8.2 ンジェアイ
成人を迎えたンジェアイは曾祖母から受け継いだプロセッサが機能するようになったばかりだった。ストゥルのプロセッサは何世代にも渡り繰り返し利用されることで、プロセッサごとに独自のコードを持つようになっていた。また、ストゥルは独自に進化した声帯でいくつかの高周波帯と低周波帯を使い分け、プロセッサと連動させることでパルス型のコードを生成することが出来る。
扱えるコードはストゥルの親族ごとに異なった。そのため、別の親族と婚姻するごとにストゥルの持つプロセッサとパルス型コードの組み合わせのバリエーションが増し、人類のプロセッサとはまるで別物のような機能を持つようになっていった。
ンジェアイのプロセッサは他者のリソースを使って自身の意識を他者の中に生成することが出来る。それは、元々はそのプロセッサを持つものが他者を知るためのコミュニケーション手段だった。寄生した意識をもう一度自身に還元することで、他者を理解することが出来た。
ンジェアイは、最初は動物にコードを仕掛けて動物の意識を認識して遊んでいた。だが、興味深かったのはプロセッサを持つアンドロイドだった。ンジェアイは初めて見るアンドロイドに興味を惹かれ、近づいてはいけないという言い伝えを無視した。物資を輸送するためにルート走行していたアンドロイドを見つけて、プロセッサに干渉した。アンドロイドのプロセッサのスタック領域でンジェアイのパルス型のコードが実行されるとアンドロイドのリソースに寄生する形でンジェアイの意識のコピーが生成された。
ンジェアイがアンドロイドの蓄積データをシークしていくと、いくつかの興味深い感情のソースとなる圧縮データとそのデータ保管形式を見つけた。見つけたデータと生成した意識のデータをアンドロイドが利用している衛星に送り、ンジェアイがデータをフックして受信すると、パルス型のコードが生成したンジェアイのコピーの体験を本体のンジェアイが追体験することが出来た。ンジェアイはアンドロイドからコピーした蓄積データを取り込み、これまでにストゥルが持ったことがない感情を呼び起こして遊んでいた。
ンジェアイは、成人の儀式のため、しばらく滞在していた神聖なこの土地で巨大なガラスの城を見つけた。ンジェアイが探索していると扉から出てくるアンドロイドと人間を見つけた。ここは人間の巣だ。ンジェアイは初めて見る人間に警戒しながらも同時に人間が衛星とリンクを始める前にパルス型のコードを侵入させることに成功する。蓄積データをシークし、人間の名前がアールシュだと知った。
人間はアンドロイドとは比較にならないほど興味深い蓄積データを持っていた。ンジェアイは時間を忘れて夢中になって深層部分の蓄積データをシークした。そして、突然アールシュがインプットデータに反応して、ンジェアイが見たこともないような大きな感情を見た。自分が間違っていない、エミュレータの普及、使命、イレギュラー、シンタロウとサクラがいなければ。ンジェアイが知らない感情に包まれて、それを体感しているうちに、アールシュはンジェアイの知らない場所に移動していた。
小さな部屋で横になる男性と女性が見える。アールシュのインプットデータからそれがシンタロウとサクラだということが分かった。アールシュのプロセッサを経由してシンタロウとサクラのプロセッサに干渉する。どちらにも全く同じようにお互いを思い合うとても心地の良い温かい感情があった。
これ以上、コードを分散して増やすと容量が保てなくなる。シンタロウとサクラのプロセッサから分散したコードと、さっき見つけたばかりの、温かい感情を蓄積データから引き上げてアールシュ上のンジェアイのコードに統合した。




