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33話

 

 吃驚した衝撃で集中力が切れ、ボックス内に漂っていた虹色の靄は見えなくなった。


「………あれ、無くなった…」


 息を整えながら険しい顔をしていたアイザックさんはそう呟き、辺りを見回す。


「中々硬かったなぁ……」

「三人とも大丈夫??」


 アイザックさんの後ろから顔を覗かせたのは拳をさする萌餅とラファだった。


 この状況を呑み込めていないオレ達はただ立ち尽くしたまま頷いた。


「え?何事??」


 桧は、豪快に破壊された扉と見比べながらやっとの思いで疑問を口にする。


 すると、息遣いの落ち着いたアイザックさんが姿勢を正し、咳払いをする。


 よく見れば、目の下に隈がある。今日もあまり眠れていないのだろうか。


「さっき、この辺で異界の者の気配がしてね。もしかして入口が開いてしまったのではと思ってここに来たんだけど」


 くるりとその場で一回転し、肩をすくめる。


「ここに来た途端、気配が無くなってしまった」


 アイザックさんはホッと安堵したかのような声色で言うのと同時に、何処か訝しげな表情を浮かべた。


「中暗っ!!なんかカラフルでパーティーみたいじゃない!?」

「カラフル?」


 ボックス内を覗き見て、外との明暗の違いに目を白黒とさせた萌餅が叫び周囲を見回すと、いつの間にかボックス内には幸が居た。


 なんだ。このクラブみたいな虹色の光はお前のせいだったのか。


「てか、何してたの?こんな真っ暗な中で」

「触った感じ遮光素材っぽいねコレ……」


 ボックス内でロイヤルブルーの瞳を輝かせながら、真っ黒い壁をさわさわと手で確認し、ラファが即答する。


 触ってすぐに分かるラファはやっぱり凄い。イケメンってスゲェんだ。(小並感)


「能力の最大出力を出そうと思ってさ。気休めだけど、光耀の最大出力で放出される光を抑えるようにって思って形成したんだ」


「あ〜!このボックス桧君の能力か!」


 納得した様に頷く萌餅に桧がその通り!と大きく頷く。


 肝心な最大出力はまだ出せてはいない為、それが確実に成功するかどうかというのはまだ実証されてはいない。


 チラと光耀の方を見ると、未だにオレの加護の力で少し発光が収まっている。


 再び踏ん張って最大出力を出してみない事には今後のオレの能力制御がいずれかは切れてしまうので、光耀の生活習慣に影響が出てしまう。


「…………それなら、よみが次席権限の能力増幅を付与したら良いんじゃないかな?」


 思いついたかのような声色でラファから告げられた内容に、オレを含めた皆があっと思い出したようにオレを見つめる。


 そう言えば、オレは能力を抑えると同時に力の使い方を変更する事で逆に、能力を引き上げる事も出来るのだった。


「勿論、ボクがやっても良いんだけどせっかくならよみがやってみなよ」

「でもラファ。オレそれやった事ない」

「ん、大丈夫だよ。よみにならできる出来る。」


 いや、できる出来るじゃないよ。やったことないんだってば。


 抗議をしようと思い、ラファに訝しげな目を向けると何も変わらずニコニコと笑ったままだった。


「………何を根拠に……う〜ん」

「自力でやってこそ成長の一歩って事?」


「光耀までそんなこと言う……オレの味方は………?」


 自力でやってこそ成長の一歩。確かにそうだけども、やり方が分からなければやりようがないではないか。何より光耀の一大事なんだぞ?そんな悠長にしていたら今日中に終わらないかもしれないじゃないか。


