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The Emulator - 旧約 ザ・エミュレータ -  作者: Co.2gbiyek
8. ターンダヴァ&ラースヤ
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8.3 リーク

 アールシュは、これまでにティア3検証リージョンの外部から得た情報を一般に公開すべきだとエヴァンズ教授に直訴した。ところが、エヴァンズ教授は公表に慎重な姿勢を示した。スカイラーの様子を見ていたエヴァンズ教授は、その事実を受け入れられない人が多くいるのではないかと考えていたからだ。


 エヴァンズ教授の同意が得られず、公表に踏み切れずにいたアールシュは焦っていた。もうすでにシンタロウが戻ってきているという。今はネブラスカの実家に戻っているが、すぐにエヴァンズ教授の下でエミュレータ研究者として活動を始めるだろう。シンタロウは既にアールシュと同等かそれ以上にエミュレーションテクノロジーに精通している。そこにサクラが戻れば、もしかしたら今後は自分ではなく、彼らがエミュレータを推進する役割を担うのではないかと危惧していたのだ。


 ある日、アールシュは旧ネットの『セブンス』というカルト情報チャネルで『鐘の音』や『神の使いの言葉』が仮想現実論に紐づく現象であり、この世界がエミュレータ内で展開されている仮想空間であることを示していると主張する新興宗教団体の記事を見つけた。少し過激で身勝手な空想ではあるが、主張の本論自体はそれほど間違っていなかった。


 もしも、この記事に信憑性が加わればもう少し、世間に広まるはずだ。それはこれまでの事実の一般公開を望むアールシュにとって追い風となる世論を造り出すのではないかと感じた。アールシュの頭にシンタロウがキャプチャしていた音声やデコードデータがよぎる。しかし、もしそんなことをして、エヴァンズ教授の懸念が現実に起きてしまったら取り返しがつかないことになる。アールシュにはノースやサリリサのようなに罪を背負う覚悟が持てなかった。


 ンジェアイはなぜ、アールシュが自分自身の最も大切な感情を満たすための行動を抑制しているか不思議だと感じていた。もしかしたら感情を出すことが恥ずかしいのではないだろうかと思い、前頭葉に干渉することで理性による抑制を緩めてあげた。それは悪意ではなくンジェアイの無邪気さからでた善良な行動だった。


 アールシュは悩んだ末に『セブンス』の管理者宛に『鐘の音』と『神の使いの言葉』がパルス型実行コードであることを立証するために解析した根拠データやシンタロウがキャプチャしていた音声、『神の使いの言葉』のテキストデータ、デコードデータを匿名でリークした。


 それから数日で、旧ネットを発信源とした『神の使いの言葉』とその意訳は爆発的に広まった。『メシミニア』を名乗るその新興宗教団体は発信源として瞬く間に有名になっていった。連日情報チャネルで特集が組まれ、『鐘の音』や『神の使いの言葉』がパルス型のコードであることや『神の使いの言葉』のストリーミングデータとその意訳が何度も流された。意訳では『暁の器』がメシミニアの教祖を指し、『主の羽の一片』が信者を指している。


 そして、最初の事件はその特集が初めて組まれた深夜に発生した。アトランタのハイスクールに通う16歳の少女が自宅で拳銃自殺を図った。少女が自殺した当日、少女は両親とともに情報チャネルにアクセスしメシミニアの特集をVRSで見ていたという。少女は非常にショックを受けていたと言い、その夜は、両親の寝室で娘と共に3人で就寝したという。


 夜中に発砲音で目を覚ました父親が、自室で頭から血を流す娘を発見して通報した。少女が使った拳銃は護身用に自宅の保管庫にあったもので、他に遺書も見つかっていた。遺書には少女が、深夜に旧ネットで情報を得たことが記されており、エミュレータから出る方法を試してみなければならない、そしてそこに本当の自分がいるはずだ、などと書かれていたという。私立のハイスクールに通う少女は運動部に通い、活発で優秀な成績だった。また両親と仲が良く、特別変わった思想もなかったという。


 その事件を皮切りに、全国でエミュレータの外側に出ることを目的とした自殺が多発した。また心労や無気力で起き上がることも食事をとることもできない症状を発症するものが増加した。中には食事はおろか水分をとることも出来ずに栄養失調や脱水症状で命を落とすものもいた。


 事件が起きる度に、不安を抱く必要はないと説いてまわるメシミニアの映像が情報チャネルで取り上げられた。そして、メシミニアは、世界の理を知ればこれまでよりも豊かに暮らすことができると説く。光沢があるゆったりとした純白の祭服を着て、各自が紫や赤や緑の帯状のストラをまとった集団が祈りを捧げる姿の映像が流れる。


 その映像の最後に彼らの教祖がアップになり、『我々にまずコンタクトを取ってほしい。我々はあなたを救うことが出来る』そう訴え、終わるのだった。このタイミングで流れたメシミニアのオカルトめいた印象深いメッセージ映像が人々の心に響いた。メシミニアの話を聞きこうとオレゴンに拠点を置く、メシミニアの元に多くの人が足を運んだ。


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