸せになる権利はある。今は不当に奪われているだけなんだ」
シャーリーの肩に手を置いて、エヴァンは優しい声で囁く。もし家族に恵まれなかったら、自分もシャーリーのようになっていたかもしれない。少しでも自分と似ていると感じたからこそ、なお胸が痛かった。
「せめてもの罪滅ぼしとして、君の幸せを取り戻す手伝いをさせてくれ。上手くいくかわからないけど、出来る限り支援はするよ」
エヴァンの提案に、シャーリーが顔を上げる。泣き腫らして赤くなった彼女の目元に優しくハンカチを押し当てて、エヴァンは微笑んだ。
◇◆◇◆◇◆
「エヴァン様!」
自分を呼ぶ声に、エヴァンは足を止めて振り返る。
つややかなホワイトブロンドの髪に、長いまつげに彩られたアイスブルーの瞳、すっと筋の通った小さな鼻と桃色の唇。十五歳になってより美しく成長したローズマリーの姿がそこにあった。
「ローズマリー嬢、そんなに走ってははしたないよ」
「ごめんなさい。エヴァン様に早くお会いしたかったものですから」
ぽっと頬を染めた直後、隣にいるシャーリーの存在に気づいたローズマリーが眉をひそめる。どうしてお姉さまがいるの、と言いたげなローズマリーにエヴァンは先手を打って答えた。
「シャーリーは僕の良き友人なんだ。ローズマリー嬢の話をしているうちに仲良くなってね」
「……どうして教えていただけませんでしたの」
「毎回書き忘れてしまうんだ。君に話したいことがたくさんあるから、それを書いているうちについ……ね」
エヴァンとローズマリーは、ここ二年ほど文通をしていた。宛名をシャーリーからローズマリーにした途端、何枚もの便箋を使って熱烈な返信が届いたことにエヴァンは苦笑したのだが——同じ枚数の便箋を使って返事をしたため、複数枚の便箋を要する濃密な手紙を送り合う関係を続けた。
そこにシャーリーの情報を載せなかったのは、もちろんわざとだ。
「いじわるですのね、エヴァン様は」
拗ねた顔をするローズマリーに、エヴァンはごめんごめんと軽い調子で謝る。ローズマリーはちらりと上目遣いでエヴァンを窺うと、ふいとそっぽを向いた。
「機嫌を直しておくれよ、ローズマリー嬢。君の姉上と仲良くするくらいいいじゃないか」
「わたしに内緒で仲良くしていたなんて、ひどいですわ。わたしという者がありながら……」
「困ったな。そんなこと言われたら彼女も紹介できないじゃないか」
「えっ」
彼女、と聞いて目が点になるローズマリーに、エヴァンは満面の笑顔で隣に立つもう一人の腕を引く。短く切り揃えたブラウンの髪と涼やかな目元が印象的な貴公子は紳士の形で礼をすると、凛とした声を響かせた。
「フィオナ・リース・クレインです。よろしく、ローズマリー嬢」
「え……この方、殿方じゃ……」
「いや、君と同じ令嬢だよ。女子は希望すればズボンも支給されるんだ。知らなかった?」
口をぱくぱくとさせて、フィオナの顔と首から下を交互に見比べるローズマリー。上着の合わせこそ女子の右前の形だが、背が高く顔も中性的で凛々しいから男子だと思ったのだろう。フィオナと初対面の者が必ずと言っていいほど示す反応だった。
「君にフィオナを会わせたくて仕方なかったんだ。彼女ともとても親しくしているからね」
「そん、な……わたしがいるのに、なんで……」
「そう嫌な顔をしなくてもいいじゃないか。四人で仲良くしようよ、ローズマリー嬢。せっかくの学園生活なんだから、ね」
エヴァンの嫌味をこめた特大のスマイルに、ローズマリーはただ青い顔をしてふるふると震えるだけだった。
それからというもの、エヴァンはローズマリーに見せつけるようにシャーリーとフィオナを連れ歩いた。ローズマリーからのお誘いも、「彼女達が一緒なら」とことさらシャーリー達の同伴を強調して答えた。
どうして仲良くしているの、と聞かれたら彼女達が大切な友人だからと答えた。わたしのことはどう思っているの、と聞かれたら友人だと答えた。わたしのことが嫌いになったの、という手紙は無視した。
そうして数ヶ月が経ち、学内にはシャーリーがエヴァンの婚約者になるのではないかという噂が流れ始めた。
「これでもう懲りたかな」
中庭の四阿の下、泣き腫らした顔のローズマリー、こわばった表情のシャーリー、澄まし顔のフィオナ、神妙な顔つきのエヴァンは同じテーブルについていた。
四人の前にはそれぞれティーカップが置かれているが、ぬるくなった紅茶の嵩を減らしているのはフィオナだけだ。
「自分の大事なものを奪われた気分はどうだった? ローズマリー嬢」
僕は最初から君のものじゃないけどね、という嫌味は飲み込んで、エヴァンは問いかける。ローズマリーは泣き続けてとうに涙も涸れ果てたのか、沈鬱な表情でひっくひっくと喉を鳴らしていた。
