表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/38

28話

 

 日が傾き、夕焼けが建物に反射し景色を全て茜色に染め上げている。


「さてと。早めの夕飯で腹拵えも済ました所で、早速アイザックさんに会いに行こう!」


 まだ部活動を終えていない人が居る中、早々に夕食を食べ終えたオレは、相棒の魔導式カメラのヘルと極彩蝶の幸を連れ寮の前で立ち尽くす。


 萌餅から頼まれたアイザックさんの食堂に置き忘れたであろう巾着を届けに行くミッションを今から遂行しようと思う。


「あれ?そう言えば、アイザックさんって何処にいるんだっけ?」


 脳内の記憶を辿り、証言を思い出してみてもアイザックさんの居場所を教えてもらった記憶が無い。


(え、やべぇ。何処にいるか萌餅に聞くの忘れてた……)


 時間的にもまだ寝る時間では無い。それに萌餅は昼まで寝ていたので恐らくまだ起きているだろう。


 ……………。


 いや、なんか今から戻るのも面倒臭いな。


 …………………………。


 うん!!もういいや!自力で探すもんね!!!!


 熟考の末、寮には戻らずなんの情報もなく探すことにした。

 ただ面倒くさくなったと言う理由で今ここで、萌餅にアイザックさんの居場所を聞きに行かなかった事を直ぐ様後悔することをオレはまだ知らない。


 ◇◆◇


 とっぷりと日が暮れ、星が輝き始めた。

 寮の方向を見やれば、それぞれの棟の窓から漏れ出る室内灯が多くなっているのが遠目に見えた。


 傍らには暗闇にキラキラと輝く幸が静かに舞っていた。


「えぇ〜??何処ぉ??寮も行ったし、科学部の部室にも行ったよ??」


 敷地が広い舞闊。まず、出発する前にアイザックさんの自室に赴いていたが、その時点で既に寮には居なかった。


 であれば、この舞闊の敷地内にある何処かの施設に居るのは確かな筈なのだ。


「ぬぉおおお………こうなるんだったら、面倒くさがらずに大人しく萌餅に聞いておくんだったぁ…………」


 今から行っても、きっと既に女子棟の自室に帰っていることだろう。


 もう手遅れだ。


 近くのベンチに腰掛け、空を見上げる。

 晴れた夜空は星が輝き、いくつもの光が空いっぱいに広がっている。


 鼻の上に止まった幸がゆっくり羽を動かしながら羽を休める。


「いや、何処で休んでんねーん……」


 視界が、藍色の空と極彩色とで交互に覆い被さる。


 ギラギラとした視界は目に毒かのような眩しさだが、同時に美しさが勝る。

 実際、眩しい訳では無いが如何せん主張が激しい。


 夜空に極彩色のフィルムを掲げてぼーっと空を眺める。


(……………。なんかあの星、段々大きくなってない??)


 見つめる先の一際輝く大きな星。それが徐々に徐々にズームアップして行きながら更に輝きを増す。

 不思議に思い、瞬きをすると星は元の大きさに戻り、何時ものなんて事ない夜空が目の前に広がる。


「………ん?これってもしかして。オレの能力なのでは!?!?これ前に経験したことある!!!!」


 先日の初回合同授業の際、自身にかかった加護の形を認識し、集中力を高めすぎたけた結果。

 視力が極限的に良くなりオレが持っている固有能力である《地獄瞳》が発動されたと思われる。


 今の状況を空のあの星を一点に見つめ、必然的にその事柄に対して集中していたのだと仮定すれば………


「オレ!なにかに集中したら能力使えるのでは!?」


 まだ本格的な能力の出力の授業をやっていないにもかかわらず、自分で固有能力の扱い方を感覚的に掴むことが出来てしまった。


 とあれば、これを使わない手は無いよな。


「ん〜……確か萌餅からの情報によると、アイザックさんは普段使いの眼鏡に加えて、能力用の魔導式眼鏡を首から下げてるとか」


 目的であるアイザックさんを探すという事柄に対して集中する為、萌餅から教えてもらった身体的特徴を頭に思い浮かべる。


 容姿の特徴を聞く限り、特殊であることには変わりないのできっと見つけるには苦労しないだろう。


 さて。ではまず座った状態のまま力を行使して、この近辺のどこかに居ないか探す所から始めよう。


 ”探す”と言う単語を己の中で強調し、その一点だけに集中する。

 背中から全身がゾワゾワするのを感じながら、瞳を開き辺りを見回す。


 ここは実験棟の近く。研ぎ澄まされた己の瞳で真っ直ぐ見れば、寮の窓に沢山の人が寮内に居るのがまざまざと分かる。


(取り敢えず、成功っと……)


