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37.交戦※アタ視点

 コウは危なげなく魔物を倒してダンジョンを進む。初級魔法に剣術は身に付いたようだ。


(今、身に付いたにしては剣術の能力が高いね。コウの種族特有の力ですでに身に付いていた?)


 コウは、産まれたばかりの頃に鳥の魔物にでも攫われて《森》に連れて来られた魔族だ。

 見つけた時はやせ細り、死にかけていた。魔物の血を与えていたらすぐにまん丸になったが。

 その姿から吸血玉コウモリだと分かったが、レアな種族過ぎて詳しい能力は私も知らなかった。


(魔族たるもの、隠した能力の1つや2つはあるものだしね)


 ダンジョンボスのスライムを倒して帰ろうとした時、扉が開いた。


「こんな所に魔族だと。何をしている?」


 大剣を両手に持ち、凄まじい殺気を放っている。

 これは……、英雄級の戦士か。私だけならまだしもコウがいると厳しい。


(おかしいね。ここに来るまでにダンジョン中に監視の葉を残してきた。反応なくここまで来れるわけがない。ということは、転移?初級ダンジョンとはいえ魔素に満ちているこの空間に直接転移出来るなら、凄腕の魔術師でもあるのかもしれない。やっかいだね)


 心の中で、深い溜息を吐く。


「答えは、なしか」


 男の身体が闘気に覆われていく。


 私は両手から木剣を出し、片方をコウに渡した。


「そんななまくらの剣じゃ簡単に折られちまう。こっちを使いな」


 コウに剣を渡した瞬間、男がこちらに突っ込んで来た。大剣を避け、あるいは木剣でいなして男に斬りつける。紙一重で避けられた。


「速いし、見かけによらず力が強い。それにただの木の剣ではなさそうだな。これならどうだ?」


 男は大剣を投げ捨て、どこからか赤い剣を抜き放った。剣身から炎が吹き上がる。


 炎の剣も先程の大剣と変わらず木剣で受け流し、男を斬りつける。今度は鎧に小さな傷を付けた。


「樹齢1000年以上の魔樹の剣だよ。そんな弱火で燃やせるものかい」


「そうか。ではこれだな」


 今度は細身の剣を取り出す。風を吹き出す剣を構え、瞬時にコウに向かって斬りかかった。


 意表を突かれて、反応が遅れた。それに先程の動きの倍は速い。間に合わない。


 

 コウは、高速で迫る剣を正確に木剣で受けた。だが力の違いで簡単に吹き飛ばされる。

 

 慌ててコウの元へ向かう。良かった。目を回しているが、そんなにひどい怪我をしていない。


「これを受けるか。……それにその木剣。オレの剣を受けて傷1つ付いていない。どうだ、それをオレに渡さないか?代わりに見逃してやるぞ」


 男は、真顔で聞いてくる。どうやら冗談ではないようだ。


 手に持っていた木剣を男に投げる。


「軽いな。それに魔力の通りが良い」


 受け取った剣を楽しそうに振り回し、上機嫌だ。ひとしきり木剣の性能を試した後、おもむろにダンジョンの壁を触り始める。


 ゴゴゴゴゴ……。


 ダンジョンの壁が開いた。隠し扉か。


「本当に見逃す気かい?」


 男は振り返り、ジッと私とコウを見る。


「オレは言っただろう?何をしていると。どうやらこの先に用があったわけではないようだ。オレは忙しい。これから90階もダンジョンを潜らなくてはならないんだ。命懸けの戦いなどしている場合ではない。それにお前たちは、憎々しい小鬼族じゃないしな」


(90階?それだけの規模だと最上級のダンジョンだろう。実際に、隠し扉の先からは濃厚な魔素が溢れて出ている。単身で?正気か?)


 この男との戦いは、なんとしてでも避けた方が良さそうだ。


「ここには、こいつを鍛えるために来たんだよ」


 私の答えを冗談とでも思ったのか、男は盛大に笑いながら隠しダンジョンの先へ走り去って行った。


 (ふう。なんとか切り抜けられたね。この狭いボス部屋であんなのと魔術対決にでもなったら、コウなんてどうなっていたことやら)


 剣を取り出していたのは召喚術だろう。詠唱も無しに瞬時に行使するなど、どれほどの技量なのか。投げられたはずの剣はなくなっていた。回収の術まで完備か。

 

 完全に気を失ったのか、コウモリの姿に戻ったコウを転がしながら傷の具合を確認して、治癒術を施す。


 コウはのんきな顔で、寝息を立て始めた。

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