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6.11 2度目のエクスチェンジ

 翌日、シンタロウとサクラは中層階の中庭を散歩したり、展望フロアからシアトルの街を眺めたりして午前中を過ごした。サクラが気に入っているトラディショナル料理のレストランで朝食と昼食をとった。そして、昼過ぎにアールシュと合流した。アールシュはエミュレータ史やジャーナル・レコードからサルベージされたテクノロジーに関する文献をずっと読んでいたようだ。それらは外部データとしてコピーはできるが、前提となる蓄積データが少なすぎてアールシュにはインストールできなかったという。


 サリリサとの待ち合わせは14時30分だった。時間よりも30分も早く到着したサリリサは、昨日と同じようにフォーマルなスタイルで現れた。UCL研究所のフロアではアールシュには理解できないファッションの人々もよく見かけたが、サリリサのファッションは理解できるものだった。アールシュはエミュレータ史を読んでいたので、ティア2現実ではティア3住居リージョンの文化やファッションを輸入しているということを知っていた。


「少し早いけど行きましょう。」


 サリリサはそう言って、アールシュたちをUCL研究所内のエクスチェンジが設置された部屋へと案内した。ティア2現実が用意したティア1との接続用エクスチェンジは人が一人通過できる程度の広さで、長さが10フィートくらいのトンネル状のものだった。トンネル内部には電磁波を放射している。エネルギー量が非常に高く、波長の短い電磁波を重ねることでディフェクトを模倣しているようだった。そこにティア1がエクスチェンジをアタッチしたのだろう。


 人体に影響がないのかサリリサに確認すると首を振る。アールシュが考えている通り、これだけ大規模な装置で発生させた極限まで短い波長の電磁波が人体に無害なはずがない。当然、致死量の放射線を浴びることになる。ティア1側からエクスチェンジがアタッチされていれば、ティア2現実に出る時に通ったエクスチェンジと同じように通過できるというのだろうか。


 サリリサは躊躇なくトンネルに入り、電磁波の中心に向かって歩き出す。それにシンタロウとサクラが続いた。アールシュも『まだ私は仮想空間の中にいるのだ』と覚悟を決めて中に入る。

 大量の放射能を浴びていると考えると嫌な想像をしてしまう。体の感覚を徐々に失いながらトンネルの中を通り、気が付くとアールシュは小さな部屋で横になっていた。


「お待ちしておりました。使いのヒューと申します。一度こちらへどうぞ。」


 部屋のドアを開けると、柔らかい物腰と丁寧な口調の初老の男性が中央の部屋で待っていた。これまでに通ってきたインターコネクタやエクスチェンジと変わったところはなく、同じことが起こっているのだと認識した。気が付いた時にはすでにティア2現実のフィジカルを失っているはずだ。ここはティア2とティア1の中間で、まだアールシュの思考はティア2現実側の演算装置で処理されている。もう一度、一瞬気を失うことで蓄積データがダンプされ、ティア1側のフィジカルへ処理が移されるはずだ。『コーディネータ』であるヒューが示したタイミングでもう一度それぞれの部屋に入り、ベッドに横になると一瞬気を失いすぐに目を覚ました。


 『真実の現実』ではマテリアルへの投射ではなく本物のフィジカルが必要だった。それはティア2現実に出た時と変わらないはずだ。しかし、『真実の現実』へ出る際には蓄積データの情報そのものだけではなく情報の記録フォーマットごとダンプされる。アールシュたちの蓄積データを保管しているフォーマットと『真実の現実』に存在するフィジカルが持つフォーマットは大きく異なるため形式の変換ができない。


 記憶フォーマットが肉体側に定着するのに時間がかかる。そして、肉体側に用意された身体の制御など原始的な反応とその記憶を蓄積データ側の深層記憶層にインストールされ、定着するまでさらに時間が必要だった。アールシュたちはフィジカルと蓄積データが定着するまで28時間ほど眠った。


「慣れるまでしばらく横になったままでいて下さい。」


 アールシュが目を覚ますと部屋の扉越しにヒューが声をかけてくれた。体が思うように動かない。力の入れ方が分からなかった。軽く腕を曲げるつもりが、力を入れすぎて自分の胸を強く叩いてしまい咳き込んだ。もう一度慎重に腕を曲げるが、今度は入れた力が弱すぎて、手のひらが震えるだけで腕が動かない。何度やっても自分の体のコントロールが定まらなかった。よく見ると指先が震えて止められない。そのうち指先どころか全身が震えて焦点も定まらなかった。


 アールシュは諦めて目を閉じる。不思議な感覚だった。とても小さいのに無限に広がっているとも思えるような不思議な感覚。身体を動かすことが出来ない。金縛り。対外離脱の症状だと認識した途端、そこで意識が途切れてしまった。


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