 見る限り寮内にはそれらしき人物は見当たらない。様々な方向を探してみるもそもそも人影を見かけることがない。


 それもそうだ。もう夜なのだから用のない人たちは皆寮に帰っている時間だ。


 であれば、夜型の生徒が居る施設にアイザックさんも居る可能性が高い。


「幸。オレには今二つの心当たりがある。どっちがいいと思うかい?」


 煌々と輝く幸に語りかける。返事をする筈が無い蝶相手に何を言っているのかと思われるであろうこの状況。

 実際、喋りはしないが、こういう時の幸のふわふわと舞って行く方向に失せ物・失せ人が居た事が過去にあったりする。


 幸が舞って行く方向は舞闊を取り囲む森。


 キラキラと振り落として行く極彩色の鱗粉はほんのりと白く発光しており、自らの肩に降り注ぐ。


「ん!?この方向もしかして月夜見さんの……!?」


 森の中に入ってしばらくして、そんな仮説が立った。

 深い森の中を見渡せば、ここは立ち入ったことのない森。


 あれ?もしかして、この間辿ったルートとは別の道筋で行こうとしているのか??だとすれば、若干の方向音痴プラスこの暗がり。


 今の道標である幸が居なければ最悪遭難しかねない。


「っ!!ったっ!!」


 視力をキープし続けているが故、近くの木々に気づきにくく既に腕や顔に小枝が引っかかり、大量の擦り傷を作っている。


 だが、そちらに意識を向かわせれば、能力が扱えなくなる可能性があるため、安易に意識をそらすことが出来ない。


 段々と開けていく森に期待を抱き前を見据えると見覚えのあるベランダと屋上に、置かれたティーカップと人影を瞳が捉えた。


「やっっっっっと!辿り………つけるっ!!」


 ドサッ


 駆け出した足は縺れかかり、木々が周りになくなった瞬間オレの視界は地面を捉えていた。


「あら、こんばんわ。大丈夫??」


 予想通り月夜見さんの声が頭上からかかり、見上げると目的地はここだと言わんばかりに幸が高く舞い上がっていた。


「つ、くよみさん……アイザックさんは………居ますか……?ウッ……ぁああぁ視界キモイィ……………」


 幸を追っていた瞳は、集中力切れによって歪みながら拡大縮小し始め、元の視界に戻ろうとしていた。


 小走りをする足音が響き、止まったと思った瞬間再び顔を上げる。


「んふふ、居ますよ。アイザック君御客人ですよ」


 不快な視界の中、聞いた月夜見さんの回答に先程までに居なかった人影を見つけた。

 徐々に普段通りの景色になった瞳で月夜見さんの隣に立つ人物の瞳を見つめ返した。


「あぁ居た〜……良かったぁ」


 嬉しさから自然と笑顔が零れ、やりきった感から睡魔が襲い始めてきた。


「あぁ……アイザックさん………萌餅からのお届け物です。どうぞ……」

「………僕に?」


 懐から萌餅から預かったシンプルな巾着を取り出す。


「あら?これはアイザックくんの魔導式レンズの……あれま。ここで寝てしまったら風邪をひいてしますよー」


 宵闇に小屋からの暖かな光が照らされた月夜見さんはさながら月下美人と言うもの。

 儚げな表情の彼女には静かに輝く月が最高の相棒のようだ。


「あ、あぁ……美しい………」


 パシャ


 力を振り絞った腕で自らの魔導式カメラのシャッターを切る。

 背後から月の光を浴びる月夜見さんはまるで月の加護を得た精霊。これは美しい。



「ミッション………コンプリィ〜……ト…」


「「あ。」」


 二人の唖然とした声を最後に現実にあった意識は既に夢へと深く潜ってしまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