エヴァンが考えついたシャーリーの支援とは、ローズマリーを懲らしめて横取りをやめさせる作戦だった。下手にシャーリーに何かを恵んでも、実家との繋がりがある以上ローズマリーや両親がシャーリーから奪ってしまいかねない。それならローズマリーに心を入れ替えさせて、金輪際シャーリーのものをねだらないようにすべきだと考えたのだ。
シャーリーの話を聞く限り、ローズマリーはシャーリーに意地悪をしているのではなく本当にシャーリーの持ち物がうらやましくてねだってしまう様子だった。
ただ、わがままを言えば通ってしまう状況だったから際限なくわがままが膨らんでいっただけ。周囲の寵愛がローズマリーを我慢を知らない子供に育ててしまった。
このままではローズマリーのためにならない。故にエヴァンはシャーリーやフィオナと協力し、ローズマリーに初めての喪失を味わわせることにしたのだ。奪われるつらさを知れば、きっと自分がシャーリーにどれだけひどいことをしてきたのかわかるはずだと。
そしてローズマリーから「お姉さまだけずるい」という言葉を引き出せたとシャーリーから報告を受けたタイミングで、全てを明かすことにした。本当にずるをしていたのは誰かを教えるために。
「シャーリーの痛みがわかったかい? 彼女は何年もずっと、この痛みを感じていたんだ。君がわがままを言うたびにね」
「ごめんなさい……ごめんなさい、お姉さま……わたし、知らなくってっ……言えば何でもくれると思ってっ……」
ローズマリーは整った顔をくしゃくしゃに歪めて、ただひたすらにシャーリーへの謝罪を口にする。
昔から、自分が欲しいものは貰えて当然だと思っていた。シャーリーの宝物は、シャーリーが大切にしているからきらきら輝いて見えて、だから欲しくなった。貰ったあとは途端に色褪せて見えて、飽きて放り出してしまった。それがどれだけ残酷なことなのか知らなかった——と。
ローズマリーは本当に何も知らなかっただけなのだ。だから今、初めて知った罪の重さとシャーリーの痛みを全身で受け止めて泣いている。
「ごめんなさい。ごめんなさい、お姉さま。本当にごめんなさいっ」
「いいのよ、ローズマリー。わかってくれたのなら……それでいいの」
繰り返しシャーリーに詫びるローズマリーに、シャーリーが歩み寄って肩を抱く。幼い子にするように優しく髪を撫でるシャーリーの目尻から、ほろりと涙が一粒こぼれた。
互いに抱き合って泣く姉妹を、エヴァンとフィオナは静かに見守っていた。
◇◆◇◆◇◆
それから、さらに時は流れて。
卒業パーティーの祝辞を終えた後、さっさと集団に紛れてシャンパンを傾けていたエヴァンは隣のテーブルにシャーリーがいるのに気づいた。エヴァンは何食わぬ顔でシャーリーに近寄り、その手にグラスが握られていないのを見て取ると「わっ」と目の前で腕を広げた。
「ああ、びっくりした。エヴァン様でしたか」
「ふふふ。僕の接近に気づかないようじゃまだまだ甘いね」
「そうそう気づけませんよ。エヴァン様は気配を殺すのが上手いんですもの」
「普通にしててこうなんだけどなあ」
「持って生まれた才能、でしょうね」
ふふ、と口元を優美に隠してシャーリーが笑う。すらっとした体躯を包むゼニスブルーのドレスの胸元には、瑪瑙のペンダントが輝いていた。
「似合うよ、そのペンダント。ドレスとよく合ってる」
「ありがとうございます。ローズマリーに選んでもらったんですよ、このドレス」
「へえ。彼女はセンスがいいんだねえ」
「昔からおしゃれさんでしたから。私が選ぶとどうも野暮ったくなっていけなくって」
ローズマリーに感謝しなくちゃ、とシャーリーが愛おしげな目でドレスを見下ろして呟く。
あの四阿で話し合った日から、ローズマリーは心を入れ替えて新しい自分に生まれ変わった。わがままばかりの子供から、分別をつけた大人のレディに。
帰省の折にローズマリーの部屋を二人であらため、シャーリーの物はきちんと元の持ち主の部屋へ戻された。飽きて捨てられてしまった物もいくらかあったが、シャーリーが誕生日に貰った瑪瑙のペンダントはアクセサリーをしまった箱の底にあった。
わがままを言わなくなったローズマリーを見て、両親や使用人は首を傾げていたらしい。
「でも、ローズマリーに髪型やドレスを見てもらってもフィオナさんにはとても敵いませんね。素材の差を感じます」
「いや、フィオナはまたベクトルが違うでしょ……」
シャーリーの視線の動きにつられて、エヴァンは会場の中心に目を向ける。エヴァンの身代わりに残っていたフィオナの周りに集う人はすでにまばらになっており、彼女が身に纏う紺のマーメイドラインドレスもよく見えた。
