4.3 ジャーナル・レコード
チチェン・イッツァはカンクンからチャーターしたビークルで120マイルほどの位置にある。チチェン・イッツァとはマヤ語で『聖なる泉のほとりの水の魔法使い』を意味する。一般の観光客に混じってエル・カスティーヨと呼ばれる80フィートほどのピラミッドを見物して、そばの球技場に向かう途中にあるツォンパントリと呼ばれる壇を見物した。ツォンパントリはアステカ族の言葉『髑髏の壁』を意味する。その言葉通り髑髏が刻まれた石板の壁だ。
サクラは完全に観光客と同じように見物しているだけだった。シンタロウがしゃがみこんでそれを見ているので、もしかして本当はただ興味があって見物しに来ただけなんじゃないのかとソフィアは少し不安になった。それからセノーテ・サグラドと呼ばれる緑色に濁った泉を見物してカンクンに戻った。車の中でシンタロウが3人分のフェニックス行きのチケットを購入していた。
「おい、シンタロウ。うそだろ? これで目的は達成したのかよ? お前の趣味の観光だったとしてももう少し見るものはあるだろ。いくらなんでも帰るのが早すぎないか?」
それまでずっと黙って観察をしていたソフィアだったが、とうとう我慢できなくなりシンタロウに疑問をぶつけた。そうするとシンタロウはジーンズのポケットから握りこぶしに収まる程度の一つの石を取り出した。よく見るとその石は複数の層が積み重なって1つの石になっている。各層を隔てる部分に光が反射して見える。何らかの鉱石を含んでいるのだろうか。
「ツォンパントリで崩れた壁の奥に落ちていたのを見つけたんだ。先頭部分をスキャンして読み出し可能なデータの記憶媒体だっていうことは確認できている。圧縮されているのか、暗号化されているのか分かんないけど、意味を抽出するためには結構な規模のリソースが必要だと思う。アールシュに手配してもらえるよね? 解析はソフィアにお願いしてもいい? 多分俺よりも得意な分野でしょ?」
ソフィアはそれを聞いて拍子抜けした。また『あの日』みたいなことが起こるのではないかと思っていたからだ。今回は気絶なんかさせられてたまるかと色々と対策を講じてきたのにこんな簡単に『ジャーナル・レコード』を手に入れることができるなんて想定もしていなかった。ソフィアは外部拡張グラス越しにシンタロウの持つ複数層を持つ鉱石をスキャンする。確かに何らかのデータのようだが、この形式のデータは初めて見るものだった。見たところ暗号化されているのか圧縮されているのかも分からなかった。
「これをハックしてみろってこと? 私に言ってんのそれ? ふーん、なるほどね。お子様にしては私のことよく分かってんじゃん。」
実践だったら、こいつらよりも私の方が断然場数を踏んでいる。ソフィアはオリジナルのOSとPAを持つシンタロウに挑発されたように感じて対抗心を燃やしていた。ソフィアは帰りの航空機の中でずっとジャーナル・レコードを解析していた。自分のリソースだけでは足りずにサクラのリソースをシェアさせてアナライズプランを練っているようだった。




