最後の懺悔
俺は殺人者だ。
故意ではないとは言っても、間違いなく人の命を奪ってしまった。
しかし、混乱のあまり、その場から逃げ出し、おめおめと生き延びて来た。
何年も逃亡生活を続け、警察の目をかい潜り、今日に至った。
毎晩、魘された。殺してしまった相手に責められ続けて、寝不足だった。
それでも俺は何故か死のうとは思わなかった。
生き続け、怯え続け、自分を精神的に追い込む事で、殺してしまった者への詫びにするつもりでいた。
死ぬ事が責任をとる事ではない。死ぬ事で罪は清算できない。
本当は死にたくないだけなのだろう?
そう罵られても仕方がない。
反論するつもりはない。
多分、その通りなのだろうから。
そんな状態の俺が、偶然教会を見つけた。
山の中を彷徨い歩いていて、辿り着いたのだ。
これこそ、運命だったのかも知れない。
己の罪を懺悔し、悔い改め、更に死んだ者へのせめてもの罪滅ぼしとしようと考えた。
俺は礼拝堂の懺悔室に入った。
「迷える子羊よ。懺悔なさい」
細かい格子の入った小窓の向こうから、神父の声がした。
俺は自分の仕出かした罪を告白し、懺悔した。
「悔い改めなさい」
神父の抑揚のない冷めた声が言った。俺は頭を垂れ、祈った。
どれほど経ったかわからないくらい俺は祈り続け、ハッと我に返った。
そして全て思い出した。
自分の罪を。何をしたのかを。
「俺は、俺は……」
俺は誰も殺してなどいない。
そして、こうして教会に辿り着いたのも間違いなく運命だったのだ。
「お前だ」
俺は懺悔室を飛び出し、立ち去る神父を追いかけた。
「全部思い出した。お前だ!」
俺は神父の前に回り込んだ。
「俺は、ずっとお前を探し続けていたのだ。やっと見つけた」
神父は無表情だった。何を思っているのかわからないような、冷たい目をしていた。
俺は神父の胸倉を掴み、ありったけの声で叫んだ。
「俺はお前に殺された! そして、お前に偽の記憶を植えつけられ、何年も彷徨い続けたのだ! だが、それも今日で終わる!」
神父は悪魔に姿を変えた。教会は夜宴に変わった。
「今頃気づいても手遅れだよ。最早お前が行けるのは地獄のみ。お前は魂魄まで全て我が眷属。無駄だ」
悪魔の笑みに、俺は何もかも終わった事を悟った。