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3枚目

「あら、新入生?」

「はい!オレ四國瞳って言います。学校探索をしてるんですが、水晶宮の中に入りたいなぁと思って!」


 寮から出てすぐ近くに花壇の花々に水やりをしている園芸部と思われる人に水晶宮に入る許可を取るために話しかけた。


「ウフフ。全然良いわよ〜そのカメラでじゃんじゃん綺麗なお花たちを撮ってちょうだい?それで良かったら…あ、私小町って言うんだけど私にくれたりしない?」

「あっズルいよー!僕瑛人!僕にもちょうだい〜瞳ー!」


 小町さんから入室許可を頂く話をしていると後から他の花壇の水やりをしていた瑛人さんもオレ達の話を聞いて颯爽と現れた。


「ちょっと〜!水がかかりそうになるからダッシュしてくるのやめてよ〜水がかかっちゃダメなお花さんも居るんだから!もぉ〜……」

「あっ、やっべぇそうだった……ごめんなさい」


 辺りを見回していると水がかかると枯れてしまう植物『ディモノ』が咲いている花壇を見つけた。


 ディモノの見た目は可愛く、珊瑚色をした小さな花が沢山咲く水を余り必要としない花だ。確か、太陽の光で栄養素を補給し、空気中にある水蒸気の水分だけで生きていけるとか。


 実際、花に水をかけると水分の過剰摂取で数日後には枯れてしまうんだそう。

 薬効も確か、栄養補給関連で何かあったはずだが、オレもそこまでは知らない。


「っと、ごめんね?ちょっと目の前で説教しちゃって」

「いえいえ!植物たちを大切にしてる証拠ですよ。」


 そう言うと二人は目を見開き少し照れくさそうに笑った。


「ヘヘッなんか照れるな!」

「ウフフ。確かに、そう言ってくれると嬉しいものがあるわね?じゃあ改めて。私たち園芸部の自慢の水晶宮存分に味わって下さいな。」


「! はい、勿論!それと写真。現像した後に届けますね!」


 小町さんと瑛人さんは「わぁーい」と二人ハイタッチしながらキャッキャッと静かに喜んでいた。


「じゃあ何か用があったら二番目のガラスハウスか、部室に居るからね〜」と水やりのジョウロとホースを持って去っていった。


 よし。腕がなりますね自分。張り切ってめちゃめちゃかっこ良くて美しい写真撮るぞー!

 そうだ…(さち)と植物のコラボレーションも良いかも!


 ♦◆♦


 生暖かい風がそよそよと吹き晒す水晶宮の室内。前後左右には目が浄化されるような美しい色彩を持つ花々が咲き誇っている。


 ふと温かさが増したと思い、右上の花壇を見上げるとそこには花弁の中心から先端にかけて煌めくゴールデンイエローとファイヤーレッドのグラデーションが輝く美しい花が目に入った。


「こっ…この金色を彷彿とさせるゴールデンイエローはかの有名な『美しいものには棘がある』の代名詞とされている煌爛華(こうらんか)………!!!ひぇっ……」


 煌爛華とはゴールデンイエローの美しい光で辺りを照らし、熱を帯びているため、昔から暖房付きの明かりとして冬によく各家庭でランタンとして使われていた花だ。


 しかし便利な反面、その花弁は防御耐性が無いまま触れると爛れてしまう。まさに美しいものには棘があるとはこの事。


 カシャッ


 ふむ。さーてさて今日の所はとても美しく撮れたことですし退散しま……お?


