36.ダンジョン
この旅の第一目的は、最も小さいダンジョンに潜り、ボクを鍛える、というものだ。
ダンジョン自体は魔界にも大砂漠にもあった。だが、そのダンジョンに潜ったら間違いなくボクは死ぬとおねえさんは言う。
ダンジョン。別名、《神の悪ふざけの空間》と呼ばれる魔境。
そこは、無限に財宝と魔物、罠が湧き続ける不思議な空間だ。
ダンジョンに現われる魔物は侵入者が魔族でも人に対するのと変わらず襲いかかって来て、更には魔族と同じ姿の魔物も出現する。
その為、人の中ではダンジョンの魔物の在り方と魔界のイメージが一緒であると思われている。
魔族は話の通じない危険な存在であると。
ダンジョンの規模によって中に出現する魔物の強さ、宝の価値、罠の危険度が変わる。そして、それは奥に行くほど危険になる。
魔界や大砂漠のダンジョンは規模が大きすぎて、入口付近でもとても危険な魔物や罠が出るらしい。ボクなんて瞬殺だと。
おねえさんは人の姿に変化したボクを見て、きちんと成長出来るということがわかり、ダンジョンで戦闘訓練をしたいと言った。
ダンジョンの特性の1つ、成長速度の速さだ。ダンジョン内は特殊な魔力に包まれている為か、いるだけである程度は能力の向上が起きるほどである。
おねえさんはダンジョンになど入ったことないだろうに、本当に良く知っている。この国に最小クラスのダンジョンがあることも知っていた。
これから入るダンジョンは最深10階層の地下洞窟タイプだ。出現する魔物はスライムタイプ。元冒険者国で初心者用として活用されていた場所だ。
「ここがダンジョンかぁ。不思議な感じがするね」
日の当たらない洞窟の寒さとは違う、不思議な温度と薄暗いけれど光源が無いのにしっかりと明るい空間。
「魔力が満ちているからね。いや、ここの場合魔素と呼ぶべきか。なんと呼ぶかはそれぞれ違うが、中身は一緒さ。ここは、神様の領域だ」
おねえさんは、目を輝かせてダンジョン内を観察している。
すると、半透明のゲル状の魔物がゆっくりと地を這いながら近づいて来た。
「あ、これがダンジョンのスライムか!どこに目があるんだろう。そんなに遅く動いてて大丈夫なの?」
魔界では、こんなに小さいスライムはいない。緩慢な動きも珍しい。
「観察するのは結構だが、ちゃんと倒すんだよ」
おねえさんに促されて、掌に魔力を込めて火を放とうとした。おねえさん曰く、初級魔法くらいなら使えるだろうとの事。
少し時間が掛かり、その間にスライムが体から何かを飛ばしてきた。危なげなく躱して、火の玉を放つ。スライムは燃えて消えた。スライムが居た場所には葉っぱとコインが置かれている。
そして、身体に何かが入り込んで来た感覚がした。
「コレ、なんだろ?」
自分の身体を不思議そうに見てから、落ちている物を拾い上げた。
「ちゃんと経験値を得たみたいだね。ダンジョンではそれの感覚がハッキリ感じることが出来るのさ。それと、薬草とコインか。さっきのスライムの戦利品さね」
ダンジョンに出現する魔物は倒すとその種類によって決まった物を残す。正に神の悪ふざけと言わんばかりの特性だ。
すぐにダンジョンでの戦闘に慣れて、次々と階層を進んでいく。
出て来る魔物はほとんどがスライム。下層に来て小鬼族の様な魔物が出てきたが武器は何も持っていなかった。
罠らしい罠にも出会わない。
「順調だね。宝箱に入っていた、この剣で戦うのも楽しい」
コウモリの時には出来なかった武器での戦闘。いや、武器でなくても戦闘などしたことは無かったか。
思いの外、堂に入った剣の振り方が出来ている。
「ふうん。剣術の能力が身に付いているようだね」
おねえさんは、ダンジョンを見る目と同じ眼差しでしげしげとボクを見つめた。なんだか、むず痒い。
「次がこのダンジョンの最下層。ボスと呼ばれる強い魔物が出るから、一応注意するんだよ」
階段を降りて、洞窟にあるとは思えない立派な装飾のされた扉を開けると、そこにはちょっと大きなスライムがいた。難なく倒す。普通のスライムに比べると多めの薬草とコインを落とした。
「この子がボス?ここのダンジョン、楽しかったけど最後はもっと驚きが欲しかったなあ」
ボスを倒したので帰ろうと扉の方を向くと、見知らぬ男が立っていた。
「こんな所に魔族だと」
男からは凄まじい魔力を感じる。二振りの大剣を難なく構えるその姿は、熟練の戦士を思わせた。
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