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6枚目

 

 四階の食堂にはもう既に結構な数の人数が集まっていた。つい先程までは殺風景だったのに対して、そこは華やかに彩られた飾りが辺りを埋めつくしていた。赤を基調とし派手すぎず地味すぎずといった装飾は最早職人技だと思う。


 リビングルームの玄関の真上に位置されるであろう場所には半螺旋階段が取り付けられた、上から部屋全体を見渡せる少し低めのロフトのようなステージが有り、演壇の上にスピーチをする際に用いられる見台が佇んであった。


「なんか、舞踏会で使われる式場みたい……」

「美しいですね……」

「あの上の舞台でお偉いさんが登って挨拶しそうな感じがするね…」

「見てみてーめっちゃ美味しそうな料理がいっぱいあるよ。」


 他三人は会場となる食堂の装飾に関しての意見を述べていたが、唯一人オレだけが会場のあらゆる場所に設置されたローテーブルの上に置かれた芳ばしい香りを漂わせる料理に感想を言った為、一気に三人の視線が集まった。


 お前食い意地が張りすぎなんじゃないの?って心の中で言われてるんだろうなぁ……だって美味しそうなんだもんしょうが無いよ。


「ふふっ確かに美味しそうだね。」

「うんうん!見た感じ『空翼豆(そらまめ)朱子豆腐(しゅすどうふ)の炒め物』が有るのが見えるね。」

「舌触り滑らかな朱子豆腐の炒め物は美味しいですから。」


 全然そんなこと無かった。疑ってごめん。


「席に座りましょうか。どうやら自由に座ってもいいようですので。」


 ローズが周りの会話を聴き取り席順は自由ということで先程菫が発見した空翼豆と朱子豆腐の炒め物が置いてあるローテーブルに俺の隣がラファ。向かいに菫、オレから見て右隣にローズが腰を下ろした。


 座って暫くの間、人が集まるのを雑談しながら待っていた。その途中、辛さんがシャンパングラスを乗せたお盆を片手にオレ達の前に一つずつ置き、トクトクとシャンパンもどきを注いだ。おまけにウインク頂きました。

 手練のウエイターみたいでちょっと見惚れてしまった。


 人が集まったのか、食堂の明かりが一段階落とされ仄暗い空間へと変化した。代わりにロフトステージの方へ大きめのスポットライトが当てられた。


「何か始まるのかな?」

「この雰囲気ならそうだろうね。」


 ザワついていた声は徐々に収まり二つの足音が響く。一つはゆっくりと響く歩幅の大きな足音。もう一つは小刻みに響く歩幅の小さな足音。

 ロフトステージを凝視しているとその足音の主であろう高身長の影と低身長の影が見えた。


 …………にしては小さすぎる気がするのだが。


 見台にひょっこりと顔を出したのは、スポットライトに照らされたルビーレッドの髪。カールがかかった高い位置に結ばれたツインテールがフワフワと揺れ、印象的な垂れ目をした少女の様な小柄な女の子だった。


 ジジッ

『皆集まってくれてありがとう。妾はこの舞闊響轟校生徒会、会長を務める魔聖地区に居を構えるマフィアート一族が娘。シェイ・マフィアートじゃ〜』


 ヱ。いや、緩くない???重々しい雰囲気だったのに緩くない??


 名乗りを上げたシェイ・マフィアート。彼女は背が低すぎる為か、後ろに控えていた高身長の男性に抱き抱えられながら登壇している。

 ザワついているのは一部の生徒のみ。恐らくオレと同じ新入生達が戸惑いの声を上げているのだろう。


『あ、この子は生徒会、副会長であり妾の一番のお友達のウィリアム・ガルシアじゃ〜』

『どうぞ宜しく。』


 副会長は会長とは真反対のキッチリした口調で簡潔に挨拶をした。見た目もサラサラとした黒髪に縁の薄い銀縁眼鏡をかけている。まさにTheインテリ系男子って感じがする。

 なんだか、こっちの方が気が引き締まる。


『今日はこの舞闊に新たな同士である狭間の守り人(チュトラリー)が入学する。そんな新入生のお主達には三つの原則を教える。一つ、皆と仲を深め良い関係を築く。二つ、異界トラブルが発生したら直ちに対応する。三つこの青春を楽しむ事!これが守れれば立派な舞闊響轟校の生徒じゃ!』


