4.9 インターメディエイト
気が付くと小さな白い部屋のベッドで寝ていた。ベッドとサイドテーブルがあるだけのとても小さな部屋だった。起き上がると少しめまいがしてよろけたような気がしたが違和感が残る。これまで感じたことがない、少し感覚がずれるような違和感。少し歩くと違和感は治まった。
小さな部屋を出るとそこは広いリビングのような部屋だった。ソファーとテーブルが並んだモデルルームのような生活感のないリビング。そこの一つのソファーに白いシャツに短パンを着てサンダルを履いたスキンヘッドの恰幅のいい中年男が座っており、こちらに気が付くと声を掛けられる。
「やあ、アールシュ。ノア・バーンズだ。」
アールシュは手をあげて挨拶する。なるほど彼が自ら迎えに来てくれたのか。
「久しぶりにエミュレータに入ったよ。なかなか出入りする機会がないんだよな。管理者の僕でもまだ3回目だ。とりあえず全員がここに来て落ち着いてからUCLー1側に移行しようか。」
この部屋は検証リージョンと住居リージョンの境目の『インターメディエイト』と表現される場所だった。すでに私たちはティア3検証リージョンのフィジカルとは離れた蓄積データだけの存在になっているのだという。
「その前に、まずはポインタで移行する2人のスキンを選ぼう。2人がポインタであることは向こう側でも伝えていいよ。人間よりも動物の方が違和感がないかな。今の流行りはこういうのらしいんだよ。」
ノア・バーンズはそういうと茶トラのマンチカンと、小さな黒いプードルをモニターに出し、サクラから受け取った試験管からピンセットで取り出した脱脂綿をハンドデバイスでスキャンし始めた。非接触のカメラ型デバイススキャンだけで遺伝子パターンの解析ができるというのだろうか。アールシュにはどのレベルの解析なのか分からなかったが、ものの数秒で解析が完了した。そして、グエンは小さな黒いプードル、チューは茶トラのマンチカンのスキンがあてがわれた。
「君たちはそのままでいいでしょ? あ、でも君は学生にはちょっと難しいか。」
そういってノア・バーンズは部屋から出てきたソフィアを見た。
「は? どういう意味だよ?」
貶されたと認識したソフィアがノア・バーンズを睨む。
「まあ、いい感じにしとくから心配すんなって。」
そういってノア・バーンズはのけぞるように大げさに笑った。そして、全員にリビングから出て、寝ていた部屋に戻るように伝え、小部屋で各自横になるように指示した。ベッドにあおむけになると一瞬気を失うような錯覚に陥り、すぐに意識が戻った。
「気が付いたかい?」
ノア・バーンズが声をかける。全員が部屋から出てきたのを見回して言う。グエンとチューもポインタの身体を得て動けるようになっていた。
「大丈夫そうだね。じゃあ行こう」
そう言ってノア・バーンズがドアを開ける。
ソフィアは身体に少し違和感があった。少し体が軽い気がする。そう思いながら何気なく部屋にあった鏡を見ると、そこにはシンタロウやサクラと同年代の頃の少女に戻っている自分がいた。
「おい、これほんとかよ。私も子供になってんじゃん。」
そう言ってソフィアは鏡の前で髪をかき上げたり、後姿を確認したり、自分をまじまじと眺めたりした。
「私ってこんな感じだっけ。なんか懐かしい気がしていた。まぁ悪い気はしないかな。」
早く出ましょうとソフィアを見に来たスカイラーと目が合う。スカイラーがふーんといい、ソフィアの全身を見る。ソフィアは少し恥ずかしい気がしてうつむくとスカイラーはソフィアの髪を撫でてくれた。スカイラーの腰に腕をまわしソフィアが甘えた声で聴く。
「どうかな?」
「うん、これもいいわね。こういう感じだったんだ? 生意気そうなところはそのままなのね。」
少し間をおいてスカイラーが言う
「ねぇ、ソフィーが学園に行く前に少し2人の時間もらおうか?」
ソフィアはスカイラーが何を言いたいのか理解し、うれしくなってスカイラーに抱きついた。スカイラーはソフィアをなだめるように頬にキスをして二人は最後に部屋を出た。




