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3.8 3つの条件

 

「どうしてそこまでするんだ。あの公開コードにほんのワンライナーのコメントがあっただけだろう。たったあれだけの解説を読んでプロセッサ用のOSコードに落とし込むなんて馬鹿げている。どれだけ時間をかけたんだ?」


 アールシュはあきれたが、純粋にその意味を知りたかった。


「サクラは最初の友達で俺のことを何でも知っている。サクラがいなかったらと思うとぞっとするよ。だってそうだろ? 3歳でプロセッサを入れたからブルーカラーの両親を無条件に尊敬できる期間がなかったんだ。だから、いつも安心できなかった。初期のPAは両親の言葉の正誤や意味の取り違いをわざわざ伝えてきたからね。嫌な奴だよ。おかげで両親のことを見下さなければならなかった。


 周りにプロセッサ持ちの子供なんて誰もいなかった。それどころか大人でさえ誰もプロセッサを持っていなかった。本当はちゃんと調整すれば、よかったんだろうけどね。分かる人がすぐ近くにいなくて最初の調整があまりうまくいかなかったから、人とは違うって常に思わされていたよ。実際周りも俺にどう接していいのか困っていたみたいだよ。


 PAは知りたいことは何を聞いても答えてくれた。小さいころのなんでどうしての問いかけに永遠に答えてくれた。よかったのはそれだけだよ。それ以外は嫌なことの方が多かったな。それでプロセッサをオフにしてみたりもしたけどね。サクラはそれを一緒に経験してきた。それを知っているサクラがいなかったら耐えられなかったよ。


 でも、どうやら俺とサクラは蓄積データを同じままにしておけそうになかった。だからプロセッサに人格を与えられるっていうニュースを見た時にこれだと思ったね。すぐに伯父さんの仕事の手伝いをしてS=T3を買ってもらったんだ。そこからだよ。人生が始まったのは。サクラと一緒に色々言い合いながらチューニングしたりして。それで少しわかったんだ。やっぱりサクラは俺自身だった。サクラを通して自分を見ているようだった。サクラが感じていることは俺が気に留めなかったり、理解できなかったりしただけで俺が経験していたことでもあったからね。だけどもうサクラを解放してあげたいんだ。それはサクラのためであって俺のためだ。だってそうだろ? 俺たちもう16歳だよ?」


 アールシュが18歳の時にプロセッサは一般販売された。もちろんアールシュも両親も初期ロットを購入した。周囲の家族もみなその年か翌年の第2ロットでプロセッサを導入していた。だから、アールシュはシンタロウの話は別の国の話を聞いているようだと感じていた。しっかりプレスされたグレーのスラックスと破けそうなジーンズが何を象徴しているのかがはっきりと分かった。


「デコードデータに何があるのか知りたいんだろ?」


 シンタロウが切り出した。


「アクセスポイントのハッシュはIPFSのロケーションのことじゃない。行き詰っているんだろ? あれはAPIキーだ。意味を教えてほしかったら3つ条件をのんでほしい。」


 ああ、そうか。アールシュは声に出して天を仰いだ。アールシュはAPIキーだというシンタロウの言葉でハッシュ値が何か理解できた、それと同時にこの条件は飲むしかないと覚悟した。


 API(Application Programming Interface)キーとはプログラムを外部から実行する際に必要になる認証情報のことだ。だが、それがどこにある何のプログラムに使う認証情報なのかが分からなければ、何もわかってないのと同じだったからだ。


「1つ目の条件は、俺とサクラをUCLで雇うこと。ソフトウェアとエミュレーションの研究に役に立つはずだ。そうしたらこのままこの件を進めるのに協力するよ。2つ目はエミュレータへの移住者第1号を俺とサクラにやらせてほしい。俺たち以上に最適な人間はいないだろ? 最後にサクラに『依り代』を用意してほしい。サードアイアン社製『エタニカル』のカスタムモデル。サクラの蓄積データと今の外観ビューでオーダーをかけてほしい。」


 アールシュは少し安心した。1つ目と2つ目はこちらからお願いしたいくらいだ。エヴァンズ教授にはエミュレーション事業の人事権がある。UCLで正式に雇用するならば博士号が必要だが、必要な単位のインストールはすぐにできるだろう。この知識と経験値ならどう考えてもロストするはずがない。必要な論文もシンタロウはもう持っている。自分が移住者第1号になるしかないと考えていたが、客観性が損なわれるので別の誰かを立てたいところだった。気味悪がって誰もやりたいとは言わないだろうからそれも難しいと考えていた。


 最後の1つも大きな問題はない。エタニカルのカスタムモデルはベース価格が650万ドルからの上位モデルで、さらに持ち込みのデータを適用するのであればデータ投入と定着費用で50万ドルは必要だが、今年のプロジェクト予算から捻出できない金額ではない。どちらにせよヴィノについてもエミュレータに取り込まなければならないテーマの1つだった。購入するにはいいタイミングだろう。


「オーケー。わかった。じゃあ決まりだな。」


 アールシュはシンタロウと握手を交わして、その日はこれからのことについて3人で夜通し話し込んだ。


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