 へぇ〜。そういう原則があるのは知らなかった…


『今日から、ここに居る皆はこれから共生し、困難を分かちあっていく仲間であり朋友であり友じゃ』


 おぉー……ん??それって全部友達って意味なんじゃ………


 会長は指をクルクルして複数の小さな箱を目の前に出現させ、そしてその箱はオレ達新入生の元へとやってきた。

 箱を開けると緩衝材の入った中心に舞闊の生徒としての証であるイヤーカフが入っていた。


『今渡したのが舞闊の生徒である証のイヤーカフじゃ。大事にいつもつけるのじゃぞ〜イヤーカフには耐水・耐火等色んな耐性が込められてるから安心せよ。』


 箱に入っているイヤーカフを手に取る。するとキラキラと淡く輝きシンプルなデザインだったイヤーカフがリングに黒と白の羽根を持つ一頭の蝶々がついたイヤーカフへと変化し、耳輪の上の方へとつけられた。

 ビックリして、皆の方を見る。案の定、三人ともがそれぞれ違う装飾がつけられたイヤーカフへと変化していた。


 ラファは耳輪に沿ってつけられた青みがかった白色の天使の羽のイヤーカフ。菫は名前の通りか、紫色と白色の菫の花のイヤーカフ。ローズは美しいローズクォーツが散りばめられたイヤーカフ。


 どれも皆に似合っていてカッコイイと思った。勿論オレのイヤーカフも蝶々で幸の友達が近くにいるみたいでとても好きだ。まぁ、幸に友達なんて居ないんだけどね……


 しかし、改めてこれも舞闊の技術だと思うと最早頭が上がらない……足を向けて寝ちゃったらバチが当たりそうだ。


『んで〜もう堅苦しいのはやめるのじゃ〜後は流れに身を任せて歓迎会楽しむのみ。因みに今日のお料理のオススメは「岩陰地鶏(いわかげじどり)のマカロニグラタン」じゃ!では誇り高き舞闊響轟校に乾杯じゃ〜』



「「「「「「乾杯!!!!」」」」」」



 会場はそれぞれの場所からシャンパングラスがぶつかり合う音で埋め尽くされ、パッと薄暗かった会場が一瞬にして明るくなった。

 それを皮切りにドッと会場が湧き初め、歓迎会と言う名の食事会が始まった。


「「乾杯」」


 オレも隣のラファと軽くグラスを交わし少量含み口の中で弾ける炭酸を楽しんだ。


 という事で早速オレは目の前にある空翼豆と朱子豆腐の炒め物を手元にあった小皿に移し一口食べる。

 これまた空翼豆のフワフワとした食感と舌触り柔らかな朱子豆腐が甘辛いソースに絡まり非常に美味!


 ご飯が美味しいのは生きていくのに大切な事だ。なんて言ったって生きていくには衣・食・住が必要だからね!!この三つは拘りたい質だからしょうが無い!!!


「うぅまい……」

「よみ。また美味しいしか言えなくなるじゃない?」

「オレはそんな単純な男じゃなくってよラファさん。」モグモグ

「フフ。ソースついてますが」


 ラファは手元にあったナプキンで口元を拭ってくれた。

 勘違いじゃなければオレ、やっぱり子供扱いされない???とても紳士的だが、そういうのは好いた女子(おなご)に対してするべき行動なのでは。


「目の前でイチャついてますよ菫さん」

「ホントだ。リア充〜」

「菫も人の事言えないからね?」


 ラファの言う通り。オレは見たんだ。ラファに口元を拭ってもらっている時チラと菫達の方を見るとローズに手ずからアーンして貰ってるのを。お返しにしてあげてるのも見えたぞ。人のこと言えるのか??お??


