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4.7 アサイン

 ノア・バーンズはエミュレータのマニュアル通りに対応し、エミュレータ内の住人との初回コンタクトを終えた。彼らの知りたいことを包み隠さず話し、そして要望に応えた。検証リージョンの住人に対して住居予定のリージョンとのネゴシエーション用のコンタクトマニュアルを使ったのはエミュレータ事業責任者であるサリリサからの直接の指示だった。


 ノア・バーンズは次に検証リージョンからのアクセス経路を検討した。エミュレータ間を接続するデータ通信ハブを『インターコネクタ』と呼ぶ。そして、エミュレータと現実世界は『エクスチェンジ』と呼ばれる装置を介して行き来が出来る。ノア・バーンズは自ら直接確認したが、仕様書の通り検証リージョンから直接ティア2現実にアクセスするエクスチェンジはなかった。稼働後のエミュレータにエクスチェンジを後から増設することは相応のコストと時間がかかる。サリリサの要求は『早急に』ということだったので、すでにエクスチェンジが構築されている住居リージョンと検証リージョンを結ぶインターコネクタを構築することにした。


 ティア2現実にもUCLが存在する。しかし名前の由来は成り立ちは逆だ。元々ティア2現実が作ったエミュレータである『ティア3住居リージョン』内にUCLが組織された。そして、彼らが理解しやすいようにティア2現実に存在していた統治組織をUCLという名前に変えたのだ。『ティア3住居リージョン』の人間たちにティア2現実の人間を受け入れてもらえるように考慮した結果だ。そうした理由は、ティア3住居リージョンにティア2現実の人間たちが移住することが目的だったからだ。


 ノア・バーンズは早速インターコネクタの構築作業に取り掛かった。まず、検証エミュレータと最も近いハードウェアのリビジョンを利用している住居リージョンを探した。選定された住居リージョンはUCLー1だった。UCLー1はティア2現実が初めて作成した住居リージョンで21世紀中に初期移住が始まった。次いでENAUと中革連がそれぞれエミュレータの運用開始を発表した。また正式な組織間交流を持たない第4勢力である2つの経済組織体もエミュレータを保持しているというメッセージをネット上で発信していた。


 UCLー1には元々予備のインターコネクタ接続ポイントが用意されているが、検証リージョンには外部と接続可能なインターコネクタを設置するための接続ポイントが用意されていない。設置するためには観測ビューの一部を取り壊す必要があるが、その行為はエミュレータの整合性を崩しかねない危険な作業だった。


 そこでノア・バーンズはアールシュたちが見つけたという観測ビューの欠損を使うことにした。欠損部分を調べてみたが幸いにも論理破損のみであり、マテリアル自体の交換は必要がなかった。物理的な交換でなければすぐに対応が可能だ。破損したブロック部分にインターコネクタ用のブロックをローデータごとダンプして入れ替えを行う。インターコネクタの接続方式はコピー&ステイとした。検証リージョン側の対象オブジェクトをUCLー1側にコピーして正常に完了出来た後も、検証リージョン側のオブジェクトを残しておくことにする。


 インターコネクタの接続方式はコピー&ドロップの方が一般的だが、サリリサから彼らのデータについてロストはおろか、データ欠損さえも一切許されないと条件を付けられている。ノア・バーンズは8人まで通過できるパフォーマンスを持つインターコネクタを検証リージョンに生成し、UCLー1側のインターコネクタにアタッチした。


 ノア・バーンズからアクセスが可能となったと連絡を受けたアールシュはメサの研究室に、ヴィシュヌプロジェクトへのアサイン稼働割合が高いメンバーを集めた。これまでの経緯とティア2と呼ばれるこの世界の外部に行くために一度別のエミュレータを通る必要があることを伝える。8人まで通過できるということだったのでこの枠いっぱいまでプロジェクトのメンバーを連れていきたいとアールシュは希望した。


「『あの日』からずっと理解できないことばかりだが、こればっかりはマジで理解できない。戻ってこられる保証もないし、すまないが俺は行けない。」


 DC建設責任者であるジェフ・ニールは早々に辞退を申し出た。ポインタを経由してVRSで接続することもできると伝えたがジェフは断固として拒否した。


 NYとマイアミのエッジオフィスから接続しているチュー・チャン・フォンとグエン・ティエン・ダットの二人はUCLで新人研修を終えたばかりの新卒のエミュレータ研究者だ。ほとんど何も聞かされないまま呼び出された2人はしばらく当然事態が呑み込めずにいたが、状況を理解すると声が弾んでいるのが分かるほど興奮してた。二人とも即答で参加に同意した。アールシュは危険が少ないVRS経由のポインタであることを条件に2人を参加させることにした。


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