 光耀はオレと同じく魔法が扱えない為、その感覚が分からないと言うような目をしていた。


 応援の気持ちを込めた生暖かい視線を向けてくる桧や萌餅、ラファに至っては静かに微笑むだけ。


 オレの味方はフワフワと自身の周りを舞う幸のみ。


 お前は今日も美しいな。


 すると、オレ達のやり取りを聞きながらずっと辺りを見回していたアイザックさんが一段落着いたのか、こちらへと向き直る。


「………能力増幅なら、相手の魔力をパッと解放するイメージを作ってみるといい」


 何気無さそうに告げるその言葉に、内心簡単そうに言いやがってと思わなくも無いが、魔法技術とはいわばイマジネーション。


 集中力と想像力によって力量が左右される代物。


 要はやりたい事を明確に想像すれば実力に見合った事なら大概は実現可能という事。


「バッと………ねぇ…………」


 今一度、隣に立つ光耀に目を向け、ジッと見つめる。


 光耀の胸あたりを一点に視線を固定し、集中力を高める。


 ワントーン周りの音が聞こえづらくなったのを確認し、胸あたりから目を外すと、光耀の全身から虹色の靄がゆっくりと流れる様を目で捉えた。


 先程も見えたこの靄。


 何かが分からなかったけれども、冷静になって考えた今。


 オレの能力は、優れた動体視力と場面瞬間記憶能力に加え、色彩感覚激化が備わっている。


 桧によれば、魔力の色は無色透明だと言っていたが、もしこれが通常の人間には認識出来ない色素なんだとする。


 そうすれば色彩感覚激化と言う能力を持っているオレだけがこの虹色の靄が見えているというこの状況に説明がつく。


 それに、光耀を取り巻くこの虹色の靄は光耀が媒介として使おうと思っていたアイマスクにも幾らか纏っている。


 であれば、これは間違いなくオレにしか見えない可視化された魔力の靄。


 認識できるのならば話は早い。


 オレが集中し始めたのがわかったのだろう。桧は破壊されたボックスの扉を元に戻し、一枚紙をちぎって上書きしアイザックさんやラファ達と一緒に扉を閉める。


 再び暗がりに包まれ、光耀も目を閉じ意識を集中し始める。


 それと同時に瞳に映ったのは、これまでとは比べ物にならないぐらいの虹色の靄。


 何処からか流れ出てくる靄を自身に吸い込みながら、何かの感覚が掴めているのを肌で感じつつ心で唱える。


(爆散………爆散……爆…………散っ!!)


 光耀が纏った虹色の靄を爆弾が爆発させるイメージで思いっきり散らせる光景を思い浮かべる。


「爆ぜろ!!!!」


 瞬間、ビクッとした光耀が何かを発する前にカッと目の前の色が白く飛び、同時にアイザックさんと桧が前に進み出て防御結界を展開させる。


「ギャッッッ!」

「よみ」


 目を瞑っても眩しいと感じる程の光線に苦しんでいると耳元でラファに名を呼ばれ、何かが目元に添えられるとじんわりと暖かくなる。


 すると徐々に眩しさが和らぎいつの間にか強ばっていた肩の力が抜けていく。


 スルッと両腕を掴まれ、首から下げていた魔導式カメラを手に持たされた。


「目は開けなくて良い。能力を抑えるから構えて」


 そう告げられた後すぐ、ラファの手と思われる腕に包まれたまま、共にシャッターを押す。


 カシャッ


「わ…………も、戻ったぁ……」


 そんな光耀の安堵しきった声が耳に届き、ゆっくりと瞳を開ける。


 防御結界をを展開していたアイザックさんと桧の前に立っていた光耀の周りにあった輝きは忽然と消えていた。


「お!光耀!全く光ってないよ!」

「ほんとだ!普通の人間!」

「俺は元々普通の人間だけども!でもやった!」


 無事に最大出力を発揮でき、尚且つ常に漏れ出ていた自身からの発光が完全に無くなった事に感動した光耀が桧に抱きついた。


 オレがほとんどやったのにな〜と思わなくも無いが、一先ず成功した事が分かり、一つ息を吐き出す。


 キラキラと緑色の鱗粉を振りまく幸を視界の端で捉え、支えてくれたラファの方へと向き直る。


「ありがとうラファ。目元に治癒魔法かけてくれたんだよね」

「……ふふ。大事なくて良かった」


 ニコッと笑うラファに幸が擦り寄り輝く鱗粉を散らせていく。


 先程ラファにサポートされながら発動した能力制御の為に撮った写真を確認する。


 魔導式カメラのアルバムに写っていたのは暗いボックス内で白く眩く発光した光耀。


 オレの能力制御の条件は、制御をしたい者がカメラのフレーム内に映り込むことにより発動するらしく、この状態はそれを満たしている為無事に成功した事が確認出来る。


「………に、したってこれは……」


 ボソリと呟いた声が聞こえたのか、ラファが再び近づき、そっとカメラのアルバムを覗き込む。


「………わぁ……」


 二人で顔を見合わせ、喜びに打ち震える光耀と桧とアイザックさんが居る方へと視線を移す。


「こりゃすげぇ……」

「さながらこれは閃光弾ならぬ……閃光線、って所かな?」


 苦笑いするラファを盗み見ながから思わず自分の頬も破顔する。


 これはまた、騒がしくも寂しがり屋な友人が少し頼もしくなった物だなと嬉しいながらも少しばかり光耀を羨ましく思った。

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