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32話

 

 ボックスの中は全面黒塗りながらも、どこからか淡い光が灯っているため、暗いとは感じなかった。


 小さなワンルームの様なここは男子三人で入ってもまだ余裕があるぐらいの広さだ。


 それにこの黒塗りの空間にいるからなのか、光耀の輝きが若干薄れて見える。


「なんか不思議な空間……」


 天井に張り巡らされたガラスから差し込まれる太陽によって明るかった実験演習棟から一変した、暗がりの多いこの空間。


 目が慣れるのには少々の時間を要する。


「それで、どうやってその最大出力を出すの?」


 淡く発光する自身が眩しいのか、少し瞳を凝らしながら桧に問いかける。


 当の本人である桧は手元に持っているスケッチブックに何かを書き出していた。


「そのことに関してだけども………瞳君!」

「ん?」

「瞳君は前に次席権限を扱う為にレナート君に加護の形を把握する特訓をしたでしょ?」


「あぁ、確かそんなことしたね」


 それは先日初めて合同授業を行った時。

 菫と魔法技術を扱ったことのないオレにそれぞれローズとラファがマンツーマンで能力を扱う基本の流れを指導してくれたのだ。


 桧は人型の周りにオーラが描かれたイメージ図をこちらへと見せる。


「その時の物は次席権限の影響で付与された後付けの能力だったから自身の外側の感覚を認識するじゃない?」

「うんうん」


「その反対で、この光耀の能力は自分の体に定着した能力という事」


 すると、光耀の手首を取り掌を空けさせその中心をトントンと突く。


「つまりは、体の中で血液と同様、循環している魔力の感覚を認識して溢れているものをギュッと仕舞い込むイメージを作れば、能力が抑えられる。じゃあその反対は?」

「パって体から追い出せば能力が出る……?」


「正解!その応用で、ギュッと魔力を圧縮させたまま放出すれば、反動で最大火力が出るのさ」

「「ほぉ〜〜」」


 言葉にされるものの、あまりにも経験したことの無い作業故に現実味が帯ず、光耀と共に納得した様なしてない様な曖昧な返事を返す。


 そんなオレ達を見てか、桧はこれ見よがしに持っていた羽根ペンをこちらへ見せつける。


「自分の体に仕舞い込む感覚が分からなければ、自分だけの媒介を決めてそこに魔力を預ける感覚を補えば良いんだよ!」

「媒介を決める……」


「そう!例えば瞳君だったらそのカメラとか良いかもね!媒介にする物は自分と常に近くにあった方がいいから」


 首から掛かったカメラを見下ろし、考えを巡らせる。


 桧の話によると、オレ達の様な魔力の少ない者は魔力の容量が少なく本能的に感じずらく、また、制御もしずらい。

 その為、仮に最大出力を出せたとして、放出された魔力を体内に戻すことが苦手な事が多く、大体の場合二次被害的に暴走しやすくなるらしい。


 そりゃあそうだろう、普段少ない魔力を体内でやりくりしていて、その微々たる魔力を少しずつ蓄積。圧縮する。


 それを風船を弾けさせる様に爆発的に放出するのだ。体の中に魔力を戻す感覚が分からなければ、魔力回路の破裂痕から止めどなく自身の魔力が垂れ流され続けるのだから。

 

 これを媒介を介さず自身の体の中で行なわれた場合、魔力が多い者等は魔力操作に関する本能が備わっている為何の問題も無い。

 が、オレ達のような魔力が少ない者は本能が備わっていない。

 その為最悪、回路の破裂痕から魔力が溢れ続け魔力欠乏により命に危険が及ぶ可能性が出てくるらしい。


 所謂、最大の出力とは、火事場の馬鹿力なのだ。


 それをリスクなく行うことが出来るのが、媒介を介した魔力の出力なんだそう。


「じゃあ、早速やってみようか」


 そう言って桧に促されるまま光耀と共に目を閉じ意識を集中させる。


「魔力の色は無色透明とされているから、殆ど血液と一緒に体全体に行き渡っていると思って」


 血液を感じる為、自らの手首の血管を探り当て脈拍を感じる。


 心臓から送り出された血液は、血管を通って各種臓器に送られまた心臓に帰ってくる。


 肺、脳、筋肉、消化管、腎臓等。


 血液に混じりこんだ魔力が体全体に行き渡る途中、己の能力の根源である眼球付近に流れ着いた魔力を瞳に移すイメージを描く。


 流れ着いた魔力を瞳に溜め込み、再び心臓から流れ出る血液を辿るようにして瞳に持ってこさせ、集めて、集めて、集め…………


 背筋がゾワッと粟立ち、武者震いが起こると熱くなった瞳から熱を冷ますためゆっくりと瞼を開ける。


 徐々に露になる光景に息を呑み、思わず瞠目する。


 暗いボックス内全体が、淡く虹色に照らされ、まるで蛍の群れを見ているかのような靄がかかっていた。

 一層輝く方へと目をやると、光耀の体の数カ所が虹色の光を纏い、発光していた。


「……は?え??」


 訳も分からず光耀を見守っていた桧の方へと視線を向け、何かを見ていた桧と目が合う。

 すると、彼もポカンと口を開け驚いたかのように瞳を大きくさせた。


「瞳君……の、その瞳……」


 何かを言いたげだった桧の言葉を遮るように、くぐもった声が段々と近づきこのボックスの入口の方から衝突音が聞こえ扉がこじ開けられた。


「「「!?!?」」」


 暗闇を照らすような外界の眩しさがオレ達を襲う。


 目を凝らして見やれば、首から掛けられた眼鏡が揺れているのが分かった。


 人物を把握する為に目線を上にあげて行けば、そこに立っていたのは肩で息をしながら扉に手を掛けていたアイザックさんだった。

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