「これ食べて見るのじゃ美味しいぞ」


 グリンと首を約七十度回転させられ口に何かを突っ込まれる。


「あっつ!!」


 多分突っ込まれたのは岩陰地鶏のマカロニグラタン。熱いけど地鶏の旨みが染み込んでいて美味しい。けど誰がこんな事を……?目をかっぴらいて見ても視界にあるのは違うローテーブルに座っている他の生徒とオレが咥えているスプーンの取っ手だけだ。


「ふぁれ??」

「下じゃ〜」


 言われるがままに視線を落とすと、さっき壇上で堂々と乾杯の音頭をとっていた生徒会、会長であるシェイ・マフィアート本人が居た。


 よいしょ。とお構い無しにオレが座っている椅子をよじ登りオレの膝の上に腰を下ろした。


「えっあの〜会長。これはどう言った事で…」

「敬語は無しじゃ。これからは舞闊の生徒。上下関係は無いから名前もシェイって呼び捨てにするのじゃ。他の皆のこともな」


 ……………。

 取り敢えずお言葉に甘えて敬語と敬称は無くすことにしよう。


 でもこれは違う!!助けてラファ!!!!これ本当にどういう状況!?!?

 助けを求めるため隣に座るラファに視線を送るが困惑したような表情だった。


 あきらめよう


 と口パクで言われた。そうか…そうだな。人生諦めも必要だ。そうしよう。

 取り敢えず口元に入ったままのスプーンを取り出し皿の上に置いた。


「お久しぶりですシェイさん」

「ローズちゃんお久じゃのう〜」

「あっそっか。フェトゥラリィの六家同士で親交があるからか。」


 妙に納得した面持ちで菫が一人頷いていた。

 そう言えばマフィアートの愛娘は国境警備隊魔法技術班の副団長を務めていると聞いたことがある。恐らく彼女…シェイの事だろう。

 後、登壇していた時は絶妙に見えていなかったが、本来の耳ではなく先が尖り、ルビーが輝く大人っぽいデザインのイヤーカフがつけられていた。見た感じ異界人とのハーフに見える。


「こらっ。シェイ!勝手に人様のお膝に座ってはダメでしょう!」


 今度はヒョイっと下から上へとシェイが浮かび、たどり着いた先を見ると副会長であるウィリアムが居た。


「それに勝手に人の口にご飯を突っ込まないでください。単純に危ないです。」


「ん。すまん」と素直に頷きウィリアムの腕の中で少ししょぼくれていた。いつの間にか隣に子供用の小さい椅子が用意されていたが、何故かオレの膝の上が居心地がいいと駄々を捏ね始めたのでウィリアムにペコペコと謝り倒されながらオレの膝上へと帰ってきた。


 その代わり隣にウィリアムが座る形を取って収まった。


「すみません。お気を悪くしないでください。如何せんこういう御方なので……」

「全然大丈夫。というより、何故オレの所に来たのかが知りたい。切実に」


「むぅ。明確な理由は無いんじゃ。でも何となく居心地が良さそうじゃと見台越しに思って来たのじゃが…どうやら大当たりだったようじゃ」


 そんなドヤ顔で仰られましても……というか、見れば見る程、ロリだなぁ。少女って言うよりロリって言う言葉の方が似合う。愛らしさが凄い。


「ん。そうじゃ。後でもう一回ステージに立つから四人ともその時はついてくるのじゃ。」

「オレ?」

「ボクもですか。」

「?」

「何かありましたっけ?」


「うむ。発表することがあるからな。」


 発表すること……何があるんだろう。

 四人で顔を見合わせたが、これ以上シェイは教えてくれなさそうなので大人しく四人とプラス二人で談笑しながら食事を続けた。


 うん。ウィリアムが持ってきてくれた岩陰地鶏のマカロニグラタンが美味しい。これも作ってみたいな。

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