27枚目
※今回は瞳とは別視点でお送り致します。
「もし?あの色モーブだと思います??」
「うん?うーん…ライラックじゃない?モーブの時の槍雨はもう少し分かりやすいと思う」
満点の星空の下、一筋の赤い光を空に放ち天体観測を行う星輝と共に空を見上げる。
赤い光が自らの眼鏡に反射し、星光る夜空を少し赤色に染める。
耳を澄ませば夜行性の生き物達の鳴き声が絶えず聞こえ、この事柄自体がなんの異変も無く平和な証拠である。
「うぅ〜ん確かに……槍雨だったらもう少しモーブが輝いて見える筈ですよね」
自作した天体気候関連表を見ながら唸りを上げる。
僕はアイザック・ワイアット。
自身の能力、『気配・空間察知能力』『情報管理能力』『情報伝達能力』を駆使し皆に情報を提供する『情報係』を担っている。
僕はその能力故、気配に敏感で皆が寝静まる時間帯はいつも眠れない。
その為、人の気配が分散している昼の間に寮の自室で眠りにつき皆が寝静まった夜に異界や来訪者の情報を解析、今後の対処法の検討をする事が日課だった。
その筈なのに……
「そう言えばアイザック君はもう夜はこれからずっとここで過ごしますの?」
「ん………今の所はそうだね……最近夜に寮にいてもいつの間にか寝てたことがあったから……」
ここしばらくの間、人の気配が沢山ある夜の時間帯。眠れない筈の僕がいつの間にか寝落ちている事が多発した。
昼に対処が出来ない代わりに、皆が寝静まって隙だらけの夜中に自分が持つ全ての力で舞闊に襲い来る不思議な気配や、こじ開けられた異空間をいち早く感じとり、夜型の生徒達と臨機応変に対処している。
異空間はおぞましく、来訪者の気配は僕達とは一風変わった気配をしているので現れた瞬間は必ず分かる。
だが僕の能力的には、この世界に入ってくる前の微弱な気配でも感じ取れる。
本来は異空間が開く前に危機察知が行えて、被害を事前に抑えることが出来る。
それなのに、昼も夜も寝てしまっては本末転倒だ。
その為、役割を遂行する事が困難になりつつある現状に少しでも眠気が来ないよう対策を講じた。
同じ昼夜逆転生活を送っている月夜見星輝が根城にしている森の中に建てられた天体観測兼、第二の天文部部室という名の星輝の住処で話し相手になって貰っている。
「寝落ち?気配に敏感で眠れないって言ってたアイザック君がどうして?」
不思議そうに目の前に座る星輝がこちらの瞳を覗き込む。
「前までは寮にいる皆の気配で意識が冴えて眠れなかったんだ。あ、あの星、彗星の予兆だよ」
「えぇ、前仰っていましたものね。あれはディマイラ彗星の予兆ですかね」
「だけど最近、新入生の中に恐ろしく大きなオーラ……いや……大きな存在感、かな」
ティーカップに注がれたダージリンティーが夜風に吹かれて水面を作る。湯気で少し曇った視界の中、カップを手に取り口に含む。
喉を伝って落ちていった紅茶はフルーツの華やかな風味が去った後、嫌味のない渋みが僕の口内を支配する。
「その子の気配が他の細々した気配を飲み込んで……まるでその子しか居ないような錯覚が起きて人並みに眠くなってしまう」
そう。この前の新入生が入った瞬間から何故か、無性に大きな気配を持つ誰かが入って来た。
それ故、寮に密集している多くの気配がその子の気配に掻き消され感じ取れなくなった。
お陰でいつも多くの気配を無意識に感じ取り冴え渡っている感覚が鈍くなり、昼間でもあまり熟睡出来ない事もあり自然と睡魔に襲われるようになった。
「アイザック君も結局は人の子、って事なのかしら」
「はぁ。本来は有難いんだけど、今は担っている事があるからなんとも……」
少し眠気が襲ってき始めた体を起こすために夜風に揺れる自身の前髪をかきあげ、首から下げているもう一つの眼鏡を掛ける。
このもう一つの眼鏡は特殊な製法で作成された代物。使われている魔導レンズには、僕の能力をサポートしてくれる機能が備わっている。
事前に紙に書き写した情報を転写魔術でレンズに付与し、魔導レンズに備わっている記憶術と僕が創り出した情報管理術・空間認識術等を付与させたれっきとした特製魔導具だ。
「それではアイザック君はその存在感が大きな子の見当って言うのはついているの?」
星輝は本棚から何冊の本を引き抜き、机に積み上げ今までの彗星や、流星群の記録を調べ始める。
「まぁ……いつも寮の男子棟から感じるから十中八九男子ではあ……る………?」
「ん?どうされました?」
意識を寮側に集中させ例の人物の気配を探ればいつも居る筈の場所に大きな気配は無く、以前のような細々とした多くの気配が留まっているだけで、どこにも感じ取れなかった。
(居ない……?いや、敷地内で頻繁に感じていたんだそんな筈は………もしかしてあれは来訪者?だとしたら尚更緊急事態かもしれない)
ドサッ
「!?」
突然近くの地面に生える草花に何かが倒れる音が耳に届いた。
夜行性の動物かと思い、意識をフッと寮側からここへと戻した。
ゾッ…ワワワワッ
全身の肌が粟立つのを感じ反射的にその場から後ずさりした。
「っ………なんっ!?」
「あら、こんばんわ。大丈夫??」
音がした方向に星輝が様子を見に行くと、おぞましい大きな気配の何かに向かって挨拶を交わし、梯子を伝い下へと降りていく。
近くには暗闇に色とりどりに輝く蝶が舞っていた。
「星輝、それは異界の………!」
「つ、くよみさん……アイザックさんは………居ますか……?ウッ……ぁああぁ視界キモイィ……………」
ふと、おぞましい気配が薄くなり、星輝が降りていった後を追いかける。
そこに居たのは地面に頬を擦り付け瞳を回した少年が倒れていた。
「んふふ、居ますよ。アイザック君御客人ですよ」
顔を上げ僕の瞳を見つめた少年は体のあちこちに擦り傷を作っていた。
「あぁ居た〜……良かったぁ」
にこやかに笑った少年からは先程のようなおぞましい気配は完全に無くなり、寧ろ嬉しさのような幸福感が心に湧き出る。
吸い込まれるような少年の瞳はとても綺麗な……極彩色だった。
恐らくこれが本年度書き納めでございます。
更新頻度雑魚すぎますね。(知ってる)




