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6.3 ティア2現実

 ティア2現実では一般階級の子供は全員、企業体が運営する教育機関で育てられる。衣食住は企業体から提供され、地域差や経済的、文化的な差が子供の育成に影響を及ぼさないように管理されている。両親や親族の価値基準が子供本人の価値基準として内在化し、自我を形成するのを避けるため、子供と肉親が生活を共にすることが許可されなかった。


 ティア2現実では両親は生後一日だけわが子と過ごすことができる。それが両親と幼少期の子供の記憶の全てだった。子供が両親や他の肉親に会うことができるようになるのは、教育機関により個人の価値基準が整理されたと判定されてからだった。判定後は企業体と両親から自身の行うことが出来るすべての決定権が返還される。それ以降、個人の意思はルールに背かない限り、最大限尊重されるようになる。つまりそれは成人として認められたことを意味する。それまでにかかる期間は個人により異なるが、生まれてからおおよそ16年が経過する頃が一つの目安だった。


 教育機関により、子供たちは各自が持つ遺伝子と現在の能力によって選別され、自分に見合った学習プログラムを受けることになる。選別は頻繁に行われ、その都度学習プログラムが修正される。システムのルールにより両親は子供を企業体へ託さなければならず、一般階級がこれに背くことはできない。


 このシステムの運用が開始されたことによって裕福な一般階級の家庭は、私財を使って自分の子供にだけ特別な教育を受けさせることが出来なくなり、経済的な成功だけでは一般階級から特権階級に入り込むことが困難になった。一般階級の家庭では、両親と子供は離れて暮らすことができず、実体験を元にした家訓を継承させることもできない。システムが運用される以前は、両親や祖父母と子供が生活を共にすることで、何気ない会話や両親が繰り返す言動から家系が代々受け継いできた価値基準を子供が理解し、それを子供自身の価値基準として取り込むことが出来た。しかしこのシステム下ではそれも叶わなかった。


 そして、それとは逆に、子供たちは貧しさで常に何かに気を取られることからも解放された。経済力がなければ常に何かに気を取られ、時間を費やされてしまう。それこそ次の食事の心配をする必要もなければ、誰かが自分の知らない何かを所有していることに興味を示したり、自分もそれが欲しいのだと錯覚したりする必要もなくなった。そして、錯覚した物欲を満たすために自分自身の学習時間を削り、労働に充てるという効率の悪い換金行為の必要もなくなった。企業体は全ての子供たちに誰にも差をつけることなく必要なものを提供した。


 このシステムにより、経済力を使って能力を助長させることは上位階級にだけ許された特権となった。一般階級にそれをさせるのは無意味な偏りを生みだすだけだ。行政管理上の害悪でしかない。上位階級の人間はそう考え、このシステムを導入した。システムは効果的に機能し続けている。幼少期から個別の家系ごとに価値基準を形成する時代は数世紀も前に終わり、今ではそれは文献上の過去の風習でしかなくなっていた。


 ティア3検証リージョンやティア3住居リージョンは共通の地球史からの分岐であり、17世紀まで全く同じ世界だ。しかし、ティア2はそれとは別のオリジナルの地球史を持つ。ティア2現実はティア3住居リージョンを生み出す時、並列実行させたエミュレータから自分たちの地球史にできるだけ近い世界を選定した。それでも人間が持つ感覚では文化的に大きな隔たりがある。特に、ティア3住居リージョンでは経済力が個人の能力として機能していることが人間の能力の形成に悪影響を及ぼしていた。少なくともティア2の人々からはそう見えた。


 ティア3では遺伝子の優劣とその発現状況に見合わない教育やトレーニングを行っている。例えば、ある分野の才能がまるでない人間がその分野に特化され、洗練された特別な教育を受けている。そして、過剰なレクチャーにより、本来トレーニングで習得するはずの能力が獲得されていないなど、理論的に説明がつかない非効率で効果の薄い育成が散見された。


 そのためティア2現実から見れば、ティア3の人間は総じて能力が低かった。無知さや悪気のないその無邪気さは時折、ティア3ならではの興味深い文化や芸術的な感情の機微を表現することもあったが、往々にしてティア2の人間を苛立たせる原因となっていた。


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