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The Emulator - 旧約 ザ・エミュレータ -  作者: Co.2gbiyek
5. グローヴ財団記念学園
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5.14 決意

 翌朝、食堂がオープンする時間からシンタロウは噴水付近の席でサクラが来るのを待っていた。7時くらいにサクラとジーネが来るのが見えるとシンタロウは覚悟を決めたように一つ大きく息を吸い込みサクラに手を振った。サクラはシンタロウに気が付くと一瞬で緊張して体温が上がったように感じてインジケータを見るが変化はなかった。ジーネに背中を押されてサクラはシンタロウと向かい合う。


「おはよ、サクラ。あのさ、昨日はごめん。」


 シンタロウは小さな声でそう言うだけだった。サクラを見た瞬間、真っ白になってしまった。昨日の夜に言おうと用意しておいた言葉や考えていたことが一つも出てこなくなってしまった。サクラはシンタロウの言葉を聞くと同時にASIC経由でうれしさと恥じらいの信号を受け、インジゲータがそれを示すのを見た。


 サクラはその信号をローカルスタックに取り出しゆっくりとその意味を認識していたのであまりうまく反応できずにうつむいて小さく『うん、いいよ』と返すだけで精いっぱいだった。


 それを後ろから見ていたジーネは、最初は笑うのを我慢して口元を抑えていたが、耐えられなくなって笑いだしてしまった。いつもの席に座っていたカミラはジーネが笑うのを見て、その意味を理解して嬉しくなり自分も笑いだしてしまう。カミラの隣にいたクレトや、サクラと一緒に食堂に来たゲイミーとロドルは二人の反応の意味が解らずに困っている。


 珍しく混合席に座って食事をしていたソフィアはそれを横目で見ながら『もっと他に言うことあるだろ。ほんと、ただのガキじゃん。』とつまらなそうにつぶやき、ネフィと別の話を始めてしまった。カミラたちの席で食事をしていたグエンは二皿目のサンドウィッチを誰に持ってきてもらったらいやな顔をされないか、周りを見渡して見極めようとしている。


 それからサクラたちは一般公開されていた2週間のトライアル期間内に地下30階のターゲットモンスター『デュラハン』の討伐に成功し、先着100チーム限定のクリア報酬を手に入れた。


 クリア報酬は告知の通り任意のオブジェクトの実体化権をもらうことができる。セラト家のヴィノたちはサクラに権利を譲ってくれたが、サクラが要求した人間のフィジカルはエミュレータ運営によりリジェクトされた。サクラがリジェクト理由をエミュレータ運営に聞いたが管轄外という返答だけだった。そのため、ルールとしてダメなのか、そもそも技術的に不可能なのか詳細までは分からなかった。


 結局、報酬はゲイミーが独自に考えていた固有魔法に変換された。ゲームを介していつの間にかゲイミーと仲良くなっていたクレトは、固有魔法の使い勝手や性能データをゲイミーに会うたびに見せてもらっては何度も羨ましいなと独り言のようにつぶやいていた。


 ジーネはシンタロウに『けしかけるようなことしてごめんね』といい、シンタロウと和解した。シンタロウにとってはジーネのおかげで自分の気持ちを知ることができたのでジーネに対して怒りを覚えたことを恥ずかしく思っていた。それからはジーネと仲良くなり話をするようになり、今日の夕食の際にジーネからクリア報酬のいきさつを聞いた。


 シンタロウは自室のベッドの上でついさっきジーネから聞いたことを思い出していた。サクラがまだ人間になりたいと願っているのだと知り安心した。そして同時にシンタロウがその願いを叶えるという目標がなくならなかったことにも安堵していた。今までずっと二人で考えていたこと。俺とサクラのためにやらないといけないことがまだ残っている。


 シンタロウはベッドから起き上がって窓の外に広がる夜の森やまだ明るい光が灯る食堂を眺めた。5階にあるシンタロウの部屋からは食堂を眼下に見下ろすことが出来た。ステンドグラスがはめられた天井がシャンデリアの光で鮮やかに輝いているのを見つめる。


 あの朝、ステンドグラスの下でサクラに伝えようとしたことをまだ伝えられていないままだった。シンタロウはいつ伝えようか考えていたが、一番いいタイミングはサクラが人間になった時だと決めた。そう遠くないうちにその日が来るという予感があったからだ。サクラが人間になった時にあの朝、言えなかった気持ちを伝えようと決意した。


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