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2.8 ペーパー

 ウィルコックスで体調を崩してから1週間が経過していた。その間、何もする気が起きなくてサクラが生成した今の気分にちょうどいいアニメーションをずっと見ていた。そして気が付かないふりをし続けるのが面倒になって、ようやくアニメーションを見るのに飽きたことを受け入れた。


 近所のダイナーでテイクアウトしたサルサソースにまみれたスマッシュバーガーをコーラで流し込みながら、ケンジに許可してもらっていた外部ストレージにあるコンピュータサイエンスのコレクションを片端からインストールしてみる。このサイズなら通常、インストール内容が知識に定着するまで一本当たり数週間はかかる。あまりに自分の蓄積データと親和性がない知識の場合は定着せずにロストする。だが、ケンジのコレクション全てをインストールしてシンタロウの知識として定着するまで3日もかからなかった。ケンジが東洋の国から帰ってくる頃にはオプシロン社が公開している論文を全てローカル上で蓄積データ化していた。


 サクラによればウィルコックスから帰る際にシンタロウのバイタルは一時、正常水域から逸脱して危険な状況に見えたという。それ以降、バイタルは安定しているが、今のフィジカルはこれまでのシンタロウとは別人のようだという。そういえば少し身体に違和感があった。髪や爪が伸びるのが早い気がするし、身長も少し伸びたようだった。そして頭はすごくすっきりしている。そして、念のためにもう一度食べて味を確認してみたがはっきりした。あれほどありがたがって食べていたスマッシュバーガーはもういらないと確信することができた。それにハイスクールの運動部の奴が自慢していた新車を友人たちと馬鹿にしながらも自分も欲しいと思っていたのがウソのように消えた。馬鹿税を支払わされるのはもううんざりしていた。もしかしたら、今なら煮崩れた豆のスープの破片のそれが何かを当てられるのではないかという気がしている。


 ネブラスカに戻ってから家にこもってサクラとエミュレーションに関する情報を集めてはインストールした。ドクター・イーサン・エヴァズの論文が特に興味深かった。彼がヴィシュヌプロジェクトの創設者だということは知っていたがエミュレーション以外のバイオテクノロジー系の論文も書いていることは知らなかった。試しにインストールしてみたが、エミュレーション分野ほど確固たる価値基準を持っているわけでなく、完成度が高いとは思えなかったので数本だけインストールして飽きてしまった。


 夏休みが終わる頃、シンタロウは髪が肩にかかるくらいに伸びていたが切りに行くのが面倒くさかったので頭の後ろで一つにしてゴムで結んでおいた。父親にサムライのようだと言われたがサムライが何か調べるのも面倒で無視した。ジーンズもTシャツも小さくなってしまったので母親が、近所に住む母親の友人の息子のおさがりをもらってきてくれたものを使った。デトロイトの大学に行ってしまった母親の友人の息子はシンタロウに比べてずっとセンスが良かった。


 ハイスクールが始まり、ホゥー・シェンに声をかけても気が付かないほどシンタロウの見た目は変化していた。ずっと背が低かったシンタロウだが今では6フィート近くまで急激に背が伸びていた。


 それまで無関心だった女子が、身長が伸びて大学生のおさがりの服をもらってセンスもよくなったシンタロウを意識するようになった。シンタロウに声をかけてくることが多くなったが、シンタロウは相変わらずPAとコネクションを張りっぱなしだったので会話が続かなかった。


 シンタロウが興味を持っていたのはドクター・イーサン・エヴァズの論文だった。それに触発されたシンタロウはハイスクールに通いながら3か月かけてエミュレーションについて一本の論文を書いた。タイトルは『エミュレータの実現と新大陸発見の類似性』にした。


 シンタロウが論文を書き終えたその日にあの『鐘の音』を聞いた。論文の一部の補足になりえるこの現象についていくつかの客観的事実と調査結果、そして考察を論文に加えた。そして、調査会社のマーティンから、万が一の場合に備えてUCLの窓口を教えてもらっていた連絡先を思い出し、そこに書かれていたUCLメサ研究室のドクター・アールシュ・アミン宛に書き終えた論文を送った。そこはヴィシュヌプロジェクトの研究機関だろう。これを見たら意味を知ろうと必ず俺にコンタクトを取ってくるはずだ。


「サクラ、うまくいけばまた体を動かせるかもしれない。それに今度はVRSじゃなくて本当に会えるかもしれない。」


 ただ論文を書いたわけではなく、シンタロウとサクラには一つの計画があった。


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