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The Emulator - 旧約 ザ・エミュレータ -  作者: Co.2gbiyek
8. ターンダヴァ&ラースヤ
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8.7 覚悟

 アールシュの反応を見てそれを確信したソフィアは、目を大きく見開くようなジェスチャをし、揺れるように頷いた。それから口をつぐみ、乾いた唇を小さく舐める。そうして覚悟を決めたように喋りだす。


「アールシュ。これで、貸し3つだからな。ポーカーの負け分の支払いがまだだし、私のPAを許可なく使ったのも忘れてない。今回の件も含めてちゃんと貸しを返してよね。」


 そして、ソフィアが続ける。


「ところで、エヴァンズに聞いたんだけど、あんたが検証してるっていう、インターコネクタはどこ? ちょっと見せてくれない?」


 アールシュがソフィアの後方にある、トンネルを指さす。電磁波を発生させるための動力装置がいくつも連なるそれをみてソフィアは怖くなった。トンネルの周囲は水が張られた立方体のキューブで埋められている。


「へぇー。アールシュって放射線技師のライセンスとか持ってんだ。新しいMRIでも作ってるのかな? それとも癌の治療用の装置だったりして? どうして水槽で囲ってあんの? マジで怖いんだけど。」


 黙っているアールシュ。


「ねぇ。ちょっとってば! ウィルコックスの地下で見たみたやつに比べて禍々しさがすっごいじゃん。まじでこれに入るわけ?」


 ソフィアはアールシュを見つめる。


「今日はやけに静かね。まぁいいわ。ちょっとこれ動かしてみていい?」


 アールシュの反応をみて、ソフィアは考えていた。そして、ストゥルは意味を理解していないと判断した。ソフィアはシンタロウとサクラと3人で事前に立てた計画を実行することを決めた。


 サクラの情報だと宿主であるアールシュに怒りの感情を持ったり、彼を責めたりしたらストゥルは私にターゲットを変えるはずだ。緊急性が高ければ分離したコードではなくて本体コードで私のプロセッサに侵入してくるはず。サクラの奴、間違った情報だったらただじゃおかないからな。


 もう外部ブロッカーが持ちそうになかった。ソフィアはトンネルに入り、アールシュに手招きをする。そして、近づいてきたアールシュのネクタイを掴みアールシュの顔面を殴った。人を殴るなんてハイスクールの時以来だった。皮膚を叩く嫌な音が小さく響く。同時に生暖かく、そしてアールシュの硬い頬骨の感覚がソフィアのこぶしに痛みとして伝わる。ソフィアの外部ブロッカーが破られて、次にOS側のブロッカーが作動する。OS側のブロッカーはものの数秒で破られる。アールシュからの干渉が一瞬なくなり、新しい大量のコードがソフィアのプロセッサに侵入する。ストゥルの実行コードに間違いない。ソフィアはトンネルの外側にある扉のボタンを叩いて、トンネルの奥に飛び込む。電磁波を遮断する鉛と密度の高い液体が入った分厚い扉がスライドしてトンネル内が外部と遮断される。低い大きな動力音を伴う電磁波が放射され耳鳴りがする。


「どう? 気分は? あんたがアールシュに侵入していたストゥルだろ? アールシュの思考から外れたらもう言葉が理解できないか? アールシュみたいに簡単にコントロールが取れると思うなよ。」


 ソフィアが声を出して話しかける。音声が聞こえ、ソフィアのPAが翻訳を始める。


「ンジェアイは帰りたい。痛いのは嫌。ここはもうつまらない。」


「ンジェアイってお前の名前か? 痛いってのはアールシュの感覚でお前のじゃないだろ? 良くわかってないな? お前、子供か?」


「ンジェアイは私。私は12歳でもう成人の儀式を終えた大人。あなたはソフィア。蓄積データにいるのはスカイラー。スカイラーはライアンが好き。」


「馬鹿なのかお前? ガキが生意気に勝手に人のデータを見るなよ。よく聞け、お前はもう帰れない。お前がアールシュにいつまでも寄生なんかしてるから、お前の世界とは違う世界まできちゃったんだよ。意味を知りたかったら私の蓄積データをよく見てみな。子供は子供らしく、子供同士でその辺で遊んでりゃよかったのに。」


「子供は嫌い。ミジェイもウィトも子供はみんなつまんないから嫌い。私は子供じゃない。お父さんのところに一緒についていく。ソフィアも同じ。お父さんのところに逃げた。私と同じ。」


「こいつ、また勝手に見やがったな。お前に見ろっていたのはこの世界のことだ。勝手に人の記憶の方をみるなよ。」


 ソフィアは自分が子供の頃を思いだした。『私は子供じゃない』その言葉は私の口癖だった。今聞いたのは私の記憶から取り出した言葉ではない。ンジェアイ自身の記憶と言葉だ。大人びていたから同世代の子になじめなかったのか。本当は逆だったのか。同世代の子供たちと馴染めず、それを大人の振りをすることで隠そうとした。そして、父の経営するレストランに通った。そこで顧客たちがよくしてくれた。だから寂しさを感じずに済んだ。本当は子供たちの仲間に入れてほしかったのだろうか。本当は寂しかったのだろうか。本当は逃げたのだろうか。


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