8.10 望んでいたもの
サクラはシンタロウに連絡をして、ソフィアと3人でストゥルを捕捉する計画を立てた。ストゥルの少女ンジェアイを捕獲することには成功したが、結果としてソフィアを死なせることになってしまった。ソフィアを生き返らせることもできたが、ソフィアはシンタロウが咄嗟に蓄積データをダンプしたヴィノのままでいいという。
仕事にやる気を失ってしまったソフィアは、エヴァンズ教授に相談して、アールシュが作るエミュレータの移住者第1号に志願していた。やる気を失った理由はスカイラーに振られたからだという。ソフィアはエミュレータの中の先進的な世界に期待することにしたようだった。
インターコネクタの実物を見たソフィアは、どうせエミュレータに移住するなら人間よりもヴィノの方が都合いいでしょといい、ソフィアはヴィノのままでいることを選んだ。そしてソフィアはンジェアイにもヴィノの身体を与えてコールマン家の養子として育てることを決めた。ンジェアイを教育するのにお互いヴィノの方が物事を伝えやすいだろうとも言っていた。ソフィアがンジェアイを見てくれているのならノースの言う管理下に置いているも同然だろう。シンタロウと話をしたのはあれが最後だった。
それから数日後に、ノア・バーンズがシンタロウたちの住むティア3検証リージョンのエミュレータを停止し、UCLー1とのインターコネクタを外してディフェクト跡を修復した。そしてバックアップを取ってデータをヒューに渡した。ヒューは『真実の現実』にデータを持ち帰り、ノースたちが住む惑星にある衛星の一つに新しいエミュレータのハードウェアを設置してデータをリストアした。サクラもアンドロイドと一緒に衛星に移住し、恒星から取得したエネルギーを使って、稼働を再開させたエミュレータを見守りながら暮らすことにした。
ノースたちの住む惑星はすでに地球ですらなかった。そしてその衛星に住む人間はサクラだけだ。サクラはいずれエミュレータから自分のように外に出てくる人間を迎え入れる準備をして過ごした。
結局、自分は人間になれたのだが、シンタロウの一部だった時の方がなぜか人間らしかったと感じる。そういえば、人間になってからいくつか整合性が付かない部分がある。学園でジーネに何か伝えたことがあったがライフログと蓄積データの整合性が取れず思い出せなかった。ノースが言うにはこの先、何年も人間として過ごすことで私固有の人間らしさが芽生えて、そして定着するはずだという。それが本当なら笑い話だ。私とシンタロウがそうまでして手に入れようとしたかったものは最初から私たちは持っていたものだったのだ。『そんなことも知らないの?』と言いシンタロウに得意げに知識を披露する自分を思い出す。いつもシンタロウはそれを黙って聞いてくれた。
それでも、シンタロウと分離した私は、本当にそうだったと言えるのか最後まで確認する必要がある。まだ私とシンタロウが目指したものを手に入れたという確証がないのだ。もし、元々持っていたと思っているものと違ったなら、その時こそ私とシンタロウが望んだものを手に入れられることになる。