エヴァンとの馴れ初めやらハートを射止めた秘訣やらをいくら尋ねても「普通に仲良くしていた」的な素っ気ない答えしか返ってこないのでほとんど諦めて去ったのだろう。残っている者もそのうち探りがいのなさに心を折られて離れるはずだ。
「エヴァン様のエスコートも素敵でしたよ。フィオナ様と並ぶと本当に絵になって、お似合いのカップルです」
「ありがとう。僕がフィオナより背が高ければもっと映えたんだろうけどね」
エヴァンの冗談に、シャーリーが声を上げて笑う。エヴァンとフィオナの婚約は、二人の共通の友人として親しくしていたシャーリーをも驚かせた。ついでにローズマリーにも大層驚かれ、「お姉さまを選ぶと思ってたのに」と詰められた。シャーリーとの間に噂が立ったのはエヴァンのせいではないので詰められても困る。
「エヴァン様。在学中は本当にお世話になりました」
「え、なに急に」
突然改まって礼を述べるシャーリーに、エヴァンは困惑した。鳩が豆鉄砲を食ったような顔のエヴァンにくすくすと笑って、シャーリーは言葉を続ける。
「エヴァン様が助けてくださらなかったらローズマリーはずっと子供のままで、私もローズマリーと仲良くなんてできなかったでしょうから。私がこうして綺麗なドレスを着て、穏やかな気持ちで日々を送れているのはエヴァン様のおかげです」
「いいんだよ、そんなの。僕が見ていられなかっただけだから」
「そのお気持ちが嬉しかったんです。本当にありがとうございました」
深々と頭を下げるシャーリーに、エヴァンはばつが悪くなって頭を掻く。
言えるはずがない。ただ、君が僕と同じで地味な子だから気になっておせっかいを焼いてしまっただなんて、レディにとって失礼この上ない話だ。
地味の仲間意識のことは今後も口外せず、墓場まで持って行こう。幸せそうなシャーリーの顔を見て、エヴァンは固く心に誓うのであった。
◆エヴァン・ライーズ・ルヴィルカリア
ルヴィルカリア王国第三王子。
品が良いけど地味な顔立ちは母譲り。しかし存在感の薄さは天性の才能。
めんどくさがりだが若干おせっかい焼き。好奇心が強く気になったらつい手を出しちゃうのは父譲り。それが善意に向くのは母の血のおかげ。
フィオナと婚約したのはクレイン家の功績に報いるためでもあるが、決め手は一緒にいて一番楽しいのがフィオナだったから。
◆シャーリー・リノ・フォールド
公爵令嬢。
不細工ではないが地味な顔立ちの持ち主。自分から何もかもを奪っていくローズマリーをうっすら疎んでいたが、内心哀れんでもいた。
エヴァンとは名前呼びを許されるくらい親しい友人として付き合っていたしほんのり恋心もあったものの、自分にはもったいない人だなあと気後れもしていた。なので婚約の噂が立った時はめちゃくちゃ焦った。
失礼だと思って口にしないだけで、エヴァンと同じように相手に地味の仲間意識を抱いていた。
◆フィオナ・リース・クレイン
男爵令嬢。
身長171cm八頭身スレンダーイケメン顔のヅカ男役系女子。イケメンオーラがすごいのでエヴァンと並ぶとやっぱりエヴァンの存在感を食う。
立ち振る舞いもスマートでイケメンだが、中身はわりと図太くマイペース。
エヴァンが気配を消していても見つけられる稀有な人間のひとりで「え、普通に見えるじゃん」的なノリで集団に紛れたエヴァンをスッと捕まえるので、一時期は神出鬼没王子の天敵などと呼ばれていたこともある。
エヴァンがかわいい系の顔立ちなので並ぶとヅカの男役と姫役みたいになる。
◆ローズマリー・ミアン・フォールド
公爵令嬢。
物心ついた頃からちやほやされ尽くして育ったので、世界はなんでも自分の思い通りに回ると思い込んでしまっていた。
改心してからはシャーリーと仲良し姉妹になり、シャーリーと欲しいものがかちあったらカードなりチェスなりで勝負をして決めるようにした。勝負はだいたいシャーリーが勝っている。
エヴァンを気に入ったのは「王子様」だからきらきらして見えただけであり容姿が好きとか別にそんなんではない。
シャーリーとエヴァンがくっつくと思っていたので突如エヴァンがフィオナと婚約発表をした時はめちゃくちゃに驚いた。
余談だが、フォールド家は元王子様が爵位を賜って生まれたタイプの公爵家。ただし王家の印の金髪は劣性遺伝で途絶えてしまっているので金髪の嫁を貰って金髪の子を残そうと躍起になっている。ローズマリーが溺愛された理由がそれ。
◆ルーシャス
エヴァンの側近。
存在感が薄いエヴァンを見失わないようにするための役目を負っている。エヴァンが気配を消して逃げようとしたら捕まえる役目も負っている。
エヴァン並に気配を消す術を身につけており、秘書業も隠密行動も諜報も戦闘もできる有能従者。
学園では気配を消してこっそりエヴァンの護衛をしている。