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3.5 対面

 アールシュは2日後にメサの研究室でシンタロウを出迎えていた。


 てっきり、私よりも年上の人物を勝手にイメージしていたが、シンタロウはまだハイスクールの少年だったので驚かされた。シンタロウは私より一回り背が高く6フィート近くある。私と同じくアジア系だが、名前や雰囲気から極東にルーツがあるようだ。


 着古した白いTシャツと破れそうなブラックジーンズにすり減ったスニーカーを履いている。失礼だが、あまり高度な教育を受けられる環境にいるようには見えない。アールシュはそれとは対照的に糊のきいた薄いブルーのシャツとしっかりプレスされたグレーのスラックス、そしてブラウンのスウェードのドライビングシューズを履いている。実際アールシュは裕福な家庭で育ち、十分な教育を受けてきた。そのアールシュから見ればシンタロウはウィルコックスに向かう際に通った町で見かけた人々と同じだった。シンタロウの第一印象からは同じ研究をしている自分との接点を見出せなかったのだ。


 黒い長い髪をサムライのように一つに束ねたシンタロウは、自分を見定めようとしている私の視線に気が付き、切れ長の目を伏せて決して目を合わせようとしなかった。それは彼のようなナードが持つ特有の振る舞いだったが、私の持つ物静かでシャイなサムライのイメージと重なった。


「VRSでもいい?」


 若者らしいイントネーションで話すシンタロウの要望に、アールシュはもちろんと答えて、シンタロウがハンドリングするVRSに網膜投射を切り替える。シンタロウは一人の女性とともに待っていた。シンタロウと同年代の黒い長い髪と引き込まれそうなほど強い意志を感じさせる黒い瞳を持つ、背の高い痩身の女性だった。女性というよりもまだ女の子といったほうがよいだろうか、整った美しい顔をしているがよく見るとあどけなさが残っている、見た目からするとシンタロウと同郷の人間だろう。シンタロウと同じようにラフな格好をしている。ゆったりとした黒いTシャツと真っ白いタイトなジーンズとスニーカーを履いている。


「サクラ、『あの日』のデータを流してくれる?」


 サクラと呼ばれた女の子は小さくうなずいて平面ビューに誰かの主観映像を出した。シンタロウの説明によれば『鐘の音』も『神の使いの言葉』も、どちらも本体はパルス型コードであり、プロセッサに指示を出すためのリモートコールの一種だという。


 音や音声自体は、パルス型コードと一緒に流れただけのダミーだった。しかし、コードではないが、ただの音と音声というわけではない。おそらくプロセッサを接種していない人間だけをターゲットにしたものであり、外部から発せられたものではなかった。


 シンタロウの家で飼っているペットの犬も猫も何の反応も示さなかったという。もちろんどこの映像や録音データにも残っていなかったし、さらにプロセッサを接種していない人間が使う外部拡張グラスやコンタクト、リング、ピアスなどのライフログ取得用デバイスのインプットデータにも何も残っていなかった。


 そして、プロセッサを接種していない人間にだけ聞こえたというその音は、プロセッサ持ちが聞いたものと比べるとそれほど強烈な『鐘の音』でもなかったし、『神の使いの言葉』は言語や個人の思想ごとにニュアンスが異なるいくつかのバリエーションを持った固定のメッセージが流れただけだという。


 それらの情報は、シンタロウが通うハイスクールで収集したものをファクトソースとし、旧ネットからキュレーションして統計上有意な母数のデータにまとめたものだった。シンタロウの通うハイスクールのほとんどの学生はプロセッサを接種していないのだという。


 そして、プロセッサ持ちはプロセッサを接種していない人間とはまったく異なる状態に遷移させられていた。『鐘の音』として音と同時に流れたパルス型コードがプロセッサにリモートコールを通すためのスキャンとアナライズを行うコードになっていた。


 『神の使いの言葉』と呼ばれる声の方と同時に流れたコードが、スキャンとアナライズによって特定されたスタック領域からオーバーフローを引き起こし、複数の実体コードを流し込んで実行させるための侵入と起動用のコードだという。


 実体コードとはコネクションを遮断した上でPAをハングさせるコードやオキシトシン、セロトニンを過剰分泌させる命令セットのことを指しているのだろう。


 アールシュは『あの日』に自分の経験したことやこれまで集めた情報をシンタロウの話しと重ね合わせながら聞いていたが、納得できることが多く、違和感を持つことはなかった。


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