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聞き込み作戦!

 そんなこんなあって、ぼくはお母さんと宇宙人のこどもなのだと予測するに至った。もちろん、この時点ではあくまでただの想像であってあまり現実的でないことも理解していた。UFOも宇宙人もこの目で見たことがなかったのだから。


 しかし、実際に宇宙人のミイラがおばあちゃんの家の蔵から見つかったとなると話は別だ。いよいよ、ぼくの想像が現実味を帯びてくる。

 宇宙人のミイラを前にして、ぼくは興奮を抑えきれなかった。今すぐにでも、誰かに見せたいと思ったが、すぐに思いなおす。宇宙人のこどもであることがバレると、テレビのあの人みたいに消されるかもしれない。


 ぼくは、蓋を再び閉めてから箱をそっと元の場所に戻した。蔵の扉を閉めて、南京錠もしっかりと施錠する。あたりを見回したが、おばあちゃんの家と裏山の木々があるだけだった。


(誰にもバレていないな……)


 ぼくは、こわばる顔をできるだけ抑えながら、おばあちゃんたちのところへと戻った。おばあちゃんとお母さんは居間で阪神タイガースの試合を眺めていた。


「ただいまー」


 そう言って、ぼくはおばあちゃんに蔵の鍵を返す。


「なんか面白いもんあったか?」


「いいや、なんもなかった。箱が何個かあったけどあれって何が入ってるん?」


 ぼくは緊張する声音を必死に隠す。


「なんやったけな。しばらく入ってないからなぁ。ブルーシートとかちゃうかな。ほら、昔台風で屋根飛んだ時に使ったやつ」


「それ、懐かしいな!」


 母が途中で割り込んでくる。おばあちゃんの家の屋根が飛んだことなんてぼくの記憶にはないから、きっとぼくが赤ちゃんの頃か、もしくは生まれる前のことだろう。ぼくの知らない時間をおばあちゃんとお母さんが過ごしていたことを想うと少し寂しい気持ちになった。


 テレビの中では、大山選手のフォームについてアナウンサーが解説していた。お母さんがお菓子の袋を開ける音が聞こえるほどには静かだった。そういえば、お母さんは家だとずっとしゃべっているのに、おばあちゃんの家だと妙に静かな気がする。


「ちょっと、その辺探検してくる」


「「気ぃつけてなー」」


「はーい」


 二人の心配の声を聴きながら、玄関を出る。春の終わりと梅雨の間にある、一年の内ほんのわずかな心地の良い季節だった。花粉もなければ、蝉も鳴いていない、シャツが張り付くような湿気もほとんどない。


 お母さんたちには探検に行くと言ったが、あれはもちろん嘘で、ぼくには作戦があった。もし、宇宙人がお母さんを連れ去ったのだとすると、このあたりではかなり話題になったはずだ。ただでさえ、噂が伝わるのが速いのだから宇宙人ネタなんて速攻で広まっているに違いない。


 ぼくは、地域センターへと向かっていた。そこは、この町の中では中心的な役割を果たしていて、よく分からない講習会なんかが開かれている。そこで受付をしている吉廣さんとは何度も会ったことがあった。おばあちゃんが地域センターでのイベントをよく手伝っていて、その関係でぼくも吉廣さんとよくお話ししていたのだ。ぼくはなぜだか分からないけど、年上の人たちとは普通に会話ができた。


 しばらく田舎道を歩くと少し広めの道路に出る。その道路沿いをまたしばらく歩く。すると、周囲の瓦屋根の中でひときわ目立ったコンクリート製の豆腐みたいな形をした地域センターが見えてきた。やたらに広い駐車場を横切って、正面入り口から入る。中に足を踏み入れると、新しく買った服みたいな匂いがした。


「こんにちはー。あら、都会のちび助やん」


「こんにちは」


 吉廣さんはぼくのことを都会のちび助と呼ぶ。僕の住んでいるところは都会じゃない(ここと比べると都会かもしれないけど)上、もう小学生だからちび助でもない。しかし、そんな細かいことを気にしている暇はない。ぼくには重要な任務がある。


「学校の宿題でインタビューをしてて」


 我ながら、良い嘘だと思った。特に意味もなく、お母さんのことについて質問するのはなんとなく恥ずかしかったからだ。


「へえ、そうなん?」


「お母さんの昔の話を聞きたくて。吉廣さんなら、昔から知ってるかなと思って」


「そりゃ、知ってるよ。色々な。小学生の頃なんか、めっちゃ静かでなぁ」


「えっ? ほんまに?」


「そやで。意外やろ」


「うん……」


 全く予想だにしない返答だった。お母さんが静かにしている姿が想像できない。いや、そういえば、おばあちゃんの家にいる時はおとなしい。


「お母さん、家ではめっちゃおしゃべりやから」


「そうやろ? 学生の頃はずっと根暗でな。明るくなったんは、社会人なってからやと思うで」


「しゃかいじん?」


「そうそう、働き始めてからってこと。あんたのお父さんと出会った頃ちゃうかなぁ?」


 ぼくの知らないお母さんが次々と現れて混乱していた中に、今度はお父さんが登場した。ぼくの予測ではお父さんは宇宙人のはずだ。働き始めてから宇宙人と出会ったということか。そもそも、UFOに連れ去られることは《《出会った》》と言うのだろうか。


「お父さんってどんな人やった?」


「そりゃ、ええ人…… おっと。言ったらあかんのやった」


「え! なんで!」


「内緒」


 吉廣さんはそう言ってにかっと笑う。ぼくは不満に思いながら他にもいくつかのことを聞いた。お母さんが連れ去られたことはあったかと尋ねた時は、笑いながら否定した。しかし、宇宙人についての噂があったかと聞いた時に一瞬怪訝な顔をしたのを見逃さなかった。

 吉廣さんはこれからカラオケ講習会があるらしかったので、ぼくは感謝を伝えてから、地域センターを後にした。


 帰り道をとぼとぼ歩きながら考えた。宇宙人については間違いなく何かある様子だった。吉廣さんはぼくのお父さんについて何か口止めをされているらしい。一体誰に口止めされているのか。例えば、宇宙人側の組織とか、FBIとかかもしれない。


 ともかく、聞き込み調査作戦はある程度の成果を得られた。しかし、真相の解明にはまだ遠い。

 他に情報を収集できそうな方法を考える。確か、駅前に小さめの図書館があったはずだ。前に一度行った時、隅の方の一角で地元特集のコーナーが設けられていた記憶がある。例えば地元の新聞みたいのがあれば、何か新しい情報が得られるかもしれない。

 そうと決まれば、お母さんに頼んで連れて行ってもらおう。やるべきことが見つかると気分も高まり、歩く速度も速くなる。

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