「ちょぉぉおおおおおお!!!!!幸ぃぃぃいいいいいい!!!危ないって危ない!!!煌爛華に近寄っちゃダメだよぉぉおおお!!!!いい子だからやめてぇぇぇええっ!!」


 方向を変えて次の所へ行こうとするとなんと幸が煌爛華の周りを舞っていた。急いで煌爛華の花壇へと舞い戻り幸が煌爛華に触れぬよう手を器にして守ろうとした。


「あっちょっと動かないでぇ幸ぃ死んじゃうよぉ………(涙)あ!危なぁぁああああ!!」


 幸が他の場所へと向かって飛んで行く為、羽を広げるとオレの瞳には幸の羽が煌爛華に当たる直前の映像がハッキリと見え幸を守るため、瞬間的にその場へと手が伸びた。


「っ!!!!……………………あれ、熱くない?」


 煌爛華に触れたであろう手を見ても火傷や爛れた痕は何一つ無いツヤツヤの自分のお手手だった。

 なんと自分には煌爛華への耐性(?)があったみたいだ。


 何それスゴーイ!!!でも何でだろうか?

 …………まぁ、いっか!このせか((ry


「んもー!幸!ダメでしょうがっ!オレが煌爛華への耐性が無かったらどうしてたのさ!めっ!!」


 幸は分かったのか分かってないのかフワフワとその場を舞っている。いや、絶対分かってない。


 このお転婆さんどうしましょ。


 ♦◆♦


「あ!あれって異界の旅人って云われる『トキイヅル』だ!」


 煌爛華事件が起こった後再び水晶宮の散策をしているとそこには滅多に見られない異界を転々と渡り、旅をしている希少な『トキイヅル』を発見した。


 見た目は完全にトキなのだが羽先の色が若干コーラルピンクのグラデーションになっている。


「やばっ…めっっちゃレア……!水晶宮の植物に映えてとんでもなく良い…!!!」


 少し興奮気味な心意気を抑えつつカメラを構え最高の瞬間をカメラに収めるため慎重に近づく。


 何故か、トキイヅルはポゲェとしていてその場を1歩も動かない。オレにとっては最大のチャンス…!


 カシャッ。


 この温室を覆うガラスに乱反射した陽の光がトキイヅルと周りにあった草花を照らしている非常に美しい情景を撮ることが出来た。


 はわぁ……♡


 良い!!!綺麗すぎる……これはいつもより更に目に焼き付いて離れなくなっちゃうなぁ


「これワンチャン写真館に持っていったらオレの名前残ったりするんかなぁ。写真提供しに行こっかな…」


 写真館への寄贈を本気で考えながら再びカメラを向け色々な角度からトキイヅルを撮りまくる。


 にしても本当に静かだな。普通は少し動いたり鳴いたりする物だと思うのだが、本当の本当に動かない。無だ。


 え、今更だけど置物だったりしないよね?


 少し気になり抜き足差し足忍び足でトキイヅルの方へとゆっくり歩みを進める。


「い、生きてる…?」


 更に距離を詰めようと思い、一歩踏み出す。


「ぴぃぃいぎぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」


「がっ!?!?うぁあ゛ア゛ア゛!!!!!」


 突然のモスキート音に近い轟音の様な音がこの水晶宮に響き渡り始めトキイヅルに近づいていたオレは地面に倒れ込み激しい頭痛と耳の痛さに唸る。


「はぁっはぁっ……あ、頭が………割れるっ!?」


 やばいやばいやばい……!頭がガンガンして割れそう!?!?心做しか吐き気と目眩もしてきた…


 え、オレ死ぬ?死ぬの??て言うか幸何処??オレを置いてどっか行っちゃったって言うの?


 オレ、幸の為に尽くしてるはずなのに嫌われてるの??


 トキイヅルが発せられていると思われる轟音は鳴り止む気配がせず、唯ひたすらにその轟音に耳をやられ体に起こる様々な症状を感じ取りながら卑屈なことを考え始める。


(あ、これ…ダメだ………死…ぬ…?)


 身体の中の何かがプツンとと切れたような音が鳴り、薄ら開いていた目が閉じかけた時水の中に居るかのようなくぐもった声で誰かに話しかけられたような気がした。


「.......て....よ。..........る。」

「だぁ……ぇ……?」


 一度閉じた瞳をもう一度開くため懸命に瞼に力を入れ細く目を開ける。


 視界の端に極彩色の鱗粉が舞っているのが目に入った。見紛うわけが無いあれは幸の謎の鱗粉だ。


 どうやら誰かを呼びに行ってくれていたらしい。だが、耳の奥で僅かな耳鳴りがしているのでまだ轟音は鳴り止んではいないはずなのに、この人は無事なんだろうか……?


