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7.6 使命

「アールシュ、君がエミュレータに『ヴィシュヌ』と名付けたんだろう? 元はと言えばエミュレータは私たちが作ったんだ。残っている『4人』ともそれぞれエミュレータの開発に関りが深い。そして私は、私が期待する地球史を創造しようと考えている。これが偶然だと思うか?」


 アールシュはノースの言葉の意味を察した。


「あなたたちが『ブラフマ』だとでも? なぜわざわざ私のルーツに合わせるのですか?」


 ヴィシュヌは『世界を維持する神』であり、唯一の神聖な存在が持つ『3つの様相』の内の1つだった。『ブラフマ』も同じく、そのうちの1つだ。そして、ブラフマは『創造神』のことであり、ブラフマは『チャトゥラーナナ(4つの顔を持つ者)』だ。4つの顔は各方角を指し、あの男は自らを『ノース』と名乗っている。


「アールシュ、君に話したことが事実だ。エミュレータ内の人類の中には、まれに人を超えた存在が現れる。世界の外側を知る存在だ。そして、その人ならざる者が知ってしまった外側の世界について、周囲に説いて聞かせた。それを君たちがどう解釈しているかに過ぎない。私が合わせているのではない。君はサリリサの世界にあるENAUのリージョンで何が起こっていたのかを調べて知っているんだろ? 彼が『トリムルティ』の最後の柱だとしたらどうだ。私の言っていることの意味も、君が何をすべきかも、分かるのではないか?」


 アールシュはENAUのことを知っていた。『真実の現実』に来る前にUCL研究所でENAUのエミュレータで起きた『あの日』以降の記録について文献を読んでいたからだ。ENAUのエミュレータで『あの日』を引き起こしたのはアールシュと同じ南アジアの大国の移住3世のエミュレータ研究者だ。彼が『あの日』以降、ジャーナル・レコードの解析を行い、この世界がエミュレータの中にあることを世間に公表し、エミュレータの有用性を説き、エミュレータへの移住を先導した。そして、そこにはシンタロウやサクラは存在しなかった。彼は私だ。ヴィシュヌと命名したのは誰でもないこの私だ。私には彼と同じことをしなければならないという使命がある。


 ノースの言う、『トリムルティ』は神聖な存在の『3つの様相』のことだ。3つの様相とは、つまりヴィシュヌ、ブラフマ、そして『シヴァ』のことだ。最後の柱とはシヴァを指し、シヴァは『破壊と再生』を司る。『あの日』がこれまで現実だと思っていた私たちの世界の価値観を破壊した。世界に希望を持てずに、困惑して、怯えている。スカイラーを見れば分かる。だから私は、エミュレータへ移住するテクノロジーを得て、その有用性を体感させることで、破壊されてしまった私たちの世界の価値観を再生しなければならない。


「アールシュ。君にはまだやることがあるのだろう? そして君にはその資格がある。ちょうどここへ来るときに君を後押しする味方も出来たようだしな。やはり君たちが特別であることは間違いないということだろうね。」


 アールシュにはもうノースの言葉は聞こえていなかった。アールシュは、自分自身がこれまでエミュレータに対して思い描いてきたことに、何一つ間違えはなかったのだと確信した。早く戻ってエミュレータ開発を続けなければならない。そして『あの日』の意味を世間に公表し、同時にエミュレータの有用性を説き、未来を先導するのは自分しかいないのだと確信した。


 ノースは、アールシュを送るようにヒューに目くばせをする。ヒューはノースの意図を汲みとり、階段の下で頭を下げたまま、アールシュが向かってくるのを待っている。


 アールシュはエクスチェンジを通り、ティア2現実で起き上がる。小部屋にはまだサリリサとシンタロウ、サクラが寝ている。シンタロウとサクラを見た時、一瞬視界とプロセッサのリンクが途切れたような気がしてアールシュは意識を確かめるように首を振り、目を抑えた。初めてエクスチェンジを逆側に移動したからだろうか。


 扉を出るとティア3検証リージョンの地下に掘ったディフェクトの前にいた。ヒューが説明してくれた通り、すでに一度通過した同じ階層であるティア3住居リージョンはバイパスすることができたようだ。


 アールシュはディフェクトのフェンスを内側から開ける。物音に気が付いて、コンテナの仮設事務所から出てきた、ジェフの部下がアールシュを見て驚きながら出迎えてくれた。その後、ウィルコックスのDC建設現場にいたジェフと再会し、彼がアールシュをメサの研究室まで送ってくれた。


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