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6.6 キャンディデイト

 シンタロウから生成されたヴィノの方も不可解な履歴があった。そのヴィノはティア3住居リージョンにリリースされたエミュレータの新機能『ワールドセット』が一般公開された際のクリア報酬を得て、人間になることを要求したという。エミュレータ運営の保全コードが働いてリジェクトされているがバリデーション結果は正常を示している。つまりはこのヴィノは人間として変換移行が可能だということだ。


 このヴィノの名前はサクラという。変換移行が可能という根拠は、ワールドセットの報酬支払用のAIが検証した結果だ。人間にしてほしいというサクラの望みの有効性をチェックするために、ティア3住居リージョンからティア2現実に移行すると仮定を置き、ヴィノから人間に変換移行が可能かどうかの検証をかけた結果だ。そんなことが可能なのだろうか。それは私の達成しなければならない目標の一つでもあり、これまで私がどれだけその実験を繰り返し、失敗してきたことか。これも偶然だというのだろうか。やはりこのサクラというヴィノも特別だと考えた方がいいだろう。


 今のテクノロジーは人間をエミュレーション上で表現することもヴィノを生み出すこともできるが、ヴィノを人間に変換することはできなかった。少なくとも私が研究してきた限りでは実現方法がなかった。


 短絡的だが経緯から推察すればサクラはシンタロウの解離性同一障害の1人格ということなのかもしれない。しかし、それがヴィノから人間に変換できる根拠にはならないし、複数の人格をPAに割り当てられる理由にもならない。すでにティア2では解離性同一障害が発生する理学的作用が解明され、1つの人格に統合する治療法が確立している。そして、その研究の過程で人格とPAの関係性も実験により明らかにされている。


 通常はプロセッサもPAも解離性同一障害の別の人格間で共用して使うことはできない。単純に他人用のプロセッサもPAも動作しないと同じ理由だ。また、各人格にそれぞれ固有のプロセッサとPAを割り当てればよいということでもなかった。それぞれが別のプロセッサとPAにリンクすれば、拠り所となる自我を保つことができずに融解した人格の破片だけになってしまうことは実証済みだった。そして、まれに解離性同一障害の別の人格間で共用して使うことが出来るケースもあったが、その場合も同じことが起こってしまった。


 その教訓を生かして、今では複数のプロセッサの導入やゲストモード以外の共通利用、そしてPAの並行稼働はプロセッサの禁則コードにもなっている。そもそも成人した人間が障害を治療せずに複数人格を持ったまま生活していることはまれだが。


 全くの仮説ではあるが、もしもシンタロウの別人格がサクラで、サクラがシンタロウとは別のPAを使いこなしていて、さらにそのPAと蓄積データを基にサクラをヴィノに移植したということであるならば、私たちの研究が見逃していたパターンが存在することになる。これもティア3検証リージョンの『あの日』と同じように私たちが知らない事象だ。


 そして、ティア1の住人が『彼ら』と表現したのは明確な意味を持っている。これまで集めた文献ではティア1の住人はヴィノと人間を明確に区別している。もしも、ヴィノとしてのサクラを含むのならば『彼とAI』あるいは『彼とバイオロイド』のように区別した言い方をするはずだ。もし候補にサクラが入っているとすれば、ティア1の住人はサクラを人間と認識しているということだ。その他にティア3検証リージョンから来た人物に特殊な点は見当たらない。アールシュ、シンタロウ、サクラの3人の内、誰かがティア1の住人が言う『暁の器』と『羽』の候補だろう。


 これ以上のことはティア1の住人の目的を知らない私には分かりえないことだ。そして、私にとってはそれが誰だとしても何も変わらないし同じことだ。サリリサはノア・バーンズに連絡し、3人を連れてエクスチェンジを通過するように伝えた。


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