 そうこう考えていると突然耳鳴りが消え、周りの音が綺麗に聞こえ始め激しい頭痛や吐き気も治まった。


「あれ………?治った…?」

「うん。これでもう大丈夫だよ。」


 そう言って微笑んだのはオレに膝枕をしている毛先が少しくせっ毛な薄いエメラルドグリーン色の髪をした青年だった。


「え、どういう状態?これ。」

「この極彩蝶がボクをここまで案内してくれて、そこにはトキイヅルの求愛の鳴き声で失神しかけてた君が居た。それでボクが治癒魔法を施したんだよ。」


 オレの情報が入り交じって混乱している頭をポンポンと撫でながら状況を分かりやすく説明してくれた。


「そっか……なんかごめんね。ありがとうお陰で助かったよ。オレは新入生の四國瞳。」

「フフ。どういたしまして。役に立てて良かったよ。ボクは……」


 そう言いかけて彼は口元に手を当てクスリと上品な微笑を零した。


「ボクは瞳君と同じ新入生のレナート・エデンリーワン。刺激的な出会いだからこれはもしかしたら天啓なのかもしれないね?」

「天啓かぁ……確かにそうかも!じゃあさ、折角だしお互いの名前をお互いしか言えない名前で呼び合おうよ」


 オレは勢いよく上体を起こして、レナート君に向かい合って座り直し、提案するとレナート君は「うん。良いねそれ」と賛成してくれた。


「うーん……そうだなぁ…()()っていうのはどう?」

「よみ?」

四國瞳(よつくにひとみ)の端と端を取ってよみ。どうかな?」


 レナート君のネーミングセンスにオレ驚愕。なんでそんなにカッコイイ名前が思いつくんだ……


「え、何それカッコよ!!!オレそれがいい!あ、そう言えばオレ。ネーミングセンスないから絶望的な名前になりそ〜……」

「ん〜………じゃあ、ボクのミドルネームの『ラファ』って呼んでよ。」


 ミドルネームという、オレには無い名前に心の昂りを感じ、湧き立つワクワク感と言い表せない何だか懐かしいような感覚が胸をザワつかせる。


 じんわりと広がる温かさ。これはきっと歓喜の感情なのだろう。


「フハッ。なんか二人だけの秘密って感じがしてワクワクするな!これからよろしく()()()!」

「!…… うんっ。よろしくね()()!」


 ラファは出会って数分の中で一番のはにかんだ笑みを目一杯顔に浮かべ上気した頬には一つの雫が零れ落ちた。


 それは深く濃い宝石の様なロイヤルブルーの瞳から零れた一粒の涙だった。


「わっ!大丈夫?」

「うん。ごめんね、だい…丈夫だよ。嬉しくてつい。」


 嬉し泣きをしているのだろうか?だとしたら嬉しい。もしかしたらオレがラファの初めての友達になれた瞬間なのかもしれない。


「本当に、ありがとう。ボクの目の前に現れてくれて。君は…よみはボクの光だよ。」


 ラファは少し潤んだ瞳でオレの瞳の一番奥底を見つめ敬意の篭った感謝の言葉を満面の笑みでオレだけにしか届かない声で囁いた。


「フハッ。そんな、大袈裟だよ~」


 この表情と声……オレはラファを、何処かで見た事がある気がする。直感的にそう思ってしまったのは何故なのだろう。


(ん〜……気の所為?まぁ、何処かでは会ったことある筈だよね。同じ世界で暮らしているんだし……)


「良くあること」と結論付け、今度はラファと共にこの水晶宮を散策することにした。

めちゃめちゃ遅くなりました(笑)


話数毎に文字数の変動が有りますが、お暇な時に読んでいただけると幸いです(o_